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Friday, July 2, 2021

人はある瞬間にレイシスト(人種差別主義者)になれば、次の瞬間にアンチレイシストにもなる。あらゆる差別といかに向き合うべきかを問うベストセラー待望の邦訳 - valuepress

6月22日に辰巳出版の翻訳書レーベル &books から『アンチレイシストであるためには』が刊行された。本書は2019年に刊行後たちまち話題となり、全米で130万部となったベストセラー。​TIME誌の〈2020年最も影響力のある100人〉に選出された、世界が注目する歴史学者による、世界に蔓延るレイシズム(人種主義)を解き明かすためのガイドブックであり、著者のメモワールだ。​“アンチレイシスト”とは、人種だけでなく、民族、文化、階級、ジェンダー、セクシュアリティなどの違いを平等に扱う人のこと。制度としての“レイシズム”を変え“アンチレイシスト”として私たちがどのような態度をとり続けるべきかを、丁寧に、力強く訴える。

より多くの読者に本書の刊行を知ってもらうために、訳者あとがきを公開させていただく。

https://www.amazon.co.jp/dp/4777827739/

 本書は、二〇一九年にアメリカで刊行され、一三〇万部の大ベストセラーとなった『How to Be an Antiracist』の全訳である。気鋭の歴史学者が、アメリカ社会に蔓延るレイシズム(人種主義)の構造や本質をみずからの体験を織り交ぜながら解き明かし、制度としてのレイシズムを変え、「アンチレイシスト」としての態度をとりつづけることがその解決策だと訴える。

 刊行の翌年五月、米国ミネアポリスの路上で黒人男性ジョージ・フロイドが白人警官に拘束されるときに膝で首を押さえつけられて窒息死する凄惨な事件が起き、「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大事だ、BLM)」運動が全米で大きな盛り上がりを見せた。

 本書はこうした背景のなかで大きな注目を集め、米Amazon.comの売れ筋ランキングで総合一位を獲得。数カ月にわたりベスト一〇圏内を維持した。レビュー数は本稿の執筆時点(二〇二一年四月)で二万件以上(平均評価四・八)に達している。この驚異的なレビューの多さは、いかに英語版の読者が本書に感銘を受け、刺激され、自分なりの意見を書き込みたくなったかの表れだろう。

 コロナ禍のアメリカでは、黒人だけでなくアジア系住民に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)も激増し、大きな社会問題になっている。差別の問題を広く扱う本書の価値は、ますます大きい。

 著者は、アフリカ系アメリカ人の長年の苦悩を描いた大作『はじめから烙印を押されて Stamped from the Beginning』で全米図書賞(二〇一六年、ノンフィクション部門)を受賞し、アンチレイシストになる方法を説く絵本『アンチレイシスト・ベビー』(渡辺由佳里訳、合同出版)でも知られるイブラム・X・ケンディ。

 ケンディは本書で、一方的に差別の悲惨さを訴えているのではない。レイシズムが深く浸透した社会では、自身をふくむほとんどの人の心にレイシズム的な考え方が潜んでいることを指摘し、アフリカ系アメリカ人として本来被抑圧者であるはずの自分にも、過去にレイシスト的な言動があったと反省している。そして、レイシストの権力者たちがつくりだす「ポリシー(政策、制度、ルール)」を変えないかぎりレイシズムは解決できず、「わたしはレイシストではない」と発言する人は、一見消極的で無関心なだけの「非レイシスト」のように見えて、じつは仮面をかぶったレイシストなのだと厳しい目を向ける。そしてだからこそ、積極的に「アンチレイシスト」であろうとすべきだと呼びかける。

 そのために著者は、「レイシズム」「ポリシー」「パワー」などレイシズムの基本用語の意味をはっきりと定義し、「生物学」「民族」「身体」「文化」「肌の色の濃淡」「階級(経済格差)」「空間(教育や生活の場)」「ジェンダー」「セクシュアリティ」など、レイシズムと交差するさまざまな概念にフォーカスを当てながら考察していく。

