
新型コロナ肺炎の患者による「食レポ」や高熱で手の震えが止まらない様子のレポート。
テレビのプロが記録したリアルな映像が続いた。
5月15日(金)、新型コロナ関連のニュースが一通り終わって、検察官の定年延長問題、さらに天気予報やスポーツのニュースが終わった後だった。
テレビ朝日『報道ステーション』が14分間にわたって富川悠太キャスターを含め番組関係者ら5人の新型コロナウイルス感染について初めて詳細に伝えた。
富川悠太キャスターと近い距離で打ち合わせをしたプロデューサー(40代)、総合演出(40代)。
さらに打ち合わせに参加したスタジオ解説担当のディレクター(30代)、ディレクター(20代)が感染したが、「スタッフ間の距離を保てていたか」など反省すべき点もあったと釈明しながら報道した。
特に40代の「総合演出」を担当する男性は一時は重症化した状態になるなどの一部始終を自撮りして記録していた。
テレビ報道の仕事をしているプロの人間が入院中の状況を克明に映像で記録して放送するのは日本では初めてだ。
「総合演出」というのは、テレビ番組の制作における内容面での司令塔だ。
ミスター『報道ステーション』と呼べる存在だ。
そんな立場の人間が自ら新型コロナに感染して入院した。
自らがこの病気の最前線を体験したのである。
なかなか実態がわからない新型コロナ肺炎について、映像にすることができるまたとない機会だ。
当然、関係者が自ら撮影しているに違いないものと筆者は想像していた。
その注目映像が放送されたのだ。
『報道ステーション』で「総合演出」を担当するのは伊藤賢治さん(47)。フリーアナウンサーの赤江珠緒さん(45)の夫でもある。
伊藤さんが自ら撮影した映像はさすがにテレビ報道のプロだけあって、これまでテレビで見たことがないほどリアルな詳細が記録されていた。
【発症】
のどの痛み。発熱38.3℃
【2日目】
熱下がらず。においも感じにくくなり都内の病院を受診
→X線検査で肺炎像。PCR検査
【3日目】
自宅で隔離生活
貧血のような症状で立ち上がれなくなる
頭痛や息苦しさ、吐き気
【4日目】
保健所の調整で都内の病院に入院
放送されたのは、この入院から退院までを本人が撮影した映像だ。
【4月14日 発症4日目】
(『報道ステーション』総合演出担当・伊藤賢治さん・47歳)
「今、熱を測っています。38.1℃ですね」(体温計をカメラに向けて示す)
(肺のX線画像=左側の一部に雲のような白い影があるところを指さして、声でレポート)
「私の肺です。ちょうどこのあたりに白い雲がかかったような状態になっています。これが肺炎だそうです」
(マスクをしてベッドに仰向けのままカメラ目線)
「現在の症状はやはり熱が高いのがしんどいなというところです。
インフルエンザのちょうどピークのころが、一番しんどいころがずっと続いているような感じです。
で、息を思い切り深く吸うと、(コン!コン!)せきこんでしまうというようなことが続いています」
上記の映像は点滴のアップから始まる。
これまで新型コロナ肺炎で入院した患者が自らを自撮りした映像を放送したケースはあったが、それらはすべて自分だけにカメラを向けたものだった。こうした病室の雑観まできちんと映像にするのはテレビ報道のプロならではといえる。
ナレーションでこの病院が4つの症状で患者の容態を分類していたと説明した。
【軽症】発熱・せきなど 肺炎があっても片側
【中等症】両側に肺炎 炎症あっても軽度
【重症】酸素吸入が必要 炎症も高度
【重篤】人工呼吸器やECMO(人工心肺器)が必要
伊藤さんは入院時には【中等症】という診断だったという。
解熱剤、抗生剤の他に抗マラリア薬としても使われる「プラケニル」を服用。
しかし夜になるにつれて症状は悪化していった。
その夜の伊藤さんの自撮り映像では、顔の皮膚が赤くなって表情が入院直後と比べても苦しそうなのがわかる。
(伊藤賢治さん)
「時刻は夜の11時になろうというところです。ひどい寒気が襲ってきました。夜になるとこうやって寒気に襲われて高い熱が続きます」
(体温計をカメラの前に示す)
「熱が39.3℃まで上がっています」
撮影しながら自分の状態を「レポート」して話すだけでなく、測った直後の体温計をカメラの前に示して「39.3℃」と読み取れるようにいていた。自分自身をも「素材」として扱うテレビ職人ならではの撮影だ。
【4月15日 発症5日目】
発症から5日目。熱は上がらず、食欲はない。
病院食のうどんと野菜の和物、バナナが載っているトレー。
その後でカメラを自分の顔に向け、伊藤さんは野菜の和物を右手に箸を持って食べる様子を撮影した。
(伊藤賢治さん)
