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Wednesday, March 25, 2020

いまや講演依頼が殺到の若手マーケター! きっかけは会社がくれた小さなチャンス - Web担当者Forum

弱冠27歳にして、セミナー、イベントなどで多数の講演を果たし、2019年にはアドテック東京にも登壇した 花王株式会社 廣澤祐氏。今もっとも旬なマーケターとも評される廣澤氏は新卒で花王に入社し、デジタルマーケティングセンターに配属、花王のレジェンドマーケターたちに育てられた。20代とは思えないほどの落ち着いた話しぶり、貪欲な学習意欲に年齢以上の迫力がある。本連載では、最年少となる廣澤氏だが、インターンや就活などの経験も含めて仕事観に迫った。

Webが一般に普及してすでに20年以上が経つが、未だにWeb業界のキャリアモデル、組織的な人材育成方式は確立していない。組織の枠を越えてロールモデルを発見し、人材育成の方式を学べたら、という思いから本連載の企画がスタートした。連載では、Web業界で働くさまざまな人にスポットをあて、そのキャリアや組織の人材育成について話を聞いていく。

学生時代はラガードなネットユーザーだった

林: インターネットを使い始めたのは、いつ頃ですか?

廣澤: 携帯電話を持ったのが小学6年生(2005年)のときです。アプリとかは機能制限されていたので、iモードは使えませんでしたが、親との電話や友達とのメールのやり取りに使っていました。中学3年くらいまではそんな使い方で、携帯で何か見るよりも、テレビのほうが好きでした。

高校に入学当時、周りのほとんどがガラケーを使っていて、クラスに数人iPhoneユーザーがいるくらいでした。インターネットのコンテンツでは「前略プロフィール」が流行っていた世代ですが、僕は見る専門で、他には自宅のパソコンでたまにYouTubeを見るくらいでしたね。

高校を卒業したのが2011年。震災時、Twitterが話題になりましたが、自分は使っていなかったので、キャリアの災害掲示板などで連絡をしたことを覚えています。大学に入学すると、半数以上がスマホを持っていましたが、皆大学でスマホデビューしたような感じでした。

僕はスマホがイケてるみたいな空気に乗るのが嫌で、大学入学後もガラケーを使っていたのですが、当時はmixiをやっている人が多くてみんながmixi内でつながりを持ったりしているのを、遠巻きに見ていました。

スマホを持つきっかけになったのが、2012年のシアトル短期留学です。海外ではスマホの方が何かと便利なのでiPhoneにしたのですが、その時はじめてTwitterやFacebook、LINEなどのSNSを使い始めました。今までの話でおわかりと思いますが、学生の頃は「デジタル」や「Web」に疎い、キャズム理論でいうレイトマジョリティやラガード側のユーザーでしたね。

林: 大学時代は、パソコンは使っていなかったのですか?

廣澤: 2013年頃、大学3年で就職活動を始めて、就活用にMacBookを買いました。Macを買った理由は携帯がiPhoneだったからです。調べ物、エントリーシート作成、Webテスト受験などのために使っていました。TwitterやFacebookで就活情報を調べるようなことはほとんどなくて「みんなの就職活動日記(みん就)」で情報収集をしていました。

花王株式会社 コンシューマープロダクツ事業部門 キュレル事業部 廣澤祐氏

外資系日用品メーカーのインターンで刺激を受ける

森田: 就活では、どういったところを受けていたのですか?

廣澤: 母子家庭なので、早く稼いで親を支えたいと思い、最初は、外資系のコンサルティング会社や金融関係を中心に受けていました。そんな中、外資系日用品メーカーのインターンシップに参加したのは貴重な経験になりました。

そのインターンシップは、コンペ型と呼ばれるスタイルで、課題を解きながらステージを進んでいきます。ファーストステージは1日かけてインターンシップの説明と、課題となるケーススタディの提示があります。その課題に対して個人ワークで答えを出して、その日のうちにWebで回答します。

それが通るとセカンドステージで、ケーススタディに対してグループワークで提案します。期間は1か月あり、社員がメンターについて、導いた数字に対して厳しく突っ込んできます。僕はそこで敗退してしまいましたが、目的意識や3Cなどのフレームワークの使い方、市場構造の捉え方などビジネスやマーケティングの入口部分を学ばせてもらった体験だと思います。

森田: 以前、ビジネスマン向けのスクールで同様のカリキュラムを受講したことがあるんですが、インターンシップの時点でそこまで突っ込んだ内容をやるものなんですね。

廣澤: 優秀な学生が集まっていたのでそれも大いに刺激になりましたし、そこで日用消費財メーカーのマーケティングをおもしろいと感じたのが、いま花王にいるきっかけです。その後外資系金融のインターンシップで、M&Aのシミュレーションでたまたま花王に買収提案をするというケーススタディがあり、「デューデリジェンス」という、投資に対するリスクを調査するなかで花王の財務状況やマトリックス運営の組織体制などを調べたんです。すると花王は非常に財務的に健全で、イノベーションを続けている企業であることがわかりました。改めて優良企業であると感じ、面接を受けることにしました。無事に内定をいただき、2015年4月に入社することになります。

入社半年でセミナー登壇を成功させる

林: 花王で最初に配属されたのがデジタルマーケティングセンターですよね。一年目は、どういったことをしたのですか?

