カイコのシフォンケーキを食べる大川記者。「おいしいけど、普通のシフォンケーキ」
栄養価の高さや環境負荷が低いことから注目が集まる昆虫食。無印良品を展開する良品計画が5月に「コオロギせんべい」を発売したことも話題を集めた。感度の高い人が取り入れているイメージのある昆虫食だが、実際に食べたらどんな味がするのか。昆虫食初挑戦の記者二人が試してみた。
カイコのシフォンケーキに挑戦
とはいえ、いきなり虫を食べるには勇気がいる。「“次世代たんぱく質”昆虫食、新興勢力相次ぎ参入」の取材でもお世話になったエリー(東京都中野区)へお願いし、心理的ハードルの低い加工食品を届けてもらうことにした。初陣は蚕を使ったシフォンケーキだが、果たして…。
見た目やにおいは普通のシフォンケーキだ。卵の良い香りがふんわり鼻をくすぐる。これなら抵抗感なく食べられそうだ。意を決して口に運ぶ。
普通だ。むしろ普通すぎて物足りない。“隠しきれない昆虫感”的なものを期待していたが、肩すかしを食らった気分になった。とはいえスイーツとしてはとてもおいしい。聞けば小麦粉の10%を蚕パウダーに置き換え、菓子メーカーに製造を依頼しているという。入門編としては良さそうだ。
蚕を加工した「シルクフード」を展開するエリーの梶栗隆弘社長は「多くの人は“社会課題の解決”だけで昆虫食を食べる気にはならない。栄養性や機能性、おいしさを追求し、受け入れられる昆虫食のあり方を探りたい」と狙いを話す。現在は終了しているが、東京・表参道にシルクフード専門の期間限定店をオープンするなど、取り入れやすい昆虫食の発信に取り組む。
パティの5割を蚕に置き換えた「シルクバーガー」は「思った以上においしい」(梶栗社長)と評判で、アンケートでは来店者の9割が「また食べたい」と回答したという。昆虫食に関心のない層へも、おいしさやファッショナブルな魅力で普及をはかる好例だ。
シフォンケーキと同時に送られてきたスナックもスパイシーでなかなか美味だった。「でも、もうちょっと昆虫感がほしいよね」と玄人じみた気分になるから不思議だ。
コオロギコーヒーのお味は?
スイーツのあとはコーヒーが欲しくなる。「コオロギコーヒー」なるものを開発している学生がいると聞き、奈良県の平城京跡地まで出かけた。
平城京跡地の南側に位置する朱雀門。奈良時代、広場では中国使節の歓待が行われる迎賓館の役割を果たしたといわれ、遷都から1300周年の2010年に跡地が整備された。柳の並木に囲まれた朱雀大路は新型コロナウイルスの影響で人気が少なく閑散としていたが、悠久の歴史を感じさせる趣があった。
広場の一角にあるカフェ「トキジクキッチン」へお邪魔し、コオロギコーヒーを試飲させてもらった。
こちらも見た目は普通のコーヒーだ。薫り高いブラジル産の豆を使い、全量の2割をコオロギパウダーに置き換えているという。
コーヒーに使われているものと少し種類は違うが、粉にされる前のコオロギ。
開発したのは、動画投稿サイトを通じ昆虫のおいしい調理法などを発信する近畿大学農学部3年生の清水和輝さん。トキジクキッチンの協力を得て同地で昆虫食普及のイベントなどを開いている。コーヒー好きなことと、手に取りやすい昆虫食を作りたいとの思いから、「新しい素材を使ったおいしいコーヒーを」(清水さん)とコオロギコーヒーを発案した。
ひきたてのコーヒーにお湯を注ぐと、なんともいい香りが漂う。こだわりある喫茶店で出されるような、薫り高い高級感のあるコーヒーの香りだ。さっそくいただく。
コオロギは2割がベストマッチ
何とも形容しがたい味だ。緑っぽく、横に広がり、豆のような不思議な風味を感じる。コオロギは甲殻類に例えられることが多いが、それとも違う。まさに「コオロギコーヒーの味」としか言い様のない独特の風味。飲み終わってしばらくしても口の中に余韻が残る、新しい体験だった。
「コオロギの割合が1割だと、コオロギ感がない。3割だとクセが強すぎる。いろいろと試した結果、2割がコーヒーのジャンルとして成り立つ絶妙のブレンドだった」と清水さん。確かに、「これがコオロギか」とうなずけるちょうど良いラインだと感じた。
パッケージも洗練されており、雑貨店に置いてあったら思わず手に取ってしまいそうだ。コーヒー好きなら、選択肢の一つに加えてもいいかもしれない。コオロギコーヒーはEC(電子商取引)サイトにて9月中旬に発売を予定。100グラムあたり2000円(消費税込み)と手に取りやすい価格なので、昆虫食初心者におすすめだ。
セミは羽化したてがおいしい
ところで清水さんによれば、セミは羽化したての白い状態の成虫がやわらかくておいしいらしい。5ー6年地中で頑張って、ようやく大人になったセミを食べるのか-。思いをはせつつ、試してみる気になった記者だった。
次回は中級編。見た目そのまま虫の昆虫料理を試食するのでお楽しみに。(不定期連載)
大川藍/大阪支社編集局経済部/記者
4才の息子の影響で虫好きに。ベランダのレモンの木へ集まるチョウの幼虫を飼育するのが春の風物詩で、現在はカブトムシの延命に躍起。普段は大阪府政や財界の取材を担当。虫を食べたことはまだ息子に言っていない。
中野恵美子/大阪支社編集局経済部/記者
持続可能な開発目標(SDGs)の観点から新たなタンパク源として注目される昆虫食へ興味津々。虫と並んで忙しく動き回るハトが苦手。偏見を克服しようという気持ちから昆虫食の試食へ挑戦。担当業界は製薬、医療機器、ヘルスケア。
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September 08, 2020 at 04:04AM
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