
新薬への期待
緊急事態宣言が延長され、大都市圏では外出や営業の自粛が続いている。その一方で、感染者が連続して何日も出ていない県もあり、それらの県では緩和の方向に進んでいる。
楽観はまだ許されない状況だが、全国的に見ても、感染爆発はどうにか回避されたようであり、感染者の増加も減少に転じているように見える。
こうした中で、5月7日、アメリカの製薬会社ギリアド・サイエンシズが開発したレムデシビルがわが国において、新型コロナウイルス感染症の治療法として、異例の早さで特例承認された。特例承認とは、感染症蔓延のために緊急の必要がある際に、ほかに適切な治療薬がなく、海外において販売が認められているときに適用されるもので、その際には、米国での臨床試験データやわが国での観察研究のデータが検討された。
新型コロナウイルス感染症に対して使用できる薬が承認されたことは、大きな前進であり、一筋の光明であることは間違いない。しかし、米国で開発された薬であるため、日本に十分な量が提供されるのか、腎機能や肝機能への副作用はどうかなど懸念材料も多い。
アビガンへの期待
こうした懸念を受けて、わが国で開発されたアビガンへの期待が一層膨らんでいる。たとえば、先日放映されたネット番組で、安倍首相と山中伸弥教授が対談し、そのなかで山中教授は以下のように発言した。
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日本でアビガンは安全性のデータは相当そろっていますし、効果のデータもかなりそろっていますから、今月中、できたらレムデシビルと同時くらいに、何とか首相の鶴の一声でやっていただけないかと本当思います。……特に日本はオリンピックという大きな目標がありますので、これを実現させるためには相当普段と違うことをやらないとダメな状態だと思いますので、ぜひ首相、もうひと頑張りしていただきたいというのが私のお願いです。
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私はこの発言を聞いて、仰天した。山中先生ともあろうものが、一体何を言い出すのかと心底驚いてわが耳を疑った。
アビガンに期待するのは理解できるし、それは私も同じである。新型コロナ感染症に対して、特効薬の出現を願うのは全世界の人々共通の気持ちである。しかし、その気持ちがはやるあまり、安全性をないがしろにしてよいわけがない。
高名な医学者である山中教授は、むしろ拙速になりがちな一般の人々やマスメディアの声を抑制する役割が期待される立場であるのに、残念ながらまったく逆の非科学的な主張に終始していたと言わざるをえない。
まして、政治によって科学研究を左右することを期待したり、安全な医療よりもオリンピックの実現を望んだりしているかのような発言は、きわめて問題である。
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