世界各地を旅してきた旅行作家・下川裕治さんが、アジアの旅先で味わったもののうち、「ビールに合う」ものを厳選してつくります。今回は下川さんと写真家の阿部稔哉さんが、ミャンマーの揚げ豆腐「トーフジョー」をそれぞれ自宅で再現。勝負どころには、下川さんが失敗から得たコツが大事そうです。
■本連載「クリックディープ旅」(ほぼ毎週水曜更新)は、30年以上バックパッカースタイルで旅をする旅行作家の下川裕治さんと、相棒の写真家・阿部稔哉さんと中田浩資さん(交代制)による15枚の写真「旅のフォト物語」と動画でつづる旅エッセーです。
(写真:Scene4は下川裕治撮影、ほかは阿部稔哉撮影)
絶品ビールおつまみ・ミャンマーの揚げ豆腐
アジアの旅先で出合ったビールのおつまみ。その味わいを日本で再現してみるシリーズ。今回はミャンマーの揚げ豆腐。
コロナ禍で外出が制限されるいま、せめて家のテーブルを旅気分に……。いや、僕ら自身が、アジアの味が懐かしくなってきている。
揚げ豆腐の舞台はミャンマー北東部のシャン州。さっと調理できるため、ビールと一緒に注文する人も多い。揚げ豆腐。トーフジョーといえば通じる。
ミャンマーは多民族国家だ。最も多いビルマ族のほか、100を超える少数民族がいる。北東部が拠点のシャン族は、少数民族のなかでは最も人口が多い。各民族には、独自ワールドがある。ミャンマーは訪ねるエリアによって、料理は劇的に変わっていく。 紹介する揚げ豆腐……豆腐といっても、使っているのは大豆ではなくひよこ豆。その味がミャンマー北東部の山間の風景を思い出させる。
短編動画
ひよこ豆の揚げ豆腐は、この動画に倣えばいい味になるはず。僕は溶かしたひよこ豆に火を通すところで焦ってしまったが、この動画のような固まりぐあいをめざしてつくってもらえれば大丈夫。焦って進めず、のんびりムードで調理していくのがコツ? ミャンマーのシャン州の人々のように。
トーフジョーとつくり方 「旅のフォト物語」
Scene01
揚げ豆腐をつくる前に、この料理の本場、ミャンマー北東部のシャン州でよく食べるのがこのショウガサラダ。これもビールに合う。かつてはこのミャンマービールが多かった。しかしミャンマー国軍系企業ビール。クーデター以降、多くの市民がこのビールを避けている。(チャイントン、2014年)
Scene02
シャン州は海から離れ、丘陵地帯が広がる一帯。料理は魚介類が少なく、肉や野菜が中心になる。この串揚げ、タイで見た人も多いはず。そう、シャン料理はタイ料理に通じている。タイは昔、シャムと呼ばれた。その語源はシャンという説まである。タイとのつながりは料理を口にするとわかります。(チャイントン、2014年)
Scene03
タチレク。タイからシャン州に直接入るときは、この街が入り口。僕がはじめて目にした陸路の国境がここだった。地元の人は行き来が自由だったが、外国人は国境の橋の上で止められた。簡単に越境できるようになったのは十数年前。ところが昨年から新型コロナウイルス、そしてクーデター。で、国境閉鎖。いま街はどうなっている?(2014年)
Scene04
ミャンマー人、それはシャン州の男たちも同じだが、日本人に似た酒の飲み方をする。まずビールを1~2杯。それからウイスキーに移っていく。この種の店のメニューは、おつまみが中心で、ご飯ものや麺料理はない。アジアでは飲み屋と食堂が一体化している国が多いのだが。つまりミャンマー人は酒飲みってこと?(マンダレー、2018年)
Scene05
これはビールのおつまみではなく、ご飯のおかず。鶏肉の炒め物だ。シャン州の料理は香辛料をたっぷり使うから、これもビールのおつまみになってしまう。アジアへ出向くと、ついビールに手がのびてしまうのは、きっと香辛料が原因? そんなことを考えながらアジアのテーブルでビールを一杯。(タチレク、2014年)
Scene06
ミャンマーでは揚げ物のバージョンが広い。タイにもあるが、ミャンマーのほうが充実している気がする。ここは臓物中心の串揚げ屋。小腹がすいた客がふっと寄って1本、2本……。家飲み組もここでテイクアウト。ビアガーデンのような店では、串揚げコーナーを店内に設けることも。ビール好きにはうれしい国です。(ミャワディ、2014年)
Scene07
