マイナンバーカードを使ったキャッシュレス決済のポイント還元「マイナポイント事業」が9月1日から始まる。だが、昨年10月から6月まで実施された“第1弾”の「キャッシュレスポイント還元事業」に比べ、盛り上がりにかけている。キャッシュレス決済の9割を占め、業界の雄とされるクレジットカード会社の多くが不参加を表明したためだ。背景には政府の一連のキャッシュレス施策で、カード会社との間に溝が生じているとの指摘がある。
マイナポイント事業は、マイナンバーカードとキャッシュレス決済の普及を同時に狙った取り組み。クレジットカードや電子マネーなどから決済手段を1つ選びマイナンバーカードに登録、チャージか決済をすることでポイント還元が受けられる仕組みだ。
「国が相手なので表立っては言わないが、クレジットカード会社の多くは憤慨している」。カード業界のある関係者はそう証言する。昨年10月に始まったキャッシュレス還元事業をめぐり、業界と政府の間に確執が生じ、それがマイナポイント事業にも影を落としているのだという。
キャッシュレス還元事業は、対象店舗でキャッシュレス決済を行えば、国から決済額の2%か5%のポイントがもらえることもあり、大きな注目を集めた。
これまで「キャッシュレス後進国」と言われてきた日本でも、同事業を機に多くの人がキャッシュレス決済を積極的に使い始めたとされ、経済産業省が行ったアンケートでも、17.5%の人が事業をきっかけにキャッシュレス決済を初めて利用、支払い手段を増やした人も34%いた。
キャッシュレス事業者にとっては、国の助成を受けながらキャッシュレス決済が増えるという願ってもないビジネスチャンスだった。しかし、カード会社が得られた恩恵は限定的だったという。
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不運だったのがキャッシュレス還元事業の時期と、ペイペイやメルペイなどQRコード決済事業者の覇権争いの時期が重なったことだ。QRコード決済はスマートフォンの普及とともに平成30年ごろからサービスを提供する事業者が増加。各社は、生き残りをかけ決済金額の20%をポイント還元するなど、利益度外視のキャンペーンを展開した。
国のポイント還元に加えて、事業者からも多額のポイントが得られることから、多くの人がQRコード決済に飛びついた。0.5〜1%程度のポイントしか付与していないカード会社との差は歴然で、フィンテック企業のインフキュリオン(東京)が行った調査でも、今年3月までの1年間で、クレジットカードの利用者は横ばいだったのに対し、QRコード決済の利用は約4倍に急増した。
カード会社としても、こうした事態は予想していた。しかも、キャッシュレス還元事業に参加するには、数千万円規模のシステム改修費用もかかる。
「一時的な事業のためにそれだけのコストはかけられない」(大手カード会社)。キャッシュレス還元事業には、当初から後ろ向きな声も少なくなかった。それでも政府が協力要請を行ったこともあり、事業開始までには主要なカード会社はすべて参加を表明した。
しかし、キャッシュレス還元終了間際の6月、カード会社には思わぬ仕打ちが待っていた。政府が決済手数料情報を開示する考えを示したのだ。
決済手数料はキャッシュレス事業者が、決済のたびに店舗から徴収するものだ。決済額の数%を徴収しているが割合は非開示となっている。店舗側にとってはキャッシュレス決済導入の重荷になっており、政府は手数料を公表することで競争を促し、手数料の抑制を図ろうとしたのだ。
ただ、決済手数料はカード会社にとって、分割払い時の手数料と並ぶ2大収益源。あるカード会社の幹部は「キャッシュレス還元では政府に協力したのに、裏切られた気分だ」と憤る。
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こうした中で参加事業者の募集が始まった政府のポイント還元策の「第2弾」にあたるマイナポイント事業。「同じ轍(てつ)は踏まない」(関係者)と、カード会社の不参加が相次いだのだ。
経産省によると、今年3月末時点でクレジットカードを発行する事業者は250社を超えるが、マイナポイント事業に参加したのは23社のみ。JCBや三菱UFJニコス、クレディセゾンなど大手も相次いで参加を見送った。
マイナポイント事業に多くのクレジットカード事業者が参加しないことについて、大和総研の長内智主任研究員は「マイナポイントが盛り上がらない要因の一つだ」と話す。普段使っているクレジットカードが使えないことで、登録を見送る人も少なくないと考えられるからだ。
実際、9月の事業開始直前にも関わらず、8月25日時点でマイナポイント事業に申し込んだのは329万人。マイナンバーカード保有者の1割強に留まっている。
長内氏は「今回のような短期間の施策で民間を巻き込むのには限界がある」と指摘する。事業者にとってはシステム改修費の方が高くつくリスクがあるためで、「本当にキャッシュレスを推進させたいならば長期的な施策を実施して、定着を図っていくべきだ」と話している。(経済本部 蕎麦谷里志)
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