Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
明治大学の宮下芳明教授が開発した「画面に映っている食品の味を再現して味わえる味ディスプレイの開発」(PDFへのリンク)は、画面に映っている食品の味を遠隔で再現して味わえる味覚ディスプレイシステムだ。
カメラで食品の映像、味センサーで味を、それぞれ“記録”し、捉えた食品の映像や味を専用動画編集ソフトウェアで“編集”、最後に味提示装置を用いて遠隔者へ食品の映像と味を“再生”し届ける。
遠隔者は食品を食べることなく、映像、音声、味を同時に体験できる。
味の記録
最初に行うのが、食品の映像、音声の記録、味センサーによる味の記録だ。味センサーでは、食品の味覚を基本五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)で評価するための数値を取得する。味センサーには、仏AlphaMOS製の「ASTREE」(甘味に使用)と「TS-5000Z」(甘味以外に使用)を用いた。
具体的には、食品に対して味センサーから得られる各数値(塩化ナトリウム水溶液濃度、クエン酸、塩化マグネシウム、グルタミン酸ナトリウム水溶液濃度、グリシン水溶液濃度)と、基本五味の強度、そして味提示装置が出すべき電流強度の関係を計算する。これにより、味センサーで得られたデータを基本五味に変換し遠隔者に届ける下地ができる。
味の編集
味を編集できる動画編集ソフトウェアも開発している。ユーザーインタフェースは、読み込んだ動画に対応する基本五味の分布をタッチペンで操作する方式。映像に対して味の調整が行える。編集によって、味の変化を高速に行えることから、実世界の食べ物では表現しきれない時間軸で複雑な味の流れを生成できるという。また味と味の間の変化はクロスフェードも可能で、味のフェードイン、フェードアウトも行える。クロスフェード中に違う味を感じる現象も確認できたという。
味コンテンツを鑑賞する際の調整として「味のイコライザー」も開発している。これは遠隔者が味をコントロールできるデバイスで、例えば酸っぱいのが苦手な人は酸味を抑えて体験したり、味の違いが区別しにくい人は実際の味よりも際立たせて味わったりと、眼鏡や補聴器のような使い方もできるという。
味の再生
遠隔者に味を伝える味提示装置は今回、3つのタイプが紹介された。これらは全て同一原理で動作し、舌を当て続けた状態で任意の味を再現する仕組みだ。
(1)海苔巻きのような形状の装置を手で握って舌に押し当てるタイプ
基本五味を感じさせる電解質をそれぞれ溶解し、チューブに入れて寒天で固めたゲルを束ね、円柱型に組み立てたデバイス。手で握り舌に押し当てることで人を介した電気回路を形成し、印加(電圧を加えること)によりゲル内部のイオンを移動(電気泳動)させる。
舌に当たるイオンの量を制御して、味の割合を個別に調整することで任意の味を生成する。使用する電気は、ゲル内での電気泳動のためであり、電気刺激に利用していないのが特徴だ。
とはいえ、意図せずに舌への直接的な電気刺激を少なからず与えてしまうため、電気泳動のみで味を再現する本手法の妨げとなる。そこで6つ目の「無味ゲル」を導入し、電気を逃がすことで基本五味の変化に集中できるようにしている。
(2)タブレット端末上に表示した食品を直接なめるタイプ
味を生成する原理は(1)と同じ。ゲルをタッチパネル搭載タブレットの液晶ディスプレイ上に配置し、画面に表示される食品を直接なめることで味わえるアプローチ。今回はカットしたピザの画像上に重なるよう、厚さ3mmの透明の三角形ゲルを6つ(基本五味+無味)載せている。
ゲルには、細い白金線(陰極)が刺してあり、電源装置から伸ばした陽極の線を手に持ち、ゲルを舐めるように舌を押し当てることで味わえる。ゲルは透明なため、ディスプレイに画像を表示すると隠れるように見えにくくなる。小型化として、人工イクラの手法を用いた小さな球体ゲルの試作も始めている。
(3)VR HMD装着時でもハンズフリーで味を提示できるウェアラブルタイプ
こちらも味の生成原理は(1)と同じ。VR HMDを装着していると口元が見えず、舌に押し当てる際もHMDが邪魔になる。そこで、鬼滅の刃の竈門禰豆子の口かせのような形状を考案した。口に当てた状態のまま首の後ろに固定することで、HMDの邪魔にならずハンズフリーで味わえる。陽極は首に貼り付ける方法を採用している。
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