11月30日、カヤックのグループ会社であるウェルプレイド・ライゼストが東京証券取引所グロース市場に上場しました。eスポーツ銘柄としては日本初の上場です。
米国ではフェイズ・クランというeスポーツ団体が上場しているそうですが、eスポーツ大会の企画運営や選手のマネジメントを行うeスポーツ専門会社としては世界初の上場ということになるようです。
そもそも同社が僕たちカヤックグループに参画してくれたのは2017年のことでした。ウェルプレイド創業者の谷田くんや髙尾くん、その後に合併したライゼストの古澤さんと一緒にやりたいと思ったのはなぜか。
今回の社長日記では、そのあたりを振り返りながら、今後の展開について語ってみました。
「日本初のeスポーツ上場企業」を最速で目指した理由
ー上場を目指そうと決めたのはいつですか?
谷田
2017年にカヤックと資本業務提携したときには意識していました。
柳澤
日本初のeスポーツ上場企業を最速で目指そうっていうのは、お互いに思っていましたよね。
谷田
当時、eスポーツというと「ゲームで遊んでいるだけでしょ」と思われがちで、ビジネスとして成立するとは思われていなかった。コアなファン層に対するニッチなビジネスとしては成立するかもしれないけど、そこまで市場は大きくならないだろうと。
でも僕たちはeスポーツの価値を高めたいと思ったし、eスポーツは将来オリンピック・パラリンピックの正式種目になると信じて会社を立ち上げました。だからeスポーツがビジネスとして成立することを証明するためにも僕たちが上場しようと。それがeスポーツ市場の可能性を証明する一番の近道だと思ったからです。
柳澤
もともと片岡くん(カヤック元・執行役員。2019年急逝)が結んでくれた縁でしたよね。
谷田
そうですね。Lobiの営業をしていた片岡さんと飲みに行って、意気投合して口説かれました(笑)。それで第三者割当増資の契約の話まで進んだのですが、いざ締結する段階になって、これでいいのかなと思ってしまって。それまで創業者だけで株を持っていましたから、第三者が株式を持つことで、会社がほかの人のものになってしまうようなこわさがこみ上げてきたんです。
契約締結の当日になって、最寄駅まで到着していた片岡さんに電話して「すみません、やっぱり今日は帰ってもらえますか」と頼みました。そうしたら片岡さんが「やだやだ」って(笑)。押し問答の結果、「今日は帰りますけど破談にしたくない。引き続き話すと約束してくれるなら帰ります」といわれて。
「我々がいかにウェルプレイドに本気で愛を持っているのか、証明する方法を探しています」といって、カヤックCFOのよっち、ゲームコミュニティ事業を統括するタラちゃんたちと一緒に、なぜ組みたいのか、目黒の居酒屋で二時間くらい熱く語られました。当時、ほかのゲーム会社さんやプラットフォームと組む可能性もありましたが、 ここまで思ってくれるなら一番うまくいくのかもしれないと心を決めることができたんです。「一緒にやります」とその場でお答えしました。
柳澤
片岡くんはM&Aにおいて豊富な経験があるわけでもないし、投資が成功する確信があったのかはわからない。とにかく単純に惚れこんだっていうことですね。理屈抜きで一緒にやりたいって。だから今回の上場を一番喜んでいるのは、実は片岡くんかもね。
ーカヤックの事業戦略としても、eスポーツ事業に積極投資しようと?
柳澤
いや、僕はそれはなかったです。そもそも「何をやるかよりも誰とやるか」だから。僕も谷田くんや髙尾くんと一緒にやりたいと思ったし、片岡くんやタラちゃんが二人に惚れ込んでいて、その二人がやりたいことがたまたまeスポーツだった。カヤックは面白法人だから、それぞれ自分が面白いと思うことをやって、面白いものをつくるのが大事。
ただ一緒にeスポーツのリーディングカンパニーを目指そうと決めたからには、やりきりたいから。もともとカヤックがやっているゲームコミュニティ事業と協業して、どうやったらeスポーツの生態系をつくれるのか、みんなで考えて。ライゼストと合併したり、「小学生向けeスポーツ教室」を運営するeSPやゲームのオンライン家庭教師サービスを提供するゲムトレ、 東南アジア向けにeスポーツ大会開催ツールを展開するPapillonといった会社と資本業務提携するなど、戦略的に進めました。でも起点は「誰とするか」ですよね。
「eスポーツとは何か」ではなく「eスポーツが実現する未来」を語る
ーeスポーツ銘柄として初の上場ということで、投資家にビジネスを説明する難しさもあったと思いますが、苦労されたことはありますか?
