働き方改革や「人生100年時代」という考え方の影響で、会社員の副業への関心が高まっている。
この傾向は、人手不足に悩む中小企業にとってはチャンスだ。「求人を出しても、求めているような人材が応募してくれない」「人手は足りないが、フルタイムの正社員を新たに雇うのは負担」といった悩みを、副業者の受け入れにより軽減できる可能性があるからだ。
実際に、18人のメンバーのうち3分の2がほかに本業を持つ“副業メンバー”であるというYOUTRUST 代表取締役 岩崎由夏さんに、中小企業が副業者を受け入れるメリットや、副業メンバーが多い会社ならではの工夫を伺った。
■副業での「お試し期間」を経て正社員になるケースも
ーー 御社は副業や転職をしたい個人と企業とをSNSの友人経由で結びつけるサービス「YOUTRUST」を運営されていますが、会社はどのような体制になっているのでしょう?
岩崎:全部で18人のメンバーが関わっています。私も含めて5名がフルタイム(経営者もしくは正社員雇用)で、他に本業がある副業メンバーが12名、残りは学生インターンです。(2020年1月時点の人数構成)
ーー ということは、3分の2は副業の方なんですね。その方たちはYOUTRUSTでどのような役割を持っているのでしょうか?
岩崎:ITエンジニアが5名、それ以外は営業や、マーケティング、企画などを担当する方々です。それぞれの分野で腕に覚えのある方を採用しているので、本業でも同じ職種か、過去にその仕事をされていたという方たちばかりです。
ーー YOUTRUSTと同じ人材サービス関連の仕事を本業にされている人もいますか?
岩崎:皆さんインターネット業界で働いていますが、女性向けのアプリのマーケティングをやっている方もいれば、不動産情報サイトの企画を担当している方もいたりと様々です。本業で人材系のサービスをやっている、という方はいないですね。
ーー 2017年12月に創業されて、2年と少し経ったところですね。最初から、副業メンバーを積極的に採用していこうと考えていたのですか?
岩崎:明確に決めていたわけではないですが、必然的にこうなったと言ってもいいかもしれません。
この会社は、私が以前勤めていたDeNAで同期だった山田というエンジニアとふたりで創業したのですが、創業前の準備期間は山田はまだDeNAにいて、副業という形で手伝ってくれていたんです。私はその様子を見て「この人しかいないな」と思い、「会社を辞めて一緒にやりませんか」と誘ったんです。
ーー 山田さんも、副業で手伝ってみる期間があったことで、会社を辞めて起業する気になったのでしょうか?
岩崎:そうだと思います。
その後しばらく、フルタイムメンバーは私と山田だけでしたが、インターンとして働いていた子が去年の4月に新卒の社員として入ってくれました。そして今年の1月には、副業メンバーだった方が2名、フルタイムの社員になりました。
こんな感じで、フルタイムのメンバーも書類審査と面接をしていきなり採用、ということはしていないんです。私たちはすごく小さな会社だから、1人の影響力が大きいんですよ。知らない人をいきなり社員として採用して、もしその人が合わなかったらダメージが大きいです。雇われる側も同じですよね。まだ創業したばかりのところだと、「この会社、大丈夫かな」と不安になると思います。
直接の知り合いや、その紹介という形で信用できる人を探して、まずはインターンや副業という形で一緒に働いてみてもらう。その上でお互いに「間違いないな」と思えば社員になってもらうという形は、とても合理的だと思います。
■スポット的な仕事を他社に外注するよりも副業メンバーに任せた方が良い理由
ーー 必ずしも長く続かず、辞めていかれる副業メンバーもいると思うのですが、どんな理由が多いですか?
岩崎:本業が忙しくなったとか、転職をすることになって副業にどのくらい時間が取れるか見通しが立たない、といった理由が多いですね。
ーー なるほど。あくまで本業の方の状況に左右されるわけですね。
岩崎:逆に、こちらの方から「お願いする仕事がなくなったので」と言って契約を終了させていただく場合もありますよ。スタートアップなので、ある時期は必要だった仕事が必要なくなることもあるんです。だから、副業の方は基本的に1ヶ月単位で契約して、お互いの意思確認をしながら契約更新していくようにしています。
ーー そこは、正社員よりフレキシブルなんですね。
岩崎:まるまる1人分の稼働が必要ない仕事や今後なくなる可能性もある仕事のために正社員を採用することは難しいですから、そういう意味でも副業でお願いできるのはありがたいです。
ーー そういう仕事を専門の会社に外注するのではなく、副業メンバーを採用することにメリットはありますか?
岩崎:大きく2つあります。コストが低いことと、融通がききやすいことです。
専門の会社に外注するとなると、多くの場合はサービスをパッケージとして売っているので割高になるし、融通も利かないんです。副業の方の場合、外注先としてではなく私たちの仲間として会社の情報もできる限り共有すれば、それを踏まえて柔軟に動いてもらえます。こちらが細かく指示をしなくてもうまくいくんです。
■働き方改革で増加中の副業希望者。正社員採用よりも早く採用できるメリットも
ーー 確かに、会社と会社の取引となると、色々ムダも生じますよね。ただ、個人に仕事をお願いするとなると、その人が病気で動けなくなったらどうしよう、といったリスクも考えなくてはいけないですよね?
岩崎:今までにそういうことは起きてはいないのですが、もしその人ができなくなっても、代わりの人を探すことはできると思います。
もともと緊急度の高いことはお願いしていないですし、あくまで副業としてやってもらっているわけなので、一人の人の仕事量は0.1人月とか0.2人月程度なんですよ。それくらいであれば、今すぐ手伝ってくれる人を見つけるのは、それほど大変じゃないです。
一方、正社員を雇おうとなると、そんなにすぐに転職できる人はいません。今の会社との退職交渉に2ヶ月位かかるとすると、最初に接触してから入社してもらえるまでに数ヶ月は見ないといけないですよね。
ーー なるほど。働く側も、転職と副業では決断の重さが全然違うから、スタートまでの時間にも差がでるわけですね。
とは言え、そんなにすぐに副業希望者が見つかるものですか?
岩崎:今は働き方改革の影響で、以前なら10時とか11時とかまで残業していたような人が7時には帰されちゃう、という状況になっています。それで「平日の夜が暇だ」とか「もっと働きたい」という人が出てきて、副業希望者も増えているんですよ。家でYouTubeを観て過ごしたり飲み歩いたりするくらいなら、人の役に立つことをしたい、というような人たちです。
ーー 働き方改革の影響がこんなところにも出てきているんですね。
■副業メンバーに合わせて土曜日を出勤日に
ーー 副業の方は、平日の昼間は他の会社の社員として働いているわけですよね。YOUTRUSTの仕事はいつ、どのようにやっているのですか?
岩崎:最近は、「本業の合間に副業をしてもいいよ」という会社も増えているんですよ。だから、平日の昼間でもSlackで頻繁にやり取りしている人もいます。一方、本業と副業の時間をきっちり分けて、YOUTRUSTの仕事は平日の夜や土日にまとめてやっていらっしゃる方もいますね。
ーー 皆さん、リモートで仕事をしているんですか?
岩崎:基本的にはそうなりますが、必要なときにはいつでもこのオフィスに来てもらって構いません。以前は営業日を火曜日〜土曜日にして、土曜日には副業メンバーも会社に来ることにしていました。
ーー 月曜日を休みにして、土曜日を出勤日にしていたんですね。
岩崎:はい。当時は私たちとミーティングしたいという副業メンバーが多かったので、土曜日にその時間を取るようにしていたんです。今は土曜日がいい、というメンバーが少なくなったので土日を休みにしています。その代わり木曜日の夜は必ずフルタイムのメンバーがオフィスにいて、本業が終わった後にここに来れば、直接話ができるようにしています。
ーー 副業メンバーの働き方に合わせてコミュニケーションをとりやすい工夫をしているわけですね。
岩崎:その時々の要望や必要に応じて、柔軟にやっています。
ーー 他にも、副業メンバーが多い組織ならではの工夫はありますか?
岩崎:「ユートラ食堂」と呼んでいるんですけど、月に1回ここに全員が集まって一緒にご飯を作って食べたり飲んだりしています。
一緒に仕事をしていく上で、フェース・トゥ・フェースのコミュニケーションに勝るものはないと思うんですね。副業メンバー同士でプロジェクトをやってもらうこともあるので、そういうときに面識がないと働きづらいですから。
ーー そのときは、どんな雰囲気ですか?
岩崎:友達同士の”宅飲み”みたいな感じですよ。みんな、いつも同じオフィスにいるわけではないですけど、必ず共通の知人はいるので、楽しくやってます。
明日公開の後編では、「副業メンバーへの対価の支払い方」「副業メンバーに任せるべき仕事とそうでない仕事」「副業メンバーから正社員になってもらう方法」など、YOUTRUSTで実践されている副業者のマネジメントや採用のコツを伺います。
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