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Sunday, May 26, 2024

“賃上げできない会社”がやるべき「半分ベースアップ」とは? 給与のプロ直伝 - ITmedia ビジネスオンライン

Q: 当社は中小企業です。大企業を中心に賃上げが行われていることもあり、現在の給与水準では新入社員の採用が年々難しくなっていることから、初任給を賃上げしてはどうかというアイデアが出ています。

 本格的に検討したいと考えていますが、一方で気にかかるのはその他の社員のことです。全社的な賃上げは、原資がないため断念せざるを得ず、社員の不満がたまるのではないかと心配です。

給与のプロがすすめる2つの方法

A: 初任給だけを上げるのは得策ではありません。「新しい賃金=現在の賃金×α+b円」というベースアップで、新旧賃金の逆転が起こらない調整するか、調整手当を出すことを検討しましょう。

初任給だけを上げるのは得策でない

 初任給を上げなければ、新卒の採用は難しいでしょう。初任給はこの2年間、急速に上がっています。図1は産労総合研究所による「決定初任給調査」の結果です。最近2年間で、大学卒は9.6%、高校卒は7.3%上昇しています。

photo 図1:初任給の推移 出典:産労総合研究所『決定初任給調査』(注:高校卒、大学卒とも、職種やコースなどで格差をつけずに一律に初任給を決定している企業の平均)

 しかし初任給だけを引き上げることはおすすめできません。

 人間には「衡平性」という性質があります。貢献に対する報酬の割合が、同僚と同じでなければ居心地が悪いという性質です。レベル100の貢献をしている同僚の賃金が80万円、つまり8割であり、自分の貢献がレベル90だとしたら、自分の賃金もやはり貢献の8割に当たる72万円が一番良い。75万円や70万円では困ると感じます。

 要するに差別はもちろん、ひいきも嫌がるわけです。何の貢献もしていない新入社員の賃金を既存社員より高くすることは、ひいきととられても仕方がありません。

 組織に不衡平が生じると、人は貢献を調整することによって衡平に近づけようとします。具体的には、離職や欠勤、怠慢な態度になったり、同僚に同様の動きを働きかけたりします。「もらいすぎ」の人もより貢献を増やして不衡平を解消しようとしますが、「もらわなさすぎ」の人が貢献を減らす行動の方が顕著に表れると言われています。

 同僚の賃金を知ることが、働く人の生産性に与える変化を調べた実験があります。これによると、自分の賃金が同僚より低いことを知った人は、知る前よりも生産量が減り、仕事に対する満足度も下がるという結果が出ました(※1)。新卒を獲得したいがために、その数倍の人数がいる既存社員の生産性と満足度を犠牲にすることは賢明でありません。

(※1)山根 承子・黒川 博文・佐々木 周作・高阪 勇毅『今日から使える行動経済学』2019年、ナツメ社

「半分ベースアップ」を行う

 しかし今まで新卒を定期的に採用してきた会社が、今年だけ空白にするわけにはいかない事情も理解できます。若い人が入ってこなければ、物事に対する新しい見方や考え方、異なる視点などが組織に入ってきません。

 全社的な賃上げをする原資がない場合、2つの方法が考えられます。1つは、誰の賃金も減らない「新しい賃金=現在の賃金×α+b円」というベースアップをすることです。旧賃金が低い人は大幅に賃金増、旧賃金がすでに高い人の増加率は小さめになります。

 仮に、

  • 高卒初任給=18万円
  • 実在者最高賃金=50万円

であるとします。この状態から、

  • 高卒初任給=23万円(5万円アップ)
  • 実在者最高賃金=50万円(据え置き)

に変えたいとします。

 この数字を実現したい場合、両者だけでなく全ての人の賃金を、おおむね「新しい賃金=現在の賃金×0.84375+7万8125円」という形で変換します。高校卒初任給は23万円に上がり、実在者最高賃金は50万円で据え置かれます。

計算式

 0.85375と7万8000円という数字の根拠は、少し算術的な話になりますが、次の通りです。

(1)18万円×A+B=23万円

(2)50万円×A+B=50万円

をともに成り立たせるAとBの値を求めます。

 (2)式から(1)式を引くと「32万円×A=27万円」です。これを成り立たせるAは27÷32で0.84375です。

 次にBを求めます。(1)式でも(2)式でも、どちらでも良いのですが、(1)式のAに0.84375を当てはめてみます。

18万円×0.84375+B=23万円

Bは23万円−18万円×0.84375で7万8125円です。

 Aに0.84375、Bに7万8125を入れると、(1)式も(2)式も、ともに成り立ちます。


 もちろん「×0.84375+7万8125円」という数字は、もともとの賃金と、変換後のターゲットとする賃金がいくらであるかによって異なります。常にこの数字があてはまるわけではありません。

 この方法は図1の通り、賃金カーブを、実在者最高賃金である50万円のところを支点にして時計回りに回転させることです。もともとの賃金が高い人ほど上がり幅が小さくなりますが、最高額の50万円の社員を除き、全員が上がります。新旧賃金の逆転も起こりません。

 ただしこの方法は、全員の賃金を5万円引き上げる場合に比べて、半分とはいえ原資を必要とします。全員が等しく底上げされるわけではなく、ベースアップの半分しか社内平均賃金が上がらないので、筆者はひそかに「半分ベースアップ」と呼んでいます。

photo 図2:「半分ベースアップ」

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