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Thursday, October 7, 2021

哲学なきワクチン接種が国民の分断を招いた | | 中島克仁 - 毎日新聞

誤ったメッセージを送った職域接種

 新型コロナウイルスの新規感染者数が減少傾向を示し、10月1日には緊急事態宣言が解除された。

 これは新型コロナウイルスの2回のワクチン接種を終えた人の割合が全人口の約6割に達したことが大きな要因の一つと言えよう。

 ワクチン接種は重症化予防につながり、死者数も抑えることができる。菅政権がワクチン接種を積極的に進めてきたことは一定の評価ができる。

 しかし、政府はワクチン接種ばかりを一気に進めたため、「とにかくワクチンを打てばいい」という誤ったメッセージを国民に送ってしまったのではないか。特に職域接種は、ワクチンの目的を失わせ、深刻な国民、または社会の分断を招いた。今後のために、ワクチン接種の進め方を検証する必要があるだろう。

 ワクチンの本来の目的は重症化を防ぐことだ。ワクチンを打っても感染を完全に防げるわけではない。インフルエンザワクチンを接種しても罹患(りかん)することがよくあることからもわかるように、接種完了後に感染するブレークスルー感染の懸念は常にある。

 当然、接種していない人には感染しやすいままであるため、感染拡大そのものを防ぐものではない。猛威を振るったインド由来のデルタ株は、水ぼうそうと同じ程度と非常に強い感染力を持つとされ、空気中に漂うウイルスを含んだ微粒子エアロゾルによる感染も指摘されている。

 接種した方も一定の感染リスクがあることを認識しなければならない。だが、接種していれば重症化を抑える可能性は非常に高いとされ、これが最大のメリットだと言えよう。

 だからこそ、接種当初は、重症化リスクが高い高齢者、その次に基礎疾患のある方という接種順位をつけていたはずだった。その考え方を一気に壊したのが職域接種だ。

 本来ならば、最も先行接種をしなければならない医療従事者を除けば、高齢者、基礎疾患のある方、肥満などの生活習慣病リスクを抱えるようになる40~50代、もしくは社会を支えるエッセンシャルワーカーの方々という順序で接種を進めるのが、最も理解が得られるやり方だったのではないか。理解を得るためには納得できる「哲学」が必要なのだ。

国民の分断が加速

 政府はワクチン接種をコロナ対策の切り札として強調し、接種促進に向けて急なアクセルを踏んだ。考え方よりも接種数を重視し、業種関係なく国内企業に対して職域接種をするよう、煽(あお)った。

 その結果、働いている企業の対応力によって接種機会の差ができ、10~20代が早く接種できる一方で、基礎疾患があるのに接種が遅れる方がいるなど順序はバラバラになり、「ワクチンさえ打っておけば大丈夫」という雰囲気が浸透してしまった。

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