バイトの賄い料理を作っていたら、上司から「味付けが上品だね」と言われた。
好きに味付けしたものをそんな風に感じていたなんて思いもよらなかった。
「幼い頃からいいものを食べると舌が肥えるんだよ。お母さん、おばあちゃんが料理上手なんだね」とも。そのとき、私の味は母の味だと気が付いた。
一人暮らしを始めた頃、外食や総菜になじめず、最初に作ったのは肉じゃがだった。味付けを母に聞いてわが家の味が再現できたとき、実家に帰ったような気持ちになった。私を育てた味は故郷を離れて寂しかった心を温めてくれた。
以来、作る料理は無意識に母の味が手本になっていたように思う。
私が幼い頃から仕事をしていた母は、料理の勉強を特別にしたことがなくて苦手と言っていたが、バランスのとれたおいしい料理だった。自炊するようになって、母の料理の良さに気付いた。
母の味は祖母の味でもあった。母の仕事の都合で祖父母の家で過ごすことも多かった。祖母の料理も母のものに似ていて違和を感じなかった。特に肉じゃがは玉ねぎの上品な甘さで、母も好きな味だと。
祖母の肉じゃがを食べると幼い頃の母と一緒に食事をしている気持ちになった。
いつの間にか身についた母の味が私の味と評価されて、一人前になった気分で誇らしかった。母に伝えよう。私の味が褒められたよ。おいしい料理で育ててくれてありがとう。
母のいじらしい笑顔が容易に想像でき、私はお玉を回す手が緩んだ。
油屋満理奈 22 東京都杉並区
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