日本でもローカル5Gなどが注目される中、産業向けでの5Gの利用はどのように進んでいるのだろうか――。5Gの産業利用を推進する「5G-ACIA(5G Alliance for Connected Industries and Automation)」は2023年5月11日、東京で5Gの利用の拡大と今後の展望などを紹介するイベント「インダストリアル5Gデー」を開催した。その中で、5G-ACIAのボードメンバーであり、産業用ネットワーク機器をグローバルで展開する台湾Moxaの無線ビジネス/R&D部門統括を務めるDavid Chen(デビッド・チェン)氏に産業用5Gの現在地について話を聞いた。
インダストリー4.0で期待が集まる5G
MONOist 5Gの普及が進んでいますが、産業向けでの活用の進捗状況についてどのように見ていますか。
チェン氏 インダストリー4.0などデジタル技術を活用した産業の大きな変化が進む中で、無線通信技術はカギを握る重要な技術となってきており、その点で5Gへの期待は大きい。ただし、ローカル5Gを含めて、産業用途独自の5G活用が広がるにはまだ時間がかかると見ている。まずはスマートフォン環境で整備が進んでいるが、産業向けではさまざまな用途が想定され、スマートフォン端末に比べても低コストで使いたいというニーズもあるためだ。これは4Gなどかつての通信技術でもそうだったが、5Gも同様だ。商用サービスが開始されてから5〜10年がたち、基地局に関するさまざまな技術やデバイス、端末に搭載するプロセッサなどのコストが下がって初めて活用が広がると考えている。
こうした技術トレンドの一方で、産業用途ではコンシューマー向けとは異なるニーズなども存在するため、アプリケーション開拓やユースケース創出を5G-ACIAで取り組んでいるところだ。
「簡単」「安定性」「信頼性」「安全性」がローカル5Gの価値
MONOist 産業用途で使用する際の5Gの利点についてあらためてどう考えていますか。
チェン氏 一般的に言われているように、5Gには、超高速/大容量通信、低遅延、多点同時接続や高いセキュリティ性能などの利点があるとされている。その他でも産業用途特有のニーズに応えられる可能性があり、そのあたりへの期待もある。例えば、産業用ネットワークでは、集中型リソースに依存しない分散型ネットワーク接続であったり、高い信頼性や安定性、回復力であったり、長い期間の機器寿命やサポート体制であったりが期待されているが、ローカル5Gではこうしたニーズに応えられる。
あらためて、産業用途での5Gの利点をまとめると、「簡単」「安定性」「信頼性」「安全性」という4つのポイントに絞られると考えている。従来は安定性や信頼性の面などの問題からこれらのニーズに応えるネットワーク技術は有線に限られていた。そのため、モバイルなど無線ネットワークが必要な領域では「できないこと」も多く存在した。しかし、5Gにより、従来は有線でしか実現できなかったことが無線化できれば、新たな領域で新たな機器やサービス、ソリューションなどが活用できるようになる。従来になかった生産性向上や品質向上の方策が適用できるようになる。
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