廣澤: 当時マネージャーが板橋万里子で、部門長が現在は定年退職していますが石井龍夫でした。教育という観点では、この部署では初めての新卒採用だったこともあり、板橋は「デジタルは刻々と変化していくため確立された型や教育などはまだないので、廣澤さんのやりたいことを尊重していきたい」と言ってくれました。

デジタルマーケティングセンターは、横断的に事業部のデジタルマーケティングを支援する役割でした。花王におけるデジタルマーケティングの専門家集団という立場ですから、当然、新卒なのでわかりませんとは言えず、常に勉強の日々です。

業務の進め方は板橋のもとでOJT中心に学び、最初は広告会社さんと広告の入稿のやり取りや、簡単なアクセス解析、ソーシャルリスニングなどとにかく手を動かしていたと思います。一方、“デジタルマーケティング”の全体像をつかむために業務以外の時間で書籍を読みながら周辺知識を補っていました。最初はマンガの解説書などから始め、徐々に専門的な本も読むようになって知識幅を広げるという形で、とにかくインプットしていましたね。

わからないことがあると、上司にはたくさん質問していましたが、いつも丁寧に返してくれたので勉強になりましたね。

林: 業務時間の内外を問わず、興味の源泉となる知識や現場経験を貪欲に身につけていかれたんですね。

廣澤: そうですね。一方で、アウトプットに関しては、入社後すぐに事業部から「最近の若者、特にJKとかってどんな感じなの?」という相談があり、彼女たちの像を掴むためにTwitterのソーシャルリスニングからJKアカウントの洗い出しと発言の分析をしたことがあります。

森田: 「女子高生を名乗ってる、実はおじさん」アカウントが混ざっていたりしませんか。

廣澤: そうなんです。女子高生を装っているアカウントも多々あるのですが、怪しいアカウントは部署の先輩に見てもらいながら検閲していましたね。

最終的にTwitter上の若者の特徴などをまとめて、広告のターゲティングやクリエイティブに活用しました。その時の事例について、ソーシャルリスニングをテーマに100人規模のセミナーで発表することになったのが初めての登壇でした。入社して半年後のことです。

森田: 入社半年での登壇とは、抜擢されましたね。

廣澤: 任せてくれた上司の度量には頭が上がりませんね。60分くらいのセミナーでしたが、スライドのレビュー、プレゼンの練習など上司の板橋にもしっかり見てもらいましたし、当日も聞きに来てくれました。それ以降もセミナーなどの依頼については、お話できる内容であればポジティブに送り出してくれたと思います。

林 真理子 氏(聞き手)

ブランドの事業部に異動して見えてきたビジネスの全容

林: 今はコンシューマープロダクツ事業部門の所属ですが、どういう経緯で異動になったのですか?

廣澤: ジョブローテーションですね。デジタルマーケティングセンターは、ブランド横断で事業部を支援しましたが、事業部では生産管理、販促物の管理、事業としての収支など思った以上に地道な仕事が多い現場です。でも、それもおもしろいと感じました。

また、花王は研究開発部門との距離が近くて、すぐに商品や技術について質問できるのが良いところです。研究者は、文系のマーケターが理解できるようにわかりやすく商品の成分などについてレクチャーしてくれるので、議論を繰り返すうちに化学技術の輪郭も少しずつわかってきます。研究者との対話を通じて、商品の本当の良さも以前より理解できるようになったと感じます。販売や生産の人との連携もありますし、事業がどうまわっているのか、この部署に入ってからよくわかるようになりました。

林: 事業部に異動したタイミングでは、どんな勉強をしたのですか?

