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Monday, June 13, 2022

ミシュラン三つ星店も採用、電気工事会社が育てる食用バラ - 日経ビジネスオンライン

年間3000社以上のビジネスパーソンの相談に乗る「スタートアップ界の禅僧」。そんな異名を持つ代表世話人株式会社の杉浦佳浩代表取締役が、日本各地で様々な事業に挑戦する企業を紹介。地方から企業が主体となって日本に活力を与える取り組みを応援する。連載初回は和歌山県で食用バラを育てる電気工事会社の経営者を紹介する。

 今回訪問したのは和歌山県南部にある古座川町です。東京23区の半分ほどの面積に約2400人が住んでいます。古座川町は信号機やコンビニエンスストアが1つもなく、町全体の面積のうち96%が山林とされ、人間よりもシカやサル、イノシシといった動物のほうが多く生息します。東京から飛行機で南紀白浜空港に降り立ち、そこから電車で2時間ほど。一枚岩の語源ともいわれる、高さ100メートル、幅500メートルの巨大な岩があることでも知られています。

 この古座川町の中でも奥深い山あいに、70世帯100人ほどが住む、旧三尾川(みとがわ)村というエリアがあります。ここで5年ほど前に新規就農をした経営者がいます。それが、あがらと(和歌山県)を運営する土井新悟さんです。電気工事会社の社長が農業に挑戦し、育てた食用バラはミシュランの星を獲得した飲食店への採用も決まりました。現在は、移住者3人と近郊地域から1人、土井さんで農園を運営しています。

あがらとの土井新悟社長は土づくりをはじめ、ゼロから農業を始めた

あがらとの土井新悟社長は土づくりをはじめ、ゼロから農業を始めた

和歌山県古座川町にある、あがらとの農園

和歌山県古座川町にある、あがらとの農園

 この連載の第1回に土井さんを取り上げたのには理由があります。単に新規就農に成功したというだけではなく、100年先といった未来の社会課題の解決に役立つにはどうすればいいのかを考え、職人気質な仕事のスタイルで農業という新たな事業を切り開いたからです。

杉浦の着目ポイント

●職人企業が体現するSDGs(持続可能な開発目標)経営
●ぶれない職人気質な仕事のスタイルでゴールに一直線

 あがらとは現在、農薬・化学肥料・動物性肥料不使用で食用バラを栽培しています。栽培をスタートしてから約4年の短期間にもかかわらず、栽培しているバラは3000株を超え、国内でも有数の規模となりました。土井さんは「近い将来、世界一の栽培株数である3万株を超えて、和歌山発世界一を目指している」と話します。そんな土井さんの仕事観、そしてこれまでの歩みをのぞいてみましょう。

「小学生商人」だった過去が今を支える

 土井さんの家は町の電気店でした。その仕事の根幹は掃除にあったそうです。家電を運び込んだ家の掃除をすることで顧客の信頼を得る──。そんな信条を持つお店でした。

 土井さん自身も小学校低学年の頃から店を手伝っていたそうです。年末になると車に蛍光灯を大量に積み込んで母が運転をし、土井さんが近所に売り歩く営業役をしていました。一軒一軒飛び込みで営業し、購入が決まれば雑巾を持って照明器具についたホコリを丁寧にふき取り、蛍光灯を入れ替える。そうすると、また買ってくれる。「小学生商人」としてそうやってリピーターとなる顧客を獲得していきました。

 しかし、町の電気店は1990年代の家電量販店の大量出店により、苦境に立たされます。そのため土井さんは工業高校卒業後、家業を継ぐのではなく電気工事会社に就職。4年後に独立を果たしました。

 電気工事職人として事業をスタートしてからも、仕事の根幹に掃除を置くことは変わりませんでした。個人宅に配線工事に訪れる際には、真っ白な軍手を使って器具を取り付け、軍手が汚れれば何度でも替えます。そこに妥協はありません。こうした仕事ぶりが口コミで広がり、順調に業績を伸ばして2011年に株式会社化しました。

 「お客さんが次のお客さんを紹介してくれるため、職人ばかりで営業担当がいない会社。リピートしてもらえるように仕事の結果を出すことが、最大の営業」と土井さんは話します。現在は電気工事業だけでなく通信工事業、飲食業などを営む10社で構成されるグループとなり、従業員数は80人ほど、グループ全体の売上高は16億円となっています。

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