「本当はおいしいんでしょうけど、やはりまだ味がしません。味覚がほとんどわかりません。ちょっとしゃべると(コン!)こうやってせきが出るようになってきました」
右手に箸を持って食べながらの「食レポ」だ。
話しながら、その様子を撮影しているカメラも動いていたので左手でカメラを操作していたのだろう。
午後になって再び寒気が襲ってきた。
小刻みに震える自分の右手を撮影している。
(伊藤賢治さん)
「ちょっと震えが止まらない状態です」
今回、新型コロナ肺炎で高熱のために体がこれほど震える様子を自分で撮影した映像を初めて見た。
この日、PCR検査で陽性の結果が出たことでアビガンが処方された。
アビガンの錠剤9錠を載せた左の手のひらを自撮りした後、自分の顔に向けてカメラ目線で語る。
(伊藤賢治さん)
「アビガン、まず一度に9錠飲むように指示されました」
(飲むところも撮影)
アビガンを載せた左手のひらアップを撮影。その後にカメラを自分の顔に向け直して口の中に放り込むまでを撮影している。
カメラを右手で操作している。
自分自身を被写体として計算して撮影していることがよくわかる。
カプセルに入ったアビガンの錠剤のアップも撮影している。
アビガンはウイルスの増殖を抑える効果が期待されている薬だ。ただ副作用として胎児に奇形が起きる可能性があり、服用中と服用後1週間は注意が必要だとされているという説明がナレーションで入った。
【4月16日 発症6日目】
しかし発症から6日目となる翌朝にも熱は下がらず、息遣いも荒く、せきが続いて苦しそうな自分を撮影している。激しくせきこんでしまう。
(伊藤賢治さん)
「大丈夫かな…。せきが…さきほどから…止まらなくなりました。ちょっと…これは初めてのことです」
息が長く続かず苦しそうに話している。
血液検査の結果通知書を撮影。
血液検査の結果、炎症を示す数値が急激に悪化したとナレーションが入る。
血液の中の酸素の量を示す酸素飽和度も低下したため、酸素吸入が始まった。
この後に登場した伊藤さんは鼻に酸素のチューブを入れていた。
(伊藤賢治さん)
「(息を吸いながらレポート)確かに呼吸が楽です。
呼吸は楽なんですが、そんなに(自分の状態が)悪いのかということで、ちょっとショックですね。これは」
話はしやすくなっていることが画面からも伝わってくる。
ただ、このとき病状は悪化を一途をたどっていった。2日前の肺のX線画像と比べてみる。
(X線画像を並べた映像に、伊藤さん声でレポート)
「肺の外側に注目するように言われました。(指を指して)この辺のモヤモヤ、この辺のモヤモヤ。この白い部分が肺炎なんだそうです。そう言われると、確かに(白い部分が)増えているような気がします」
重症化した原因として主治医が考えたのが“サイトカインストーム”。
それは本来、体を守るはずの免疫が過剰反応を起こし、正常な細胞まで攻撃してしまう状態で、当時、人工呼吸器や人工肺ECMOが必要な重篤な状態にまで陥る危険性があった。
免疫の暴走を抑えるために主治医が選択したのが、免疫の暴走を抑える効果があるとされるリューマチなどの薬「アクテムラ」だった。
「アクテムラ」の瓶の画像。
1日1回、2日間点滴で投与された後で発症7日目にある変化が起きた。
【4月17日 発症7日目】
(病室から見える青空の映像)
朝の体温が平熱に迫っていたという情報の後で伊藤さんの自撮り映像が続く。
(伊藤賢治さん)
「今から食事をとるところですけど、おいしそうです」
カメラは伊藤さんの顔から食事のトレー(白ごはん、味噌汁、卵焼き、ほうれん草のおひたし、きんぴらごぼう)を撮影して、また伊藤さん
の顔に戻る。巧妙にカメラがどんな映像を撮影しているのかを計算しながら撮影している。その間、伊藤さんは左手でカメラの向きを変えている。右手で味噌汁のお碗を鼻に近づける。
(伊藤賢治さん)
「ちょっと、おっと思ったのは、においがちょっとしますね」
この日を境に肺炎を示す白い影が徐々に薄くなった。
X線画像を見ると、次第に白い部分が黒っぽく変化した。
ときどき、せきは出るものの、それも治まっていった。
血液中の酸素飽和度を測る機械の数値でも徐々に回復して、酸素吸入の必要もなくなった。
【4月19日 発症9日目】
(伊藤賢治さん)
「(医師が)重篤な状態にならないよう最善を尽くすと言ってくれていたが、そこまで至らずとも峠は越えたのではないかと」
血液検査でも炎症を示す値が改善していった。
主治医によると今回は「アクテムラ」によって“サイトカインストーム”が抑えられた可能性が高いという。
この日は伊藤さんが右手に箸を持って味わいながら食事する映像を左手で撮っている。