 同時に本書では、歴史学者としての豊富な知識と確かな時代考証によって、レイシズムの歴史が語られる。その始まり、アメリカ社会に構造的に組み込まれていく過程、アフリカ系アメリカ人の長年の辛酸が、古今の文献を引用しながら徹底的に描写される。

 そこに、著者自身の幼年期、少年期、青年期の体験を生き生きとした筆致で織り交ぜることで、人種問題がより身近に、かつリアルなものとして感じられる。ケンディはかつて人種について間違った考えをもっていたと正直に認め、ジェンダーやセクシュアリティの平等についても認識が乏しかったことなども赤裸々に語っている。

 さらにケンディは、人種問題の解決策として、アンチレイシストであるためにどのような考えをもち、どのような態度をとるとよいのかも具体的に書いている。

 つまり本書は、アメリカの過去、現在、未来のレイシズムを知るための優れたテキストであり、差別に苦しみながら自己を見つめ、アンチレイシストになっていった一人の黒人男性の記録でもあり、さまざまな差別といかに向き合うべきかについての指南書でもあると言えるだろう。

 二〇二〇年米国大統領選挙では、「分断でなく団結」を主張した民主党のバイデンが、共和党の現職トランプに勝利した。その背景には、民主党を支持する多くの有色人種がいた。今後も非白人の比率が増加すると見込まれるアメリカでは、大きな変革が起こりつつある。

 差別をなくそうとするさまざまな努力や運動によって、いまようやく差別的な考え方や発言(ヘイトスピーチ)は、暴力や犯罪と同様に、看過ごしてはならないものとされるようになってきた。言いかえれば、「アンチレイシストであろうとすること」は、世界のどこにいても、子供でも大人でも、学校でも家庭でも職場でも、どんな組織や集まりでも、すべての人が学び、身につけなければならない態度となってきているのだ。

アメリカの人種問題の歴史を紐解き、そのシステムを理解することは、社会に根ざす差別の本質を知る土台となる。この本が、日本で日常的に直面するさまざまな差別———人種によるものだけでなく、民族、ジェンダー、セクシュアリティ、学歴や経済格差、年齢や病気や身体的特徴によるものなど———について深く考え、改善していくための指針となることを、心より願っている。

(『アンチレイシストであるためには』訳者あとがき より)

​【書籍紹介】

『アンチレイシストであるためには』

著者:イブラム・X・ケンディ

訳者:児島 修

定価:2,420円(本体2,200円+税10%)

判型:四六判/384頁

  

【著者略歴】
イブラム・X・ケンディ(著者)

1982年、ニューヨーク市生まれ。歴史学者、作家。ボストン大学〈反人種主義研究・政策センター〉の創設者であり所長を務つとめる。アメリカの人種差別の歴史を描いた『はじめから烙印を押されて Stamped from the Beginning』は全米図書賞(2016年、ノンフィクション部門)を受賞。2020年、タイム誌の〈世界で最も影響力のある100人〉に選ばれた。絵本『アンチレイシスト・ベビー』(合同出版)も幅広い年齢の人々に読まれ注目されている。

【訳者略歴】

児島修(訳者)

英日翻訳者。1970年生まれ。立命館大学文学部卒。主な訳書に、パーキンス『DIE WITH ZERO』(ダイヤモンド社)、リトル『ハーバードの心理学講義』(大和書房)、フィネガン『バーバリアンデイズ』(エイアンドエフ)、ハミルトン、コイル『シークレット・レース:ツール・ド・フランスの知られざる内幕』(小学館文庫)などがある。

【会社概要】

(1)名称:辰巳出版株式会社

HP:http://www.tg-net.co.jp/

Facebookページ:https://www.facebook.com/tgnet.co.jp/

Twitter:https://twitter.com/tatsumi_group

(2)代表者: 代表取締役社長 廣瀬和二

(3)所在地:東京都新宿区新宿2丁目15番14号 辰巳ビル

(4)設立:昭和42年11月1日

(5)事業内容:雑誌・書籍・ムック・コミックス・デジタルコンテンツ・等のメディア事業

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