いまだに終息していないコロナ禍や深刻になっている検閲の脅威が、アジア地域のアーティストの制作や表現の自由を危うくしている。これらの問題に関する注意を喚起し、そして解決案を探るために、非営利団体・PENアメリカによるプロジェクト「Artists at Risk Connection」(ARC)が調査報告書を発表した。 「Arresting Art:Repression, Censorship, and Artistic Freedom in Asia」と題されたこの報告書は、ARCがMekong Cultural Hub(MCH)およびAsian Forum for Human Rights and Development(FORUM-ASIA)と共同で制作したもので、昨年12月に開催したバーチャルワークショップでの議論と結果をまとめている。このワークショップでは、アジア地域の17ヶ国から30名の参加者と5名の司会が「検閲」「表現の自由」「国家の行動」といった芸術の自由を抑制する3つの中心的な問題について議論を行った。 報告書によると、アジア地域のアーティストは主に次のような3つの課題に直面しているという。まず、コロナ禍の影響により多くのアーティストはすでに経済的に不安定な状態にあったにもかかわらず、作品を発表する公共の場が縮小することで、芸術活動が続けられない状況に陥っている。また、デジタルセキュリティに関する法律や規制は、国家の安全と主権を守るという名目で、インターネット上での検閲や不法な拘束を常態化させている。さらに、宗教的、民族的、あるいは性的な少数派のアーティストは、より厳しい脅威にさらされている。 昨年、アジア太平洋地域の17ヶ国で148件のアーティストに対する権利侵害が発生。その多くは、コロナ禍に対する政府の対応など、政府を批判したケースがターゲットだった。例えば、バングラデシュのフォトジャーナリストであるシャフィクル・イスラム・カジョルはデジタルセキュリティ法によって逮捕され、237日間にわたって拘束。また、タイの反政府グループ「Rap Against Dictatorship」の設立者であるデチャトーン・バムルングムアンは、学生が主導する民主化抗議デモでパフォーマンスを行ったことにより、扇動行為を含む様々な容疑で逮捕された。 これらの課題に対してARCは、「アジアのアーティストは、アイデンティティ、年齢、性別、地理的な位置、文化、宗教、民族、社会経済的な状況など、非常に多様であるため、芸術の自由の侵害に対処するための万能の公式は存在しない」と指摘。いっぽうでワークショップの参加者は、以下のような提言を行っている。 まず、危険にさらされているアーティスト、文化機関、人権団体をつなぐ持続可能で安全なネットワークを構築し、重要な情報やリソースの交換を促進する。また、資金調達の方法やルートを再構築し、アーティストが自らの権利や利用可能なリソースをよりよく認識できるような能力開発やトレーニングを強化する。さらに、法律扶助と緊急措置を強化し、危機の際にすぐに実行可能な手段をアーティストに提供する。 今回の報告書の結論として、ARCは「経済的な課題、脅威、迫害に対処するためには、芸術界と人権界の連帯、協力、リソースの共有を強化することが急務となっている」としつつ、次のようなことを強調している。 「今回のワークショップで明らかになったのは、アジアの多くの地域では、芸術と市民社会のあいだの断絶が明らかな不信感にまで発展しており、ほとんどのアーティストがリスク時に無視されている、あるいはサポートされていないと感じているということだった。このギャップを埋めることは、アーティストの権利を守るだけでなく、彼らが住む社会での表現の自由を強化するためにも、緊急かつ必要なことだ」。 なお今回の報告書に加え、ARC、MCH、FORUM-ASIAは、アーティストたちが直面している問題や脅威、そして自分自身と創作の権利を守るために築いたコミュニティについて、直接語る限定的なポッドキャスト・シリーズを開発している。報告書の全文はぜひ ARCのウェブサイトから確認してほしい。
からの記事と詳細 ( 表現の自由を失ったアーティストに連帯を。「Artists at Risk Connection」の調査報告書で示される事態の深刻さ(美術手帖) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース )
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