廣澤: 異動する前から、センター長の石井からは「デジタル頭でっかちになってはいけない」と言われており、戦略や事業という視点から助言をもらったり経営戦略関連の書籍を薦められたりしていました。

それから、高広伯彦さんとの出会いも大きな影響がありました。デジタルマーケティングセンターにいた2016年に、社内向け勉強会の講師を依頼したのですが、その時に私がコーディネーターを任されて、打ち合わせをしました。高広さんは知識が豊富で洞察も深い方です。それでいて最新の情報もアップデートし続けていることに感銘を受けました。これほどの人でも勉強し続けているのかと思う一方で、こういった人が競合企業の支援に回ったら太刀打ちできないなという危機感も感じましたね。

こうした社外の方との出会いも、上司の石井、板橋が積極的に私を外部セミナーや交流会に連れ出してくれたおかげです。社外にも学ぶところのある人が多くていろいろな助言をいただいています。どの出会いも貴重なので、飲み会でもなんでもお声掛けいただいたらできる限り参加するようにしています。

森田: 出会いにポジティブなのですね。石井さん、板橋さんなど直属の上司以外の方も含めて、ロールモデルのパーツを吸収している感じですね。

廣澤: 私は上司運がよくて、その後の上司になった鈴木や今の事業部の上司からもデジタルとは異なった角度から多くのことを学びました。自分が受けた恩恵は、後輩や部下に返したいと思っています。

森田 雄 氏(聞き手)

出世よりも、今はやってくる仕事すべてに取り組みたい

林: 良い上司に恵まれて、それが部下に継承されていく、自然で健やかな流れを感じますね。花王の組織風土として、人を育てる文化が根づいているのでしょうか?

廣澤: スキルや知識の習得は個人の努力によるところも大きいですが、若手にチャンスをくれる上司が多いと思います。私が花王に入社を決めた理由の一つに組織風土があります。面接の時に「最後に質問はありますか」と訊かれますよね。私はどの会社でも「御社、社員を一言で表すと何ですか?」と訊いていました。同じ会社でも答えが分かれることがありますが、花王の場合は全員が「まじめ」と答えたんです。

入社してみると、花王の基本となる価値観の一つである「正道を歩む」が浸透していることを感じます。実際、会議室には花王ウェイ(企業理念)が必ず掲げられています。正しくあろう、まっとうなビジネスをしようとする姿勢が、面接官が言った「まじめ」につながっているんだとわかりました。

花王の基本的となる価値観には「よきモノづくり」もありますが、日々の打ち合わせの中で「これはよきモノづくりになっているのか」という視点・議論がでてくることがあり、これも共通の価値観として浸透していることを感じます。

花王は大きな組織ですので、関係者も多く社内調整と揶揄されてしまうこともあるかもしれませんが、その分、さまざまな人に関わりながら仕事ができることは他にないおもしろさでもあると思います。

森田: この先の展望は?

廣澤: 「何を目指しているのか」と聞かれることがよくあります。今どきの若者かもしれませんが(笑)、特に出世欲が強いわけでもないので、自分がおもしろいと感じられる仕事に携われればいいと思っています。今は好き嫌いよりも、どんな仕事でもやってみて、その感触を確かめたいです。

今、一橋ビジネススクールでMBA取得を目指していて「なんで出世欲はないというのにそんなにがんばるの」と言われますが、自分の興味関心のままにやっています。

計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)で指摘されているように、自分で目指すキャリアパスを固めても、ジョブローテーションもありますし、将来はどうなるかわからないと思っています。今後販売で現場を知ることもあるかもしれませんし、いろいろなチャンスはやってくるので切り捨てることなく、つかんでいきたいですね。

二人の帰り道

林: 廣澤さんの取材では、いろんな固有名詞が出てきたのが印象的です。読んだ書籍名もそうですし、お世話になった上司や刺激を受けた業界キーマンのお名前と、次々に。それも、誰か一人に強烈な影響を受けて、その人を師と仰いで盲目的に吸収していくというのではなくて、いろんな人、いろんな書物に触れ、たくさんの実体験をもって、そこから自分が学べる要素を部分として吸収していっている感じ。その都度、自分の内側に編みこんでいって、興味の幅を広げたり、能力として血肉化しているスタイルが、実に現代的な歩み方に感じられて素敵だなぁと思いました。また、花王の皆さんの関わり方にも脱帽です。上司・先輩がたも、「打てば必ず響く」廣澤さんに期待を寄せてのことでしょうし、こういうのはやっぱり、双方が互いに歩み寄って育まれる信頼関係あってこそだよなぁと思いました。

森田: 廣澤さんがまだとってもお若いということで、web系の業界におけるロールモデルを探す本連載としてはちょっと異色といいますか、むしろ僕らと一緒にロールモデルってどんなのだろうねえと探す感じの今回となりました。廣澤さん目線では上司運に恵まれた、外部の刺激的な先輩たちにも恵まれたっていうことらしいのですが、廣澤さんが真摯に純粋に、向上心を燃やしているからこそ周囲もそこに期待をのっけて接してるんだろうと思いましたね。それにしても、歳をとると、どうしてもこう手元の業務にかまけてしまって、先を見据えた鍛錬のほうがさぼりがちになってしまうものなんですが、廣澤さんの姿勢を拝見するにつけ、とても自己を省みる結果となり、がんばろうと決意を新たにいたしました。ありがとうございました。

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March 26, 2020 at 05:00AM
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