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Friday, March 10, 2023

【記者発】みんな一緒に助かるために 科学部・松田麻希 - 産経ニュース

岩手県釜石市の海岸で、行方不明者の手掛かりを求めて捜索する釜石署員=10日午前

「自分のことは柱にくくりつけてもらったら、あんたらは逃げたらええわ」

南海トラフ地震で大きな津波被害が想定される地域を取材した際に聞いた高齢の住民の言葉だ。避難行動に困難があるため、置いて逃げてほしいという。くくりつけるのは助かるためではない。津波に流された遺体を捜させないで済むようにである。

折に触れて、この言葉を思い出す。自分にとってひとごとではないからだ。私は車椅子を使っている。普段の生活はほぼ自立しているが、災害時にはそうはいかない。家族や周囲の人の足手まといになりたくない、私にかまわず逃げてほしいと思ってしまう。

きょう、発生から12年を迎えた東日本大震災。高齢者や障害者など避難行動に支援が必要な人たちの被害が特に大きかった。平成30年7月豪雨や令和元年台風19号でも被害が目立った。障害者らの困難を見聞きするたび、生き残ることをあきらめそうになる。

しかし逆の立場だったら、見捨てることなどできないと思う。助けようとしてくれる人と共倒れしないためには、一緒に助かるための精いっぱいの努力をするしかない。

東日本大震災を教訓として、国は平成25年に災害対策基本法を改正し、避難行動要支援者の名簿作成を全国の市町村に義務付けた。さらに令和3年の改正で、要支援者の個別避難計画の作成を市町村の努力義務とした。課題も多いが、取り組みは進んでいる。私自身、避難時にどのような助けが必要か、民生委員や町内会の方と話し合った。大変心強く、ありがたかった。

超高齢社会を迎えて、要支援者は増えるばかりだ。病気や障害でできないことはあっても、助けてもらうのを待つだけでは地域の防災は立ち行かない。自分にできることを考えなければならない。

避難所までは無理でも、家の外には自力で出る。助けが入りやすいように玄関周りは常に整頓しておく。避難所では力仕事は無理でも、事務仕事は手伝えるかもしれない。

これまでに取材した防災の専門家らも、みんなが少しずつでも努力することが全体をより安全に助けることにつながると指摘していた。どうか社会全体のために、自分が助かるための努力をしましょう。私も頭を絞ります。

【プロフィル】松田麻希

平成20年入社。東京本社で経済本部、文化部などを経て30年から科学部。現在の主な担当はIT分野だが、脳科学や宇宙探査なども取材する。

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