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Friday, July 16, 2021

ガリガリ君「多数決で決めない」150以上の味を生んだ遊び心 - 毎日新聞 - 毎日新聞

赤城乳業のガリガリ君ソーダ=2021年7月13日、菱田諭士撮影 拡大
赤城乳業のガリガリ君ソーダ=2021年7月13日、菱田諭士撮影

 夏といえばこれ。年間4億本を販売する大人気のアイスキャンディー「ガリガリ君」は、発売40周年を迎えた。これまで世に送り出した種類は何と150以上! なんで、こんなにたくさん?

 製造・販売する赤城乳業(埼玉県深谷市)は、1931年創業の「広瀬屋商店」が始まり。天然氷が夏場に売れ、氷をメインで扱うようになった。「赤城乳業株式会社」になったのは63年。「乳業」というから、もともと牛乳屋さんなのかと思っていたら、氷が専門。今もアイス専業メーカーだ。

現在のガリガリ君ソーダ=赤城乳業提供 拡大
現在のガリガリ君ソーダ=赤城乳業提供

 64年発売のカップ入りかき氷「赤城しぐれ」が人気商品だったが、70年代のオイルショックの際、30円から50円に値上げしたところ、売り上げが大幅ダウン。傾きかけた会社を立て直すため、子どもが遊びながら食べられるかき氷を目指して開発されたのがガリガリ君だ。最初はただ型に流し込んだだけだったが、売り場で陳列すると崩れたり、食べる時に抜けたりするなどしたため、かき氷をアイスキャンディーでコーティングした。

 実は、発売直前まで、商品名は食べる時の音にちなんだ「ガリガリ」だった。でも「何か寂しい」。「じゃあ、君を付けよう」と、当時専務だった井上秀樹会長が提案。「ガリガリ君」に決まり、男の子のキャラクターが誕生。ソーダ、コーラ、グレープフルーツの3種類を81年に発売した。

1981年の発売当初のガリガリ君=赤城乳業提供
1981年の発売当初のガリガリ君=赤城乳業提供

実は「キャラ変」

 この「ガリガリ君」の男の子、私が子どものころは今よりもう少し年上で、野性的だった気が……。この疑問を広報担当の広瀬裕美さんにぶつけてみると「発売当初は、中学3年生で昭和初期にいたガキ大将のイメージでした」との答え。気のせいじゃなかった! 99年にガリガリ君が嫌いな理由を調査したところ、キャラクターを挙げる人が多かったため、2000年にリニューアルしたのだという。その年に販売本数が初めて1億本を突破。今では、ガリガリ君は絵本やマンガにもなるほど人気者で、文具や日用品などコラボグッズも多い。でも、そんなに嫌われていたなんて……初代ガリガリ君、ちょっとかわいそう。

 定番のソーダ以外にも、さまざまな味があるガリガリ君。今年は40周年を記念し、一般投票で選ばれたうめが販売されている。甘酸っぱい梅ジュースのような味わいで、夏にぴったりだ。チョコや乳を使用するなどちょっとリッチ気分が味わえる「ガリガリ君リッチ」シリーズや、ジェラートのような本格的な味が楽しめる「大人なガリガリ君」シリーズなどもある。ガリガリ君の妹・ガリ子ちゃんも、06年に誕生。ガリ子ちゃんシリーズは、アイスの中心部分がかき氷ではなく、柔らかなシャーベットだ。

 中にはコーンポタージュやたまご焼き味など、意外な味も。「もともとラーメンアイス、カレーアイス、イクラ丼アイスなど変わったフレーバーを出す会社です。アイス専業メーカーなのでアイデアで勝負なんです」と広瀬さん。力強い。現在も、果肉を入れた「ガツン、とみかん」やソフトクリームの上だけカップに入れた「Sof」など、ガリガリ君以外にも、ユニークな商品を販売している。

ガリガリ君ナポリタン味。イラストにもピーマンが描かれている=赤城乳業提供 拡大
ガリガリ君ナポリタン味。イラストにもピーマンが描かれている=赤城乳業提供

大赤字、思わぬ落とし穴

 アイデアをかたちにしてきた「素養」に加え、消費者からの「もっと新しいことに挑戦してほしい」との声にも後押しされた。「あっと驚くようなフレーバーを!」と、開発担当者たちの心に火が付き、コーンポタージュ(12年)、クレアおばさんのシチュー味(13年)と意外な味でヒットを連発した。

70円に値上げする時に制作された「値上げCM」=赤城乳業提供 拡大
70円に値上げする時に制作された「値上げCM」=赤城乳業提供

 しかし、思わぬ落とし穴があった。14年に発売したナポリタン味は3億円の赤字を出してしまう。「まわりが見えなくなっていました」と広瀬さん。何度も試作を重ねていくうちに「普通だ」「ナポリタン感が足りない」という声が上がり、いつしかおいしさよりも「完全なナポリタン味の再現」に注力。ピーマンの香りまで足してしまった。「プロジェクトチーム全体の感覚がマヒしていたんだと思います」と振り返る。

 大赤字を経験し、「おいしくなきゃいけない」という当たり前のことを再認識。その後も、焼きたてパンのような香ばしい風味の「メロンパン味」や、まんじゅうの食感を再現した「温泉まんじゅう味」など変わり種を発売したが、反省を生かし、おいしさを重視した。ちなみに新しい味は、開発担当だけでなく、営業や技術、デザイナーなど複数の部署からメンバーが集まり、意見を出し合って決める。一般的な意見に偏らないよう「多数決で決めない、ということも大切にしている」というから面白い。

 発売当初は50円だったガリガリ君は1991年に60円に、2016年には70円に値上げ。16年の値上げの際には、社員が神妙な面持ちで頭を下げる「値上げCM」を流した。これが大きな話題になり、海外メディアでも取り上げられた。「批判は覚悟したのですが、思っていた以上に励ましの声をいただきました」と、広瀬さん。その年の売り上げは、前年より500万本アップ。値上げというマイナス要因すら、ファンを増やすきっかけにした。

 消費者の声をいち早く取り入れる柔軟性と遊び心。これが絶妙なのだろう。一つの味に3種類のパッケージデザインがあるのも、選ぶ楽しさと会話を楽しんでほしいとの思いから。職場でも、ガリガリ君の新しい味が出ると、話題になる。おいしさだけでなく、コミュニケーションツールとしても定着しているのだ。

 子どものころ、盆踊りに参加するとアイスキャンディーがもらえた。町内会のおっちゃんがくれるのは、いつもガリガリ君。祭りの明かりの中で、同級生とガリガリ君を食べた時間は、何だか特別だった。私の住む地域では新型コロナウイルスの影響で、2年連続で盆踊りが中止になった。子どもたちの夏の夜の思い出は、今年も紡がれないままだ。せめてベランダに出て、家族でガリガリ君を食べよう。来年こそは……と願いながら。【水津聡子】

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