ミャンマーはビールのおつまみも多彩だが、酒そのものも幅広い。これはツァピーと呼ばれる酒。日本流にいうと「どぶろく」。米にハーブを入れて発酵させたもので、ミャンマー北部では祭りの酒でもある。ビール瓶に詰められているが、中身は白濁酒。素朴な風味に包まれます。(ミッチーナ、2004年)
Scene08
ミャンマーのシャン州には豆腐そばがある。麺の上からどろどろの豆腐をかけ、具や香辛料をからめて食べる。シャン州と接するタイ側のメーサイの街で食べた。この豆腐、ひよこ豆からつくる。ひよこ豆にはさまざまな応用料理がある。そのひとつが、これから紹介するトーフジョーだ。(2003年)
<トーフジョーの再現料理はここから>
Scene09
ひよこ豆の粉は東京の高田馬場にあるミャンマー食材店からとり寄せた。トーフジョーをつくるというと、ミャンマーとインドから届いたものの2種があるという。ミャンマー製にした。届いた粉は、ひよこ豆60%、緑豆40%の混合粉。現地では有名なメーカーらしい。
Scene10
ひよこ豆の粉100グラムを約470mlの水で溶いて、塩と砂糖少々を加える。急いで先に進もうとする気持ちは禁物。ミャンマー料理はのんびり構えることがコツ。水に溶くときダマができやすい。これがあると、ぼろぼろのトーフジョーになってしまう。1回目の勝負どころだ。丁寧に、丁寧にダマを潰して水に溶かしていくことだ。
Scene11
水に溶いたひよこ豆を火にかける。どろりと硬くなるまで火を通すのだが、僕は最初、ここで失敗してしまった。一気に固まるので焦って火を止めてしまい、中途半端に。中火で2分ぐらいが適当だろうか。その後、弱火にしてよく混ぜる。すくって鍋に落とし、形が戻るのにちょっと時間がかかるくらいになったら火を止める。2回目の勝負どころ。
Scene12
形成するにはまだ軟らかいひよこ豆の豆腐。それを冷やし、硬さを増す。まず豆腐をボウルに移す。それより少し大きめのボウルに水を張り、その上に豆腐を入れた容器を入れた。このほうが早く冷える。水に浮いたボウルをまわせば、より早く冷える。ここがうまくいけば、トーフジョーはできたようなもの。
Scene13
40分ほど冷やした。常温になったトーフは固まり、しっかり容器に張りついている。硬いプリンのような感触。ボウルの縁からヘラを差し入れてはずした。それをサイズを考えて切り分けていく。厚さが1センチから1.5センチほどが適当だろうか。「厚すぎるとおいしくない」とシャン州からきたミャンマー人はいう。
Scene14
揚げる。日本の豆腐に比べると弾力が弱くもろいので、指でつまんで油のなかに入れようとすると折れてしまいそう。油跳ねもありそう。そこで網じゃくしのような、先端が網になっているおたまを使うといいかもしれない。油の温度は180度ほど。表面をカリッとさせたいので、少し長めに揚げた。
Scene15
完成。トーフジョーは日本のミャンマー料理店、とくにシャン料理を出す店には必ずある。そこで出てくるものに、見た目も味も遜色はない。たれは好みで。シャン州ではスイートチリのたれをつける人が多い。ひよこ豆の粉を水で溶くときと、火を通して固めるところというポイントをクリアすれば、それ以外は難しくない。固めたトーフジョーを冷蔵保存しておけば、いつでもミャンマー、シャン州の味。
※再現してみた日:6月15日
【次号予告】次回はタイ風ソーセージ、ネームに挑戦します。
2019年に連載された台湾の秘境温泉の旅が本になりました。
台湾の秘湯迷走旅(双葉文庫)
温泉大国の台湾。日本人観光客にも人気が高い有名温泉のほか、地元の人でにぎわうローカル温泉、河原の野渓温泉、冷泉など種類も豊か。さらに超のつくような秘湯が谷底や山奥に隠れるようにある。著者は、水先案内人である台湾在住の温泉通と、日本から同行したカメラマンとともに、車で超秘湯をめざすことに。ところがそれは想像以上に過酷な温泉旅だった……。台湾の秘湯を巡る男三人の迷走旅、果たしてどうなるのか。体験紀行とともに、温泉案内「台湾百迷湯」収録。
からの記事と詳細 ( ミャンマーを思い出すひよこ豆の味 家でつくるアジアのおつまみ「トーフジョー」 - 朝日新聞デジタル )
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