事業会社が自己資金でファンドを組成し、スタートアップに投資するコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)が広がっている。2021年に投資を行った企業数は12年比3・2倍の764社で、新設されたCVCファンドの総額は同10倍の830億円に拡大。スタートアップの成長にCVCはひときわ大きな存在になっている。CVCのコミュニティーも形成され、スタートアップとの相互交流も生まれている。(編集委員・川口哲郎)
Blue Circle(ブルーサークル、東京都渋谷区)の山田一慶共同代表パートナーらは、20年1月に日本で初となるCVCコミュニティー「FIRST CVC」を立ち上げた。現在はCVCを有する事業会社230社超の投資責任者・担当者が参加し、業界の枠を超えて交流、連携している。
メンバーは金融、商社、サービス、メーカー、運輸、流通、エネルギー・資源と多様な業界の大手企業が名を連ねる。山田代表は「スタートアップの事業開発の部分でCVCの役割は重要になる。大企業とスタートアップの連携を深める方が、成長に貢献する手段になり得る」と、コミュニティーを発足した背景を語る。
スタートアップ投資における国内資金の32%は事業会社によるCVCが占め、金融系も含めれば45%に達する。海外では独立系VCが7割以上を占めるのに比べ、日本はCVCの比重が大きい。政府もスタートアップ育成の政策を打ち出す中で、CVCの重要性を指摘している。
CVCが急増し、役割の重要性が高まる一方で、特有の課題も浮上している。CVC組織の多くは未経験の社内人材で構成され、人脈もない。知識や経験、ネットワークが不足している。これらの課題を解決するのがコミュニティーの目的だ。
FIRST CVCではセミナーや勉強会、研修を開き、学びの機会を設けている。このほか個別の企業同士をつなぐなどネットワーク作りも支援する。オンラインや実開催のイベントで出会いの場も提供する。「CVCを最近始めた人は、なぜこの企業に投資しているかといった他社のプラクティスを知りたいニーズがある」(山田代表)とし、知識や経験を共有できるように活動を工夫している。
CVCの件数や規模が伸びている背景には、投資先との事業シナジーを求める企業の増加がある。外部の技術や知見を取り入れるオープンイノベーションの考えの下、新規事業を創出する狙いだ。
一方でスタートアップにとっては資金供給を受けられるだけでなく、事業会社の持つ全国流通網などの資産や長い業界経験・ノウハウを活用できる恩恵は大きい。「大企業とスタートアップとを掛け合わせることで、それぞれが単独でできないようなビジネスや技術が出てくる」(同)ことが期待される。
CVCは短期的な成果を求めるものではなく、スタートアップの成長を見守る息の長いビジネスモデルだ。それだけに事業会社の経営層の理解が欠かせない。CVC担当者からのボトムアップだけでなく、トップダウンによって会社全体を巻き込む形での関与が重要で、成功のカギとなりそうだ。
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