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Monday, November 1, 2021

全社員6人がテレワークへ移行したソフトウェア会社に起きた実録トラブル集 - ITmedia

Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 アクタスソフトウェア(東京都新宿区)の坂下秀 代表取締役(以下、坂下氏)が発表した「コロナ禍において,小規模ソフトウェア会社での在宅勤務移行時に発生したさまざまな事象の報告」は、社員全員がテレワークを余儀なくされたソフトウェア会社が経験した多様な事象を時系列に記載した報告書だ。

 同社は取締役含め社員6人、ソフトウェア開発を主な業務とする2003年創業の小さなチームだ。そんな小規模な会社が新型コロナウイルスの拡大に伴い、2020年初めからテレワーク環境に移行し、2021年初めには全従業員が在宅勤務となった。

 決定当初の坂下氏は、技術面からは在宅勤務の実施に大きな問題はないと考えていた。自分で事務所のネットワーク管理を行っており内容を把握していたこと、以前から出張先や自宅から業務ができるような仕組みをある程度用意していたこと、社員が6人と少ないことが理由だ。

 しかし実際に実施してみると、技術的な問題や技術の範囲を超えた、想定していなかった問題が多数発生した。

photo 2021年1月28日に撮影した事務所内の様子

事務所内PCにログインできない

 業務であるソフトウェア開発をテレワークで行うに当たり、事務所内と同等の業務とセキュリティが可能なVPN経由で事務所のPCを各社員の自宅PCからRDP(Remote Desktop Protocol)で操作することにした。ソフトウェアのビルドは事務所のPC内にある仮想マシンで実施。

 しかし、事務所内のPCにログインできない問題が各社員から半年間で5回ほど発生した。その場で原因が分からなければその都度、出社を余儀なくされた。1日のうちに複数の社員から接続ができない旨の連絡を受けた日もあり、その日は自宅と事務所を行ったり来たりと非常に手間がかかった。

 ログインできない原因は、例えば、PCの電源がリモート側からシャットダウンされていたことや、BSOD(Blue Screen of Death)の画面のまま止まっていたこと、事務所PCの内蔵ディスクが物理的に故障したこと、無線LANとの接続が切れておりDHCPが動作していなかったことなど。以前のオフィス勤務ならば原因を早急に見つけ対処できることばかりだ。

遠隔操作

 開発業務の中には実機が必要な組み込みシステムがあるため、創業当初からオンプレミスのサーバを維持管理している。5月に入り暑くなってきたため、事務所内のサーバを冷やす必要が出てきた。

 エアコンは事務所の規定で24時間運転はできないため、エアコンのスイッチを操作する、遠隔操作機器のSwitchBotと、SwitchBotをインターネット経由で操作するSwitchBotハブミニを購入した。

photo SwitchBot

 遠隔操作については、電気と水道の検針(月に1回)や空調機の清掃(2カ月に1回)のために事務所内に入らなければならない管理会社の担当者たちがおり、中に入るために扉の解錠を行う必要も生まれた。

 その都度、出社するわけにはいかないので、遠隔で施錠と解錠ができるQrio LockとQrio Hubを購入。これらの遠隔操作が動作しているかを確認するため、監視カメラであるATOM Camも購入し設置した。

 取り付けたはいいが、Qrio Lockをインターネット経由で操作するためのQrio Hubが作動しなくなり、出社を余儀なくされたこともあった。このため、SwitchBotプラグをQrio Hubに取り付けて、インターネット経由でQrio Hubを再起動できるようにした。

photo Qrio Lock

給与明細の電子化

 在宅勤務前は印刷した給与明細書を紙で各社員に手渡ししていた。郵送だと手間や切手代がかかるため、電子化ができないか検討した。

 給与計算の委託先である会計事務所に連絡し、給与明細を電子化して公布できないか聞いてみたところ、すでに法改正が行われており、平成19年(2007年)1月1日から従業員の同意があれば給与明細の電子化による公布(Web、メール、PDFなど)が許されていた。

事務所宛に届く各種書類

 事務所に届いた各種書類をそれぞれ自宅宛に変更する。変更できた書類は、国税と地方税、給与支払報告書、健康保険料などの引落通知書、中小企業退職金共済からの書類だ。

 苦戦したのは、健康保険協会から届く社員分の医療費一覧の書類。個人情報が含まれているために送付先変更はできないと言われたが、食い下がって交渉を続けた結果、4月にまとめて送られる書類のみ送付先の変更が認められた。

