冷凍保存用のタンク。実際に生殖医療センターで使用しているもの(写真:鈴木さん提供)
現在、政府がまとめている「第4期がん対策推進基本計画(案)」 のなかに、初めて小児・AYA(Adolescent and Young Adult)世代(15〜39歳)のがん患者の「妊孕性(にんようせい)温存療法」という項目が加わった。
妊孕性とは、妊娠に必要な能力のこと。がん治療によって低下、または喪失することがあるため、妊孕性を残す治療がいま注目されている。そこで、がん治療と妊孕性温存療法への期待と課題について、聖マリアンナ医科大学病院の産婦人科部長で、日本がん・生殖医療学会 理事長でもある鈴木直主任教授に話を聞いた。
「がん・生殖医療」とは何か
「がん・生殖医療」をご存じだろうか。日本がん・生殖医療学会によると、「がん患者の診断・治療・生存状態を鑑み、個々の患者の生殖能力に関わる選択肢、意思および目標に関する問題を検討する生物医学、社会科学を橋渡しする学際的な一つの医療分野である」と定義されている。
「がん治療によって根絶するかもしれない患者さんの妊孕性を何らかの形で温存し、将来の選択肢を残す医療が、がん・生殖医療です。通常の不妊治療とはまったく違って、がん治療の一環です」(鈴木さん)
がん治療の一環だからこそ、見失ってはいけないことがある。それはがんの治療が最優先であることだ。したがって、がんの進行度や治療開始までの猶予、全身状態などによっては妊孕性温存療法の適応とならない。
同院では、2010年にがん・生殖医療外来を開設。以来、乳がん、血液のがん、婦人科系がん患者が多く受診している。そのなかでおよそ半数が妊孕性温存療法を行ったという。
「妊孕性温存療法に至らなかった理由はさまざまです。がんが予想以上に進んでいたケース、がん治療開始まで時間的な余裕がなかったケース、温存は可能なものの患者さんが希望されなかったケース、以前は助成がなかったので経済的理由で諦めざるをえなかったケースなどがありました」(鈴木さん)
がん治療では、手術で女性では卵巣や子宮を摘出することで、男性では精巣を摘出することで、妊孕性が喪失する。放射線治療や抗がん剤治療でも影響が生じることがある。
「女性の場合、抗がん剤の作用で一時的に卵胞の発育が阻害されて、無月経になることがあります。また、シクロホスファミドやブスルファンなどのアルキル化剤は卵巣や精巣への毒性が強いため、妊孕性が低下・喪失することが少なくないです」(鈴木さん)
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