自主制作のミュージカルを超ロングラン上演する劇場が、愛媛県東温市にある。「坊っちゃん劇場」。これまで正岡子規や坂本龍馬、板東俘虜(ふりょ)収容所、平賀源内、桃太郎伝説などを作品化してきた。制作・運営会社長の越智陽一さん(62)に劇場の挑戦や演劇への思いを聞いた。
――どんな劇場ですか
四国や瀬戸内の歴史や偉人を題材にしたミュージカルを1年間上演する、国内で唯一の劇場です。客席は約450席。同一作品の年間上演回数は二百数十回になる。2006年4月に開館し、これまで15作品を制作してきました。来場者の累計は昨秋100万人に達しました。ジョン万次郎がテーマの次回作は9月開幕の予定です。
食品加工などを手がける「ビージョイグループ」の一員で、地域に埋もれた宝物を発信し、伝統文化を次世代につなぐのがミッション。地元企業の新入社員向けにコミュニケーション能力を高める研修をしたり、特別支援学校の生徒たちや市民と一緒にミュージカルを作り上げたりもしています。
――舞台の手応えは
ミュージカル役者を目指す若手たちが、長期間の舞台でめきめきと力をつけるのを見てきた。この舞台からチャンスをつかんだ役者が何人もいます。
上演中の「鬼の鎮魂歌(レクイエム)」に出演する四宮貴久さんは、日露戦争のロシア人捕虜と日本人女性の恋を描いた「誓いのコイン」でも主演を務めた。この作品は舞台芸術では国内で初めてロシア政府から正式に招かれ、12年に一緒にロシア公演を果たしました。彼は渡辺謙さんの「王様と私」のオーディションに受かって、ブロードウェーの晴れ舞台にも立ちました。
普通は1週間や10日間でロングランとされますが、うちは1年間の超ロングラン。地方のそんな劇場運営は最初、東京の演劇関係者に理解されなかった。13人を募った配役オーディションに8人しか応募がなく、プロダクションを回って集めたこともある。最近は若手がみるみる成長すると喜ばれ、劇団四季や宝塚などで舞台経験のある実力派も来てくれます。脚本や演出などのスタッフ側は当初から、ジェームス三木さんら一流の方にお願いしてきた。舞台のクオリティーは間違いなく向上しました。
――ミュージカルにはどんな魅力がありますか
大学在学中、地域の演劇サークルで活動し、歌舞劇を四国で公演するプロジェクトに約1年間参加しました。留年覚悟でのめり込み、人の思いや感情を伝えられる演劇の楽しさを体感しました。特にミュージカルは、セリフだけでなく、歌と踊りもあり、伝える力が強いんです。
――今後の課題や取り組みは
「鬼の鎮魂歌」はコロナ禍で開幕が2カ月遅れ、来場客数にも影響しています。閉幕は今年3月の予定でしたが、8月まで延ばしました。
愛媛での知名度は上がったが、四国全域や瀬戸内ではまだまだ。そもそも芸術文化は経営面で収益を上げるのが難しいと言われる。壮大なチャレンジですが、地元自治体の支援や企業の協賛も受けながら、安定経営を目指しています。
新たな取り組みにも挑んでいます。道後温泉などの観光ルートに劇場を組み入れてもらって、旅行客ももっとお迎えしたい。上演にとどまらず、超高精細の「8K」撮影技術で作品を臨場感の高い映像で残す作業を始めていて、近くネット配信も始める。舞台芸術の魅力を発信し、全国からお客さんに来てもらえる劇場にしていきたい。(亀岡龍太)
◇
おち・よういち 1958年、松山市生まれ。愛媛大工学部卒。大手製紙会社員を経て、2006年、坊っちゃん劇場(089・955・1174)の運営会社ジョイ・アートを設立、社長に就任。同劇場やスーパーマーケット、温浴施設などがある複合商業施設レスパスシティの管理運営会社長も兼ねる。「鬼の鎮魂歌」は8月まで上演。ジョン万次郎がテーマの次回作は9月開幕予定。
からの記事と詳細 ( 「坊っちゃん劇場」運営会社長 越智陽一さん(62) - 朝日新聞デジタル )
https://ift.tt/2N6Kuo4
No comments:
Post a Comment