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Sunday, July 9, 2023

コラム勢いづく円安200507年上回る売り圧力かかる構図唐... - ロイター (Reuters Japan)

[東京 10日] - 昨年来、円安予想だった筆者から見ても、想定以上のハイペースで円安が進んでいる。足元のドル/円相場の上振れは、筆者がこれまで強調してきた需給というよりも金利・物価動向の影響が大きそうであり、ひと言で言えば「海外の利上げは思ったよりも長引きそう」という思惑がにわかに強まっている。

 昨年来、円安予想だった筆者から見ても、想定以上のハイペースで円安が進んでいる。唐鎌大輔氏のコラム。写真は2013年2月撮影(2023年 ロイター/Shohei Miyano)

<加速する欧米の利上げ、150円台も>

例えば、5月22日にはイングランド銀行(BOE)およびノルウェー国立銀行がともに25bpとの市場予想を超える50bpの利上げに踏み切ったことがサプライズを呼んだ。本稿執筆時点では米連邦準備理事会(FRB)は7月まで、欧州中銀(ECB)は9月までの利上げが既定路線と言われる状況にある。

日本の視点に立てば、せっかく需給面で貿易赤字が縮小過程に入り円安圧力が落ち着き始めたところで海外のインフレ懸念が再燃し、内外金利格差からの円安圧力が復活してしまった構図になる。

筆者は諸条件を考慮して円キャリー取引の環境が整いそうであるため「金利差が因果関係をもって円安に寄与するのは23年」という趣旨を強調してきた。

年始時点では「23年後半は利上げの無い世界」という予想が支配的で、FRBの利下げ転換が当然視されるような雰囲気すらあった。市場関係者の円高予想はこの利下げ転換を前提としたものがほとんどであったため、今のところ外れてしまっているのが実情だろう。

筆者も7月に至ってFRBの利上げが検討されるとは想定していなかったが、利下げ転換までは全く考えていなかった。また、過去の本コラムへの寄稿でもしつこく議論してきた通り、需給環境の激変を踏まえれば、大きな円高はあり得ないという立場を取っている。あくまで金利ではなく需給の影響力を重く見たことが、(少なくとも今のところは)予想が報われている背景と自己分析する。

<円安バブル時代と似た景色>

現状は「円安バブル」と呼ばれた2005─07年の雰囲気に似ているように感じる。当時も現在同様、日本以外の欧米主要国が連続的な利上げを行い「世界で唯一のゼロ金利通貨」として円の特異性が際立っていた。

円キャリー取引というフレーズは、当時から頻繁に使われ始めていた。キャリー取引は「金利の低い通貨を売って、高い通貨を買い、持ち続ける」という文字通り金利差(キャリー)の積み上げを企図した取引である。

キャリー取引において金利の低い方の通貨を調達通貨と呼ぶが、調達通貨に選ばれるためには2つの条件がある。1つは金利先安観が安定していること(言い換えれば十分な金利差が見込まれること)。

もう1つが潤沢な流動性を持つ通貨であることである。さらに言えば、貿易収支などの需給についても赤字構造であれば安心して調達通貨として選ぶことができる。当時の円は後述するように需給面では潤沢な黒字を抱えていたが、大幅な内外金利差があり、しかもその安定が見込まれる主要通貨という立ち位置にあった。

頼りになる調達通貨があり、金融市場のボラティリティが低下してくれば、それを売って高金利通貨を買うというキャリー取引が奏功しやすくなる。

2000年以降を振り返っても、2005─07年当時ほどボラティリティ(VIX指数参照)が長期にわたって落ち着いていた局面はなく、この点でもキャリー取引に適した相場環境だった。

「十分な金利差」と「低いボラティリティ」が安定感を伴えば、キャリー取引を持続するインセンティブになる。当時の日本では円安を背景に日本から海外へ薄型テレビを中心とする民生家電の輸出が盛んになり、大幅な貿易黒字が記録された。円安と輸出数量増加、結果としての貿易黒字拡大があったからこそ「円安バブル」という言葉が使われたのであり、「悪い円安」と揶揄(やゆ)される現在との大きな違いがあった。

余談だが「最近、『悪い円安』とはもう言わなくなったのは節操が無い」という論調をよく目にする。言わなくなったのはメディアの都合であって、家計部門にとって円安が負担になっている状況は大して変わっていないだろう。

