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Wednesday, October 13, 2021

ソニーを飛び出して会社設立 SREホールディングス西山和良社長に聞く不動産テックの展望 - ITmedia

 手続きや各種取引で商習慣や経験に頼ってきた不動産業界を、AIやIT技術を活用したデジタル化により変革しようとしているSREホールディングス。

 2014年設立の新興企業にもかかわらず、経済産業省と東京証券取引所が選んだデジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄2021)の中で、6月に「デジタル時代を先導する企業」としてグランプリを受賞した。

 同社の西山和良社長に古い体質が残る同業界を、どのようなデジタル手法を駆使して変えようとしているのか、インタビューした。

西山和良(にしやま・かずお) 2003年にソニー入社。12年にコーポレート企画推進部門・担当部長、14年4月にソニー不動産を設立し社長就任。19年6月にSREホールディングスへ社名変更し、同年12月に東証に上場、現在はSREホールデインングスの社長兼CEO。46歳。東京都出身

ソニー平井一夫社長から助言

――ソニー(現ソニーグループ)を飛び出して、自分で会社を設立したきっかけは?

 ソニーでは最初、事業部に所属してさまざまな改革や改善を担当していました。平井一夫前社長がちょうどソニーの社長に就任し、「ソニーをターンアラウンド(再生)させるぞ」と号令をかけ始めた時です。それぞれに事業を担当するカンパニーの中で、意見を積極的に発信する社員が集められ、12年に私もそのメンバーに選ばれました。

 そこで会社全体の戦略を考えるコーポレート企画を担当し、平井前社長をサポートする仕事をします。平井前社長からは「ソニーの大きなアセット(資産)で儲(もう)けるのではなく、自分の力を試してみなさい」とアドバイスをもらいました。

 ソニーという会社は社内からベンチャーをいくつか輩出していて、もともとチャレンジ精神が旺盛でした。インターネットプロバイダーのソネットを上場に導いた吉田憲一郎ソニーグループ社長、家庭用ゲーム機「プレイステーション」の生みの親である久夛良木健氏ら社内外で新しい事業を生み出すDNAがあり、挑戦する人はカッコいいというカルチャーがありました。

 最初は自分にはとてもできないと思っていましたが、創業した先輩の助言もあって起業したのが14年の4月でした。

ソニーには家庭用ゲーム機「プレイステーション」の生みの親である久夛良木健氏など、社内外で新しい事業を生み出すDNAがあった(写真提供:ゲッティイメージズ)

――どうしてソニーと畑違いの不動産分野で起業したのですか。

 新規事業を始めるにはコツのようなものがあって、3つ条件があると考えていました。1つはある程度の市場規模が既に日本にあること。例えば個人的な宇宙衛星などを始めるといっても市場が存在しなければ厳しいのです。その点で不動産はすでに大きな市場がありました。

 2つ目は、その市場は大きいけれども、改善の余地があり、利用者や消費者が「こう改善してほしい」という必要性を感じていること。 

 3つ目は、その改善を、デジタルなどを使って解決できる可能性が高いこと。この3つの条件を満たし、ソニーが進出していない分野を探してソニー不動産を設立しました。

 13年の12月ごろから起業のアイデアを考えていたのですが、早く作った方が良いという指摘もあり、翌年4月に会社を創設しました。このニュースが日本経済新聞の1面に大きく報じられ、大騒ぎになりました。創業当時、社員は私一人でしたが、その後、リクナビなどを使って不動産に詳しい社員を募集したら応募者が殺到しました。

西山社長はソニーが進出していない分野を探してソニー不動産を設立した(写真提供:ゲッティイメージズ)

テクノロジーツールの外販が不動産を上回った

――ソニーが不動産業界に進出することは業界内部から警戒されませんでしたか。

 最初はAIやITを使って消費者利益を追求したいと思い、スマートな不動産事業をしようと考えていました。各社の社長と話してみて感じたことは、ソニーが不動産のシェアを奪うことを警戒していることです。社長さんたちから言われたのは「ソニー不動産のAI・IT技術を私たちにも使わせてほしい」ということで、そうしたニーズがあることに気付きました。

 もともとソニー不動産の狙いは、不動産業界をデジタル化して活性化することでした。このツールを活用して業界全体がWIN-WINになれば良いかなと思い、内部向けに開発したツールを18年ごろから既存の不動産会社に外販をし始めました。

 19年になると不動産業界だけでなく、銀行や証券会社にも売るようになり、テクノロジーツールの外販事業による利益の方が不動産事業よりも多くなりました。このため、もはや事業は不動産事業だけではなくなったので、同年6月に社名をソニー不動産からAIとITを使って事業展開するSREホールディングスに変更しました。

――SREの不動産仲介の特徴は、売りか買いのどちらかに専任することにしているそうですが、業界の大半は両方を手掛けて両方から手数料をもらう「両手取引」です。なぜ貴社は、こういうやり方にしたのですか。片方しかやらないと手数料収入が大幅に減るのではないでしょうか。

 売りと買いを同じ会社がすると、利益相反になる恐れがあるので、片手だけの取引に専念する選択肢があってもいいのではということで始めました。このやり方だと、手数料は半分になります。ですが、減った分を開発したテックツールを使って改善を進めることによって、利益を出せるよう努力してきました。

 その中で訪問して契約を取る獲得率を高めることができました。片手取引をしている企業が少なかったので、「お宅にお願いしよう」という依頼もあり、3年くらいで黒字化できました。そのツールを外販できるようにもなり、業績も拡大していきました。

 万が一、SREの社員がある不動産物件の売りと買いの両方の仲介依頼を受けた場合は、売主と買主との間で覚書を交わして、お互いが利益相反にならないことをあらかじめ確認しておくようにしています。片手取引だけをしている不動産仲介は、まだあまりないです。

