利用料金の高騰といったコストの問題を理由に、クラウドサービスをやめてオンプレミスインフラにシステムを戻す「脱クラウド」に踏み切る動きがある。コストの問題を解消する手段は脱クラウドだけではない。複数ベンダーのクラウドサービスを組み合わせる「マルチクラウド」の実現も、クラウドサービスのコスト問題に対処するための有力な手段となり得る。
米国の保険会社Employers Holdingsは、2018年にマルチクラウドを始めた。同社はAmazon Web Services(AWS)の同名サービス群やIBMの「IBM Cloud」、Oracleの「Oracle Cloud Infrastructure」といった、複数ベンダーのクラウドサービスにシステムを分散させた。
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「マルチクラウドによって、クラウドサービスやその利用料金に不満がある場合に、システムを他のサービスへ移すことが容易になる」。Employers HoldingsのCIO(最高情報責任者)であるジェフリー・ショー氏は、こう説明する。
Employers HoldingsはAWSだけで数千台の仮想マシン(VM)を稼働させている。ショー氏はAWSなどのクラウドベンダーと交渉することで「利用料金を数年間横ばいに抑えられている」と話す。「『AWSは当社にどんどんお金を使わせるように仕向けるのではないか』と考えていたが、実際はそうしたことはなかった」と同氏は説明。AWSの料金設定には「一貫性があり、再交渉でさらに割引が得られた」と語る。
クラウドサービスのコストを削減するためには「継続的な努力が必要だ」とショー氏は強調する。過度な利用料金が生じないように、Employers Holdingsはクラウドサービス選びに「多くの時間と労力を費やしている」(同氏)。こうした努力がなければ「クラウドのコストは大きく膨らんでいた可能性がある」と同氏は振り返る。
Employers Holdingsは、クラウドサービスの利用料金の再交渉やコスト監視、クラウドサービスの比較検討を通して、利用コストを削減しようとしている。同社のクラウドアーキテクト、ジェレミー・ハーキンス氏は「『クラウドサービスを選んで採用したら、後は忘れてしまえばよい』という姿勢では駄目だ」と注意を促す。「各クラウドサービスの内容を把握して『他のクラウドサービスに移行することで、コストを削減しながら、より多くの機能を実現できないかどうか』を常に考えるべきだ」(ハーキンス氏)
第5回は、マルチクラウド実現のためにEmployers Holdingsが採用したIT製品と、同社が考えるマルチクラウド実現の課題を紹介する。
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