今後、ドル/円が145円という節目を慢性的に超えてくれば必ず、また「悪い円安」論は顔を出す。現在、それが鳴りを潜めているのは、単に株価が上がっているうちは円安を責める議論が出にくいというだけであり、折しも資源高の落ち着きもあって円安の弊害が可視化されにくくなったという側面が相当大きいのだと思われる。

<円安バブル当時とは「別の通貨」>

話しを円安バブル当時との比較に戻すと、現在と異なる点が2つある。1つは利上げペース、もう1つは需給環境だ。

まず、前者に関しFRBを例に取った場合、2005年1月から07年7月までの30カ月間で300bpの利上げが行われた。一方、今回は2022年3月から23年6月までの15カ月間で500bpの利上げが行われている。

世界が異例のタカ派姿勢を貫く中でも日銀は緩和路線の堅持をアピールしており、「十分な金利差」とその安定感という意味では2005─07年当時をしのぐ。VIX指数で見ればボラティリティは当時よりもやや高いが、当時以上に「十分な金利差」が期待できるならば、多少の変動にも耐え得るというのが合理的な考え方ではないか。

だが、2005─07年の円安バブルと現在の決定的な違いは需給環境だ。先に調達通貨に選ばれるためには「金利先安観(十分な金利差)が安定していること」と「流動性がある通貨であること」の2つの条件があると述べたが、現在はここに「調達通貨の需給が崩れている(売り超過である)」というダメ押しの条件まで加わる。

数字で比較してみよう。貿易収支(国際収支ベース)で言えば、2005年が約11.8兆円、06年が約11.1兆円、07年が約14.2兆円と黒字額は、常に10兆円の大台にあった。

これはこの時代に限ったものではなく、現行統計(BPM6ベースの国際収支統計)で遡及可能な1996年からサブプライムショックが起きる2007年までの12年間、10兆円を下回ったことは2回(1996年と2001年)だけで、同期間の累積貿易黒字は約149兆円に達している。

この結果、07年の経常収支は約24.9兆円と史上最大の黒字を記録した。

一方、2011年から22年までの12年間で累積貿易収支は24.2兆円の赤字だった。もはや需給面では「別の通貨」である。

2005─07年当時は圧倒的な円買い実需を背景にしながらも「日本だけゼロ金利だが、主要国は軒並み利上げ」という構図が定着し、低位安定するボラティリティも相まってキャリー取引が盛んになった。

しかし、キャリー取引は投機色が色濃い取引だ。サブプライムショックそしてリーマンショックを経て金融市場のリスク許容度が縮小し、積み上がったキャリー取引が一気に巻き戻しを強いられた。残るは「実需の円買い」であり、その後、数年にわたる超円高時代が始まったのは周知の通りである。

つまり、当時は「投機は円安、実需は円高」だった。

<「投機は円安、実需も円安」という現状>

これに対し、今は「投機は円安、実需も円安」である。2007─08年は米国の金融政策がハト派に振れれば実需の円買いが顔を出す環境にあったが、今はそれがない。したがってFRBが利上げペースを落としたり、政策金利を高いまま据え置いたりする決断程度では円高に振れないのは当然と言える。

現状、円安が円高に反転するとしたら「売られ過ぎたから」くらいしか理由が見当たらない。もしくは今年3月のように金融不安などの勃発からFRBの利下げ期待がにわかに高まる展開や政府・日銀による為替介入くらいだろうか。

つまり自律反発と不測の事態に期待するくらいしか、円高への転換は起こりようが無いのが現状と見受けられる。

編集:田巻一彦

(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

*唐鎌大輔氏は、みずほ銀行のチーフマーケット・エコノミスト。2004年慶應義塾大学経済学部卒業後、日本貿易振興機構(ジェトロ)入構。06年から日本経済研究センター、07年からは欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向。2008年10月より、みずほコーポレート銀行(現みずほ銀行)。欧州委員会出向時には、日本人唯一のエコノミストとしてEU経済見通しの作成などに携わった。著書に「欧州リスク:日本化・円化・日銀化」(東洋経済新報社、2014年7月) 、「ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで」(東洋経済新報社、2017年11月)。新聞・TVなどメディア出演多数。

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