村上臣さん(左)と正能茉優さん(右)。
撮影:今村拓馬
「終身雇用崩壊」と言われるようになって、ようやくキャリアが個人に戻ってきた——。『転職2.0 日本人のキャリアの新・ルール』を書いたLinkedIn日本代表の村上臣さんはそう指摘します。
エンジニア、ヤフー元執行役員CMO、そしてLinkedIn日本代表と、自身も多彩なキャリアを歩んできた村上さんと、学生時代に起業する一方、博報堂、ソニーを経て現在はパーソルキャリア、そして大学での特任助教と独自の仕事観で複業する正能茉優さん。
2人のキャリアの築き方、価値観について、ジャーナリストでBusiness Insider Japanエグゼクティブ・アドバイザーの浜田敬子が聞きました。
キャリアが会社から自分に戻ってきた
浜田:村上さんの新刊、タイトルは『転職2.0』ですが、転職に限らずキャリア観の本ですよね? なぜこの時期にキャリアについての本を書かれようと思ったんですか。
村上:今まで多くの人が自分のキャリアを会社任せにしていたのではないでしょうか。それが「終身雇用崩壊」と言われるようになって、ようやくキャリアが個人に戻ってきたという感覚があります。でも、日本ではあまり学校でキャリア教育を受けていませんよね。
就職本も、転職本もたくさん出てるんですが、問題が2つあると感じていました。1つ目は、成功者バイアスが強すぎる。成功した人がキラキラした話をしても汎用性はありません。2つ目は精神論が多い。読み終わっても、「あの人すごい」で終わっちゃう。今回は体系立てて、今日明日から自分にできることに引き寄せて、実際にアクションができるようにすることにこだわりました。
浜田:正能さんはどんな感想を持ちましたか?
正能:この本で描かれている「企業と働く個人の関係」は、私自身の感覚、そして私が普段話している学生たちの感覚にすごく近いところがあると思いました。こうしたキャリア観を、社会で活躍されている村上さんが本にしてくださったことで、学生や若者たちは自分の感覚を後押ししてもらえたような気持ちになるのではないかなと。
「キャリアの軸を、自分に戻す」という話がありましたが、私自身、2014年に社会人になるタイミングでは、「正能茉優の人生をどうしたいのか」という気持ちで働き方を考えました。
私たちミレニアル世代は仕事や家族、友達、趣味など人生を構築するあらゆる要素を、それぞれ65点でもいいからバランス良く楽しむことで、人生全体で100点を目指したいと考えている人が多いと思います。
「仕事や家族、友達、趣味など人生を構築するあらゆる要素を、それぞれ65点でもいいからバランス良く楽しむことで、人生全体で100点を目指したい」。
撮影:今村拓馬
正能:私の父はバブル世代ですが、「仕事が落ち着いたら、いつか趣味を楽しもう。いつか家族とゆっくり過ごそう」と思いながら、人生のメインは仕事という生活を続けていて。でも私たちの世代って、学生時代に東日本大震災を経験して「そのいつかって本当に来るの?」と不安に思ってしまっているんですよね。
だから、仕事以外のことも含めて日々のバランスを大事にしたい。それらを大事にしようとすると、当時すでに社会で活躍していたバブル世代の大人に比べたら、私たちミレニアル世代は仕事にかけられる時間が少ないと気づいたんです。
でも、仕事をして収入を得て、好きなものは欲しい。だから自分の「1時間あたりの価値」を最大化しないと、望む人生が過ごせないと自分なりに考えて、就職してキャリアを積んできました。
そんなことを、村上さんが言語化してくださって、なんだか「ああ、あの選択って自分のわがままでもなかったし、間違ってもなかったんだな」とちょっぴり後押ししてもらえた感じです。
伝えたいのは「転職しろ」ではない
浜田:すでに終身雇用をやめると宣言する企業も出てきていて、人材育成などにも以前ほどお金をかけなくなっています。そんな状況はみんな分かっていると思うのに、それでもなかなか一歩を踏み出さないのは、なぜだと思いますか。
村上:やっぱり、動くことが怖いんだと思います。動いたらどうなるかを、想像できないから。確かに20代は違う環境に行っても適応しやすいけれど、40〜50代になると(キャリアも成功体験も積み重ねてきた分)、今までのやり方を変えるのが難しくなる。だからこのまま逃げ切ろうと考えてしまう。
『転職2.0』というタイトルですが、伝えたいことは転職しろ、ではないんです。社内での異動でも、自分から「◯◯やらせてください!」と手を挙げるでもいい。キャリアコンサルタントなど外の人に相談してみるとか。
とにかく一歩でも動くことで、自分の市場価値に気付けたり、自分に足りないものは何か、今後身につけなきゃいけないスキルや経験は何かを考えるようになる。
勇気を持って自分から一歩踏み出さないと、結局自分ごとにならないんです。その繰り返しで自信がついてきて、外に出てもいけるな、面白い会社に行きたいなと考えられるようになっていくと思うのです。
