知的財産(IP)とその保護は、あらゆるエージェンシーとクリエイターがよく知るテーマであり、彼らがそれにