在宅勤務において適切に業績管理ができない、成果を評価することができないのは、日本企業の雇用がメンバーシップ型だからだ。今こそ、ジョブ型に移行すべきだ。昨今このような言説を、メディアを中心に見かけることがある。
これに対し、メンバーシップ型、ジョブ型という分類を提示した本人、労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎氏は違和感を隠さない。「個人の仕事の進捗が見えない、チーム連携がしにくい、評価がしにくいなど、今企業で生じている課題は、確かに個人別に仕事が切り分けられておらず、課やチームに仕事が割り振られていることが背景となっているものが多いのは事実でしょう。しかし、それらの課題が、全てメンバーシップ型であるために生じる課題でありジョブ型にすれば何もかも解決される、というように短絡的に考えるべきではありません」と、濱口氏は話す。
濱口氏がそもそもメンバーシップ型・ジョブ型という言葉を作ったとき、「どちらかが一方的にいいもの・悪いものという価値判断的な意味を込めたことはない」(濱口氏)というのだ。
リクルートワークス研究所『Works』
『Works』は「人事が変われば、社会が変わる」を提唱する人事プロフェッショナルのための研究雑誌です。
本記事は『Works』161号(2020年8月発行)「オンライン化による課題 その本質とは何か」より「視点2:ジョブ型にすれば解決するのか」を一部編集の上、転載したものです。
それぞれ時代や状況に応じたいい面・悪い面がある
ジョブ型雇用を、いま一度おさらいしよう。濱口氏は、「ジョブ型とは米国の自動車産業の工場労働者が典型で、その職務・労働時間・勤務地が限定されていることが大きな特徴」だと言う。「近代以前は、たとえミクロなタスクであってもその時々の契約によって個人が請け負う形が一般的でした。そうしたミクロなタスクをまとめて“ジョブ ”と呼び、請負のような形ではなく雇用の形をとるようになりました。これによって働く人々の身分が、ジョブによって保証される安定的なものになるというメリットがあったのです」(濱口氏)
しかし、工場労働者におけるジョブ型は、そのジョブがあまりにも事細かに細分化され、硬直性が高いことでも知られる。「厳格なジョブディスクリプションによって、これは自分の仕事、そちらは隣の同僚の仕事、と明確に線引きされています。線引きされたジョブをわずかでもまたいではならないのがルールで、例えば、管理監督者がごみを拾ったといって組合から指摘が入るのが本場のジョブ型です」(濱口氏)
そのようなジョブの線引きの発想をホワイトカラーにも適用し、雇用契約というのは契約の定めるジョブの範囲内でのみ義務を負い、権利を有するという発想が一般化し、ジョブ型の労働社会が成立した。「おおむね20世紀半ば頃までに確立したといわれています。欧米社会において、企業は上から下まで“ジョブの束”でできているのです」(濱口氏)
一方、同じ時期、日本企業で成立していたのがメンバーシップ型雇用である。職務も労働時間も勤務場所も契約で限定されておらず、無限定、すなわち使用者の命令で臨機応変に変え得る雇用の在り方だ。メンバーシップとは、企業という“共同体”のメンバーになるという意味であり、企業はいわば“将来にわたって一緒にやっていくという約束”によって束ねられている。1990年代初めまでこの日本独特の雇用の在り方は、欧米企業のジョブによって規定される働き方よりも、人々が主体的にフレキシブルに働くメリットがあるとたたえられてきた。しかし、1990年代以降、無限定の働き方のほころびがさまざま露呈したのは多くの人の知る通りだ。
「当たり前のことですが、時代時代によって求められるもの、適合するものが異なります。メンバーシップ型、ジョブ型の特性が変わらないにしても、そのときに置かれた社会環境や状況のなかで、その特性がメリットになることもあれば、場合によっては適合できずにマイナスになることがあるのです」(濱口氏)
“ジョブ型”に“成果主義”という概念は入っていない
今、この時はどういう状況かといえば、チームのメンバーがバラバラな場所で非同期に仕事を進めるリモートワークが増加しようとしている。「リモートワークを念頭に置けば、確かに一人一人にジョブが切り分けられているほうが適合的」だと濱口氏は言う。
「ジョブの塊が組織の空気中を漂っていて、マネジャーがメンバーを見回して、『○○さん、やってよ』と言えば、部下の誰かにそのジョブがくっつく、という日本企業の仕事の進め方は、時間と空間を全員が共有していてこそ可能になります。リモートワークのもとでは適合せず、マイナス面が目立つのは事実でしょう」
しかし、多くの言説が示す「ジョブ型にすれば成果が測りやすくなり、評価がしやすくなるかというのは別の議論」(濱口氏)だ。「“ジョブ型=成果主義”という誤解があるのだと思います。ジョブ型には成果主義の概念は入っていません。例えば米国のジョブ型社会でも、経営管理的な上位のジョブであればあるほど成果で評価される割合が高くなりますし、下位のクラーク的なジョブはほぼ時間給。彼らのジョブディスクリプションは、決められたことをきちんとやることですから、それは当然のことなのです」(濱口氏)
ただし、「ジョブが明確でないと成果を何で測るのかが決められないから、成果主義が回らないのは確か」(濱口氏)だと言う。成果で評価したいと思うのならば、ジョブと同時にそのジョブにおける評価の基準を明確にする、という別の議論が必要である。一足飛びに組織全体をジョブ型に移行するというよりは、まず、一人一人のジョブそのもの(仕事の範囲、役割、責任)を明らかにすることを検討すべきだろう。
「リモートワークにおいては、ジョブが明確という前提が必要です。実態としてその前提ができていないまま、成果を追い求めていくと、結局は昔ながらの情意考課の域を出ず、取り組み姿勢を評価してもらおうとする社員の長時間労働につながりますし、上司は部下の一挙手一投足、何時何分に何をしていたかを見ようとするでしょう」(濱口氏)
元に戻るのは持続不可能だから
問題は、「組織のありようは、そう簡単には変わらないこと」(濱口氏)だ。「多くの企業がジョブ型に移行すると言ったところで、新卒入社時から仕事を切り分けて与える企業はほとんどありません。日本企業では、何もできない新入りが上司の指示で何かしたり、先輩に教えられたりしながら徐々に成長していく。ですから、この4月に入社していきなりリモートワークに突入した社員の育成は機能していない。これが象徴的ですが、リモートワークを早々に止める企業があるのは、それが現場では持続不可能だと確信しているからでしょう」(濱口氏)
一方で、濱口氏は「この組織のありようは、リモートワークとは異なる文脈で、早々に変わっていかなければならない」とも言う。「現在、日本企業は、中高年層が組織のなかに増えていくという別の課題を抱えています。日本企業が続けてきた空間を浮遊する仕事を誰かがやる、というやり方は、新しいことをどんどん吸収して成長する若手には適合的であっても、中高年層には難しい。年を重ねても生産性高く働けるようにするには、ある一定の年齢で一定のジョブを自らの領域とし、そこでプロとして活躍していくというキャリアの道筋を作っていく必要があります」(濱口氏)
今回のコロナ禍で、突然のリモートワークによってある特定の職種、特定の職場で「ジョブを個々に切り分けたほうがうまくいく」と実感できたケースが局地的・散発的に起こっている。それはどういう職場や仕事なのか、つぶさに見ていくことで変化を促すきっかけになるのではないか。
本記事は『Works』161号(2020年8月発行)「オンライン化による課題 その本質とは何か」より「視点2:ジョブ型にすれば解決するのか」を一部編集の上、転載したものです。
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September 07, 2020 at 05:00AM
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