#15 パリの味。
去年の年末、ひとりでパリを旅した。
同じ年の秋、仕事で滞在したのをきっかけに
いっぺんにその虜(とりこ)になってしまった街。
ひとりきりで海外を旅するのは初めてで、
決心するまでには少し悩んだけれど、
短い滞在の間に感じた、パリの人々の飾らない暮らし、
健やかでどこまでもシンプルな食の魅力を
もっともっと知りたくて、
えいやっと航空券を手配したのだった。
旅の目的やスケジュールを明確に決めなかったのは
できるだけ日常の延長線上でパリを楽しみたかったから。
滞在する場所もホテルではなくアパートメントを借りて、
その日の気分でどう動くか決めようと思っていた。
かくして上陸したパリ。
大規模なストライキの期間に当たってしまって
電車もバスも、タクシーすらほとんど動いていない。
移動は自然と徒歩が多くなってしまって
最初は「あーあ」と思っていたのだけれど、
だんだんそれが面白くなってきた。
朝起きて、天気が良ければブラブラと歩く。
途中に気になる教会や美術館があれば立ち寄って、
疲れたら目についたお店でカフェオレを飲む。
そんな日々を過ごしているうちに土地勘もついて
気づけば地図なしであちこち歩き回れるようになった。
朝、いつものようにアパートの近くを散歩する。
パリの人はみんな早起きで、
7時半頃から散歩やランニングしている人が多い。
早朝というのにもう開店している店もあって、
ひときわにぎわっているのがパン屋さん。
ランニングの途中に立ち寄って、
焼きたてのバゲットを抱えて帰る人の姿もあって、
なんだかいいなあ、と思った。
ある日、まねしてバゲットを一本買って帰った。
前の日に買っておいたバターを大きめに切って、
マルシェで調達した生ハムを挟む。
どこまでもシンプルなサンドイッチなのに、
「おおお……」と声が出てしまうほどおいしい。
お料理用に買い求めたバター。
じつはフランス語が読めなくて、有塩を買うべきところを
間違えて無塩バターを買ってしまった。
でもそれが大当たり。
生ハムの塩気とバターのコクがちょうどいい塩梅(あんばい)で
これ以外の具材を入れるのは邪道だと思うほどの
最高のバランス。
ひとつひとつの素材がしっかり存在感を持っていれば
余計なものはいらない。
パリの人の暮らしがどこまでもシンプルなのに
とても豊かだと感じるのは、まさにこういうことなんだと思った。
普段は近所のスーパーで何げなく買っていたバター。
パリから戻ってからは、しっかりと吟味して選ぶようになった。
朝の日課のランニングの帰りに、少し遠くのパン屋さんに寄って、
焼きたてのバゲットを買う。
ああ、この味。
なんてことはない。
東京でだって、シンプルでも豊かな暮らしはできる。
大切なのは、考え方なんだ。
パリで過ごした10日間。
特別なことは何もなかったけれど、
とても大切なことを教えてもらったと思っている。
今日のうつわ
パリの蚤(のみ)の市で買ったアンティークプレート
プライベートでパリに行きたいと思わせてくれたことのひとつが蚤の市。撮影で少しだけ立ち寄ったのですが、そのときにアンティークの器の美しさに魅了されました。気になっていた店に再訪し、今度は時間を気にせずお買い物。最近集めている白い器に加えて、繊細な絵付けが施されたプレートもいくつか買い求めました。器だけだとややガーリーな感じがしますが、シンプルでラフなバゲットサンドをのせると、素朴で温かみのある雰囲気になりました。
◇
写真 相馬ミナ 構成 小林百合子
PROFILE
「高山都の日々、うつわ。」
丁寧に自分らしく過ごすのが好きだというモデル・女優の高山都さん。日々のうつわ選びを通して、自分の心地良いと思う暮らし方、日々の忙しさの中で、心豊かに生きるための工夫や発見など、高山さんの何げない日常を紡ぐ連載コラム。
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