また病室で立ち上がってTシャツをハンガーに吊るす様子も撮影している。
(伊藤賢治さん)
「非常に体調がいいです。これは薬が効いてきたのか、本当に医療スタッフの皆さんのおかげだと思います。こういった危険と隣り合わせの場面ですが、嫌な顔ひとつせずに接してくださっている医療スタッフの皆さんには本当に心から敬意を表したいと思いますし感謝しております」
入院から退院までの伊藤さんの肺のCT画像を比較すると、4月14 日(入院日)は【中等症】で白いモヤモヤが左右の肺に少し見えて、4月21日には白いモヤモヤ部分が広がって【重症】、4月27日(退院日)にはその白いモヤモヤがすっかり消えていたことがよくわかる。
テレビ報道のプロである人間が自らの症状を記録して、必要な映像を計算しながら自分を撮影し、その治療の経過や薬などの投与や効果などをこれほど克明に記録したケースは日本ではない。それほど伊藤賢治さんのこの記録は報道番組の映像として貴重なものだ。
『報道ステーション』関係者で感染が確認された5人のうち、【重症】になった伊藤氏を除けば富川悠太キャスターら他の4人は【軽症】と診断され、入院して治療を受けた者や自宅療養で回復した者など症状も回復までの時間もバラバラだった。
リモート出演した松本哲哉・国際医療福祉大学主任教授(専門は感染症学・感染制御学、日本環境感染学会 副理事長)は、新型コロナウイルスは「症状や経過が多様性に富んでいる」のが特徴で番組関係者の場合にもそれが反映されたと解説した。
また新型コロナ肺炎は2割の人が重症化しやすいと言われているが、『報ステ』関係者の場合も5人中で重症になったのが、総合演出の伊藤氏だけだったのでちょうど2割が重症という水準に合致していると言う。
松本教授は、伊藤氏のケースで主治医が早めに“サイトカインストーム”であろうと気づいて早めに「アクテムラ」を投与したことを「非常に幸運であった。それによって状態をかなり改善する方向に持っていけた」と評価した。
この日の最後に小木逸平キャスターは「これからも番組では今回、私たちが体験したことをできる限り、皆さんにお伝えしていきたいと思っております」と締め括った。
今回、テレビ朝日『報道ステーション』というニュース番組で、自分たちが放送の中でさんざん「感染予防」で注意喚起しながら、感染者が出てしまったことに対して批判の声も根強い。
もしも自分がその関係者だったらと想像すると、「自分たちの病状の過程を撮れ!」という方向に持っていくことはテレビ報道の人間としていわば必然だ。
まだこのウイルスや症状、治療については「わかっていないこと」が多い。
それだけに自分たち自身が渦中の最前線に放り込まれてしまったなら、それを撮らないという選択肢はないだろうと思う。
またとない絶好の機会だ。
事実、伊藤氏のカメラワークなどを見る限り、さすがにテレビ報道のプロとして、自分自身も「素材」「被写体」として、冷静に計算しながら撮影していることがよくわかる。
ここからはあくまで筆者の推測だが、伊藤氏の場合は、調子が悪くなった頃から自宅での様子を映像を撮影しているのではないかと思う。
病室でこれだけ計算して映像を撮る人間がそこだけを撮影したとはとても思えない。
また富川悠太キャスターを始め、他の番組関係者も自分の症状について撮影しているのではないだろうか?
たまたま総合演出の伊藤氏だけが重症化して、一番、症状や治療プロセスが「映像になる」結果になっただけで、もしも最初から伊藤氏だけを撮影していて彼が結果的に軽症で終わっていたら、この夜のような放送はできなかったはずだ。
当然、他の4人も自撮りをしていて、重症者を中心に放送する計画をしていたはずだ。
小木キャスターの「これからも番組では今回、私たちが体験したことをできる限り、皆さんにお伝えしていきたい」という言葉はそうした未公開の映像素材も駆使して伝えていくという宣言として筆者には聞こえた。
災い転じて福となす。
『報道ステーション』のテレビ報道集団のプロとして心意気にこれからも注目していきたい。
"味" - Google ニュース
May 16, 2020 at 07:59AM
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“高熱で震える手”。「味がしない。せきも」と食レポ。『報ステ』総合演出が自撮りしたコロナ映像の貴重さ(水島宏明) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース
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