谷田
苦労ではないですが、ゲームタイトルやeスポーツ選手の話をしても、やはり投資家には伝わりづらいですよね。
上場前に機関投資家を回って説明するのですが、「最初に1分ください」といって、僕たちがゲームやeスポーツに賭けている思いをお話させていただきました。一般的には数字や事業構造の話がメインになるので、新鮮だったようですが、好意的に受け止めていただくことが多かったように感じます。「eスポーツのことはよくわからないけれども、こんな熱量を持って話すなら応援したい」といってくださる方も少なからずいらっしゃいました。
ー有価証券届出書にも、eスポーツへの思いが冒頭に書かれていました。
谷田
はい。やはり思いを伝えたかったので。
実際に上場準備を進める中では、ゲーム好きな方はもちろん、僕たちがマネジメントしている選手のファンだという投資家の方もいて、思った以上にeスポーツの裾野が広がっていることを感じました。主幹事証券会社にSBI証券さんが入ってくれましたが、担当の方がゲームに熱量を持ってくれたことも嬉しかったです。
柳澤
いい話だなー。僕も10年前にカヤックが上場準備したとき、最初に企業理念を語ったんですが、まったく共感してもらえなかったですね・・(笑)。1分じゃなく30分になっちゃったのがよくなかったのかなぁ・・。でもパーパス経営とか最近ではいわれてますから、時代が変わったのかもしれないですね。
谷田
そうですね。あとは市場の成長可能性についてお話するようにしていました。eスポーツ市場の規模は、2020年時点で67億円で、2024年には184億円。eスポーツファンは2020年に約686万人から、2024年には1461万人と予測されています。成長トレンドにあるとはいえ、市場規模としては、まだ大きなものではありません。
ただ他領域とのかけ合わせによる業容拡大の余地が非常に大きいと考えています。
日本語で発信されているゲームカテゴリーのライブ配信の視聴時間に関する調査があります。上位20チャンネルを見ると、eスポーツ選手によるゲーム配信の試聴時間が圧倒的に多い。
現在、多くのビジネスでは、可処分時間の取り合いが起こっていますよね。音楽を聴くのも動画見るのも、本を読むのもニュースを見るのも、1日24時間の取り合いです。つまり可処分時間を多く獲得できるプレイヤーにチャンスがある。
eスポーツには、その可能性があると思いますし、ライブエンターテインメントやインフルエンサーマーケティングにおける市場可能性も大きいと考えています。
ー2021年にライゼストと合併してウェルプレイド・ライゼストになりましたが、思いの部分は同じだったのでしょうか。
谷田
ライゼスト代表だった古澤さん(現:ウェルプレイド・ライゼスト代表取締役)もeスポーツへの愛が非常に強く、見ている未来は完全に一致していたと思います。合併後の経営統合を進めながら、コロナ禍もあってリアルイベントもこととごく中止になり、リモートワークで社員がなかなか顔を合わせられない中、通常に比べると短期間で上場準備をするという経験値をここまで積んだのはなかなか他では経験できない体験だったなと(笑)。
社員も含め様々なことを乗り越えるタイミングがありましたが、僕とウェルプレイド共同創業者の髙尾、ライゼスト古澤さんがすごく仲良くやれたのは大きかったかもしれません。3人がeスポーツへの愛を持って、楽しく、時にふざけながら、2つの会社が同じ方向を目指して真剣にやっていこうという姿は見せられたのかなと思います。
柳澤
そこはやっぱり「eスポーツの力を信じ、価値を創造し、世界を変えていく。」という理念の力が大きかったのかもね。
谷田
短い期間で上場できたのは、カヤックの存在も大きかったです。先を行く上場会社として、管理部門にはガバナンスのアドバイスをもらったり、ゲームコミュニティ事業部とは一緒に何ができるか話したりしました。今でもゲームコミュニティ事業部とは二週間に一度ミーティングをしています。
柳澤
上場はカヤックが通ってきた道でもあるから。役に立てたなら良かったです。これからもeスポーツ事業の会社が仲間になってくれることもあると思うけど、ウェルプレイド・ライゼストが上場したことで、組み方の選択肢が増えたのかなと思います。カヤックにジョインしてもらってもいいし、ウェルプレイド・ライゼストと資本提携することもできるし、双方で出資するスキームもあり得るよね。いずれにしても「誰とやるか」を重視して、チームを組んで面白いことをできたらいいなと。
ー今後の展開はどのようにお考えでしょうか。
谷田
最近、イベントやプロモーションで、インフルエンサーによるeスポーツ大会の配信が増えています。たとえばUUUMさんと組んだ「えぺまつり」。「Apex Legends」というゲームの大規模カジュアル大会としてスタートしたもので、YouTuberのヒカキンさんたちによる生配信を実施して、大きな反響を呼んでいます。視聴数も跳ね上がり、人が集まる場をつくることでスポンサーがついてビジネスになる。そんな流れが生まれています。
僕たちは、どうやったらゲーム大会や配信を盛り上げられるか考えて、企画を設計しています。たとえばチームごとに実力差がつきすぎると面白くないので、バランスよく組めるようにルールを決めるなど、コアなゲーマーはもちろん、あまり詳しくない人が見てもエンターテインメントとして楽しめるように、大会をプロデュースする役割です。
eスポーツファンが増えていくことで、新しいゲームの楽しみ方が生まれていくと思いますし、そんな場をプロデュースしたい。協業でも採用でも、新しい事業を一緒につくっていける人をお待ちしています。
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