 困ったのは法人契約のクレジットカードの更新時期に送られてくる新しいクレジットカード。クレジットカード会社に問い合わせると、自宅への郵送はできないという返事だったが、さらに交渉すると、郵便の追跡番号を教えるので自分で宛先を変更するようにと提案された。自宅近所の集配局への転送を受け付けてもらい、集配局で受け取ることができた。

 備品などの購入に使用するアスクルからの請求書は、宛先を当初、坂下氏の自宅に変更したところ、「住所+社名」の宛先に送付されため、受け取ることができなかった。そのため、「社名と事務担当者名として坂下」で登録し直し、さらに自宅の郵便受けにも社名を表示し無事解決した。

 自宅郵送に切り替えられず断念した書類は、社会保険関係の書類、法人契約のクレジットカードの明細書、労働保険関連の書類だ。

 その他、大量のダイレクトメールが送られてきており、それぞれについて送付しないように依頼。一部の企業は問い合わせ先がなく停止に苦労。公正取引委員会、企業統計調査などの書類は登記情報から送付されるようなので対応しようがなくそのままにした。

法人向けインターネットバンキング用PCが故障

 事務所に置いてある、事務担当者が使用する法人向けインターネットバンキング用PCが起動しなくなった。社員への給与や事務所の家賃振り込みを行っているため早急の対処が必要だ。

 インターネットバンキング用PCのSSDを使っていないPCに差し替え解決したが、今後のことを考え、新たにPCを用意してインターネットバンキング用の設定をしたいところ。しかし、このシステムはクライアント証明書を利用しているためPCが制限されており、他のPCへの移行は慎重に行わなければならない。失敗すると、余計な時間と労力がかかる。

 そのためPCの入れ替えは行わず、事務担当者の自宅PCで新たにユーザー登録し、インターネットバンキングが利用できるようにした。登録時にハードウェアトークンを必要とし、ひと手間かかった。

 会計管理ソフトウェアについても、特定のPCにのみインストールできる仕様なため、事務所のPCから事務担当者の自宅PCにインストール先を変更した。

在宅勤務前にやっておいてよかったこと

 在宅勤務前にやっておいて(たまたまやっていて)よかったことは、会社名義のクレジットカードを契約していたことと、クラウドベースの勤怠管理システムを導入していたことだ。

 会社名義のクレジットカードを契約する場合、支払いは会社の銀行口座であるため銀行印の押印のために出社しなくてはならないし、発行されるまで少なくとも1カ月はかかる。クラウドベースの勤怠管理システムを導入するに当たっても、就業規則の整備や法令との整合性の確認、社員の同意など3カ月程度要する。

 在宅勤務前の各種物品などの購入は、月末請求に応じてその金額を銀行振込していたが、これをクレジットカード決済に移行。クラウドベースの勤怠管理システムは、在宅勤務に変わっても社員の労務状況を容易に管理できたため役に立った。

最後に

 特定のPCにだけインストールできるソフトウェアの取り扱い、インターネットバンキング用PCの保守、事務所にある機材の故障、遠隔によるさまざまな操作、郵便で届く書類の処理、押印やFAXなど、在宅勤務への移行に当たり多くの対処や改善が必要だった。

 ログインできないトラブルも多発し、自宅から対処できない場合は何度も出社をしなければならなかった。今後もトラブルがあれば出社しなければならないし、自宅郵送に切り替えられなかった書類を引き取るために定期的な出社が必要となる。

 今回の件で、会社としてオンプレミスのサーバを維持してきたが、在宅勤務での管理が難しいと分かり、クラウドベースの作業環境に移行しつつある。

 事務所内の社員向けPCとディスプレイを社員の自宅に送付する。AWS(Amazon Web Service)との契約した上でメールはAmazon WorkMailへ移行する。ファイル共有は開発者向けに利用契約がたまたまあったMicrosoft 365に含まれているOneDrive for Business(1人当たり最大で5TB)に 。リポジトリについては以前から開発に一部利用していたGitHubにするなどの作業を行った。

 複数のクラウドサービスを利用するようにしたのは、例えば全てを特定のクラウドサービスに集中すると、そこが利用できなくなると業務が継続できなくなるためである。在宅勤務への移行とともに、クラウドベースの作業環境への移行も余儀なくされた。

※この記事と本文中の写真は、情報処理学会の研究会報告 研究報告インターネットと運用技術(IOT)2021-IOT-54巻 3号1 - 8ページ 発行年2021-07-02 を引用している

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