正能:一歩踏み出すのって、怖いですものね。私は今、会社員をしながら学生時代に始めた事業をやりつつ、、大学院で特任助教をしながら、自分も学生として研究しているという4つの立場で社会に関わっていて。
こういう働き方をしていると、働くことにかなりアグレッシブでポジティブな人だと思われがちですが、実はむしろ「怖い」という気持ちがそうさせているとも自覚してます。「何かあった時のために」というリスクヘッジのためでもあるんですよね(苦笑)。
どうしたら会社でやりたいことができるのか
Shutterstock/polkadot_photo
浜田:正能さんは博報堂からソニーに転職したわけですが、なぜソニーを選んだんですか。
正能:私は学生時代に始めたハピキラFACTORYの事業で、地域の特産物を魅力的にプロデュースして発信・販売するという活動をしていました。その中で気づいたのは、「ビジネスになるモノづくり」って「つくること・広めること・売ること」という3つの行為で成り立っているということ。活動の中でも一番難しいのが、実際に販路をつくっていく「売ること」だったんです。
ソニーに転職した時、私は25歳。その先の人生を考えた時、結婚して、子どもを産んで、親の介護もして…と想像すると、仕事だけに費やせる時間はあと5〜10年くらいだと思っていました。それなら、自分の大好きな「ビジネスになるモノづくり」をもっとコスパ良くできる場所、つまり「つくる・広める・売る」を最速で実践できる場所に行きたかった。
それで、世界中に販路を持つソニーを選んで、モノづくりをしたいと思いました。
村上:自分がしたいことと会社でやれることを一致させている。それって、幸せに働くためにはすごく大事です。理想的な転職の形態ですね。
正能:確かに、「自分のやりたいことをソニーでやらせてもらう」という感覚で、「ソニーの正能茉優になる」という感じではなかったです。
浜田:でも自分のキャリアアップのために会社を利用するという考え方を、日本の企業はすごく嫌いますよね。
村上:最近、ようやく受け入れられてきている感じですね。
僕は新卒で、野村総研に入りました。大学時代に現在ヤフーCEOの川邊(健太郎)らが立ち上げた電脳隊というベンチャーで、今のKDDIとEZwebの立ち上げの仕事をしていて、大企業の論理に初めて触れたんです。僕らからすれば、サーバーさえ買ってくればすぐ立ち上がるのに、稟議でずっと待たされたりして。
でもそれで大企業の論理を知りたいと思い、それも何社も知るためにコンサルを志望したんです。その時の面接でこう言いました。野村総研って普通は定年までいると思うんですけど、「僕はこういう変な経歴なので、いても5年です」と。当時は1999年ですね、就職氷河期。
浜田:日本経済がどん底な時に、よく言えましたね!
村上:当時からフリーのプログラマーとして仕事もしていたので、どんな状況でも「食えるな」と思っていました。だから、嘘つかずに言った方が良いだろうと。そしたら、野村総研が「面白いね!」って言ってくれました。
浜田:何年いらしたんですか?
一社目の野村総合研究所では「僕はこういう変な経歴なので、いても5年です」と、正直に伝えたという。
撮影:今村拓馬
村上:10カ月(笑)。辞める時にめっちゃモメました、「お前、5年いるって言っただろ!」って。当時新卒150人は修士・博士ばかりで学部卒は4人だけ、僕はその1人でした。
基本的にお客さんである大企業の業種ごとに部署が分かれているのですが、一つだけ自分たちでパッケージを開発して売る、自由で独立独歩な部隊があって。僕は新人で1人だけそこに配属されたんです。エンジニア採用だったのに、セールスとして働き始めました。
半年くらいして数字も出せるようになったころ、中途入社した営業の先輩から「おまえ、インセンティブ(ノルマを達成した社員に支給する報償金)もらえるの?」って聞かれたんです。部長経由で人事に確認したら、「新卒は全員、3年間は一律だから待ってくれ」って言われて。その時の部長は面白くて、「一回辞めたら、中途で採用してやる」とまで言ってくれたんですが。
当時はITバブル崩壊直前で、古巣も盛り上がっていました。川邊にこの野村総研での体験を話したら、「じゃあ、人足りないし戻ってくれば」と。迷ったのですが、ITバブルが弾けるのを見たいという思いもあり、(電脳隊ほか3社によるジョイントベンチャーのP.I.M.社に)戻りました。
正能流、逆算型キャリアの作り方
浜田:正能さんはなぜソニーからパーソルに転職したんですか?
からの記事と詳細 ( 会社でやりたいことをやるにはどうするの?転職2.0時代を生きる【村上臣×正能茉優】 - Business Insider Japan )
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