企業の人事部門でもDXの取り組みが進み始めました。これまで「経験や勘」に頼りがちだった異動や育成などを合理的に変えていこうという機運が高まっているのです。 しかし、長くやってきた慣習を変えるのはそう簡単ではありません。例えば、関西に新たな拠点を立ち上げることになった場合。適任者は誰がいいか? 多くの会社ではこれまで、人事異動を考えるときに断片的な情報や印象で「ならば〇〇さんを抜擢しよう」と決まりがちでした。これが「経験と勘」の人事。
■退職を考えるきっかけの半数が「異動」 筆者も前職のリクルートで経営幹部をしていた際、経験と勘に頼った人事をしていた気がします。当時、将来のためになるはず……と、管理職向けに経営者を招いた勉強会を開催しましたが、目的は漠然としたものでした。本人が5年以上前に「営業をやってみたい」と話していたというだけの記憶を頼りに、優秀なエンジニア職を営業部門に異動したこともありました。今思えば乱暴な人事でしたが、当時はどこでも同じようなものだったのです。
これがつい最近まで平然と長く続いてきました。人事以外の部門では経験と勘から脱却した手法が当たり前になりつつあるなかで、変わらなかったのです。そんな頑強な慣習に楔が打たれて「人事を合理的に行うべき」という機運が出てきました。 この急激な機運は、何が要因なのか? 社員による突き上げが大きいように思えます。近年、会社が示した人事に対し、「納得できないので断ります」と異動を辞退する社員が増加。経験と勘の人事に不満を抱き、退職に至るケースも増えました。各種アンケートでも異動が退職のきっかけになると考える人が半数を超えています。
異動の辞令に対して「理由を説明してください」と切り出す若手社員も急増しています。ところが、会社側はというと、合理的な説明ができない。こうして「納得できない」「異動はできない」「会社を辞めます」となり、困る上司の声を聞くようになりました。 自分の若手社員時代ならありえない……と思いつつも、退職者が出れば、上司自身の査定にも影響が出てしまいますから、対策を考える必要が出てきます。上司1人の問題ではなく会社として取り組まないと大変なことになりそうな状況とも言えます。
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