物件の査定時間を短縮

――実際にはどのような手法を使って不動産業界を変えようとしているのでしょうか。具体例を教えてください。

 1つの事例としては、不動産物件の査定があります。これまでは戸建て住宅やマンションの不動産価格を査定する際は、担当者が場所、最寄り駅からの距離、築年数や間取りなどを手入力して、経験と勘に基づいて価格を出していました。このために要する時間は査定書の作成も含め3時間ほど掛かっていたのです。しかも、査定結果と実際に売れた価格との誤差が7〜8%くらいありました。

 一方AIを使えば、たったの10分ほどで査定価格を出してくれます。しかも、入力は不動産の知識のない事務員でもできるので、コストも半分以下で済み、実際の成約価格との誤差も少なくなり査定価格の精度も高くなります。

 査定のベテランも高齢になればできなくなりますが、AIは歳を取りません。AIは最新の成約価格の情報も学んでいきますから、常に市場の最新情報がインプットされています。AIが出した適正価格より高く売ろうとしても、結局のところAIの出した価格が正しいことが分かってきて、最終的にはAIが出した価格の近辺で決まります。

――そうしたAIを使ったテックツールの仕組みはどうやって作ったのですか。

 社内にいる不動産プロと、60〜70人いるAIエンジニアが同じフロアに同居していて、商品企画の段階からどういうものをつくれば実務で使えるかを協議し、作ったものはまず現場で使ってもらいます。さらに現場の意見を踏まえて改修して、どの会社でも使える形にして外販しています。

――しかし、1億円以上もするような高額物件の場合は、売主はどんな人が買うのかを見ておきたいといったウェットな面がまだ残っているようですが。

 不動産取引の全てがデジタルに変わるのは短期的には難しいと思います。FAXを使って手続きをしていた世界から、ようやくITやAIを使う世界に移行してきた段階です。そこである程度の成熟期間をおいて、AIやITを使うのが当たり前の世界になってくるとかなり違ってくると思います。

 確かに高額物件ではそういう傾向がありますが、Z世代と呼ばれる20代の若い世代は対面で会わなくても、スマホやインスタグラムでコミュニケーションができてしまうので、そうした人たちが購買層の主役になってくれば、次第に変わってくると思います。そういう意味で、不動産DXはまだ幕が開けたばかりという状況です。

同社のAI不動産査定書サービスのイメージ

今後の事業展開

――「DX銘柄2021」でSREがグランプリを獲得できた理由は何でしょうか。

 まず社内の業務をデジタルの力を使って改革し、仲介ビジネスを片手取引でも成立するようにしました。さらに2つ目に、開発したツールを新規に社外で販売して実績を挙げて利益の大半を稼げるようにしたことがあります。3つ目は提供しているソリューションツールが将来的には不動産ビジネスのやり方を変革し得るものであることが評価されたのだと思います。

――コロナ禍の業績面への影響はどうでしたか。

 不動産業界はもともとデジタルのツールを使う機運はあまりなかったのですが、コロナ禍により2、3年デジタル化が前倒しされたと思います。不動産会社のトップと話していても、そういう傾向がみられます。同時に金融緩和が続いているので、不動産業界は好調です。このため業界では、この機会にデジタル投資を積極的に進めておこうという流れがあり、当社もその恩恵を受けています。

――今後の事業展開はどのあたりを期待していますか。

 不動産分野は自前ででき、金融分野は関係があるので、ソリューションツールの外販をさらに進めていきたいと考えています。例えば、証券の取引がある人に不動産についてのデータを掛け合わすことで、富裕層の分析に役立てることができます。そうすれば、その富裕層に適した営業が可能になります。これは不動産情報を常にブラッシュアップしている当社ではできますが、単にAIエンジニアだけの会社では不可能です。

 さらに物流や旅行などの業界にも販売できると思います。物流業界では3次元空間認識を活用して倉庫スペースの最適な運用に使うことができます。旅行分野では、ツアーの発売の締め切りが迫ってきたときに、どのタイミングでどの価格で売り出すかというダイナミックプライシングの分野などで、応用できると思います。このように不動産仲介という領域から、金融や物流などの分野に浸み出してきています。今後はこれまで手掛けてきたツールを横展開して事業を広げていきたいと思います。

 さらに、全ての企業がカーボンニュートラル(脱炭素)を求められるようになり、これをしていないと取引してもらえないなど死活問題になる時代が来ます。大企業だけでなく中堅中小企業も脱炭素が求められるようになるので、今後はこれに関するプロダクト、例えば二酸化炭素の排出量を可視化できるようものに取り組んでいきたい。大手は専門性を持つ人材がいるので取り組める一方、中小にとってはハードルが高いので、こうしたデジタルツールにはニーズがあると考えています。

全ての企業がカーボンニュートラル(脱炭素)を求められるようになり、これをしていないと取引してもらえないなど死活問題になる時代が来る(写真提供:ゲッティイメージズ)

中小でも使える汎用製品を

――将来はどういう会社にしたいですか。

 いま大手の不動産会社はDXに積極的に投資しているので、業界の未来は明るいです。これからは大手向けにハイスペック商品を提供するだけでなく、中小でも使えるような汎用製品も出していきたい。そうすることで、日本経済全体のデジタル化の底上げにつながるようなテクノロジープロバイダーになりたいです。

――経営者として日ごろから心掛けていることは何ですか。

 どんなに成功しても、それは単に運が良かっただけで、自分の力によるものだと過信しないことですね。SREがここまで成長できたのは、たまたまAIの実用化時期と、私の起業の時期が重なっただけのことで、ソニーで私の起業を応援してくれる人がいてくれたなど、良いことが重なったからです。油断による失敗を予防するためにも、そこは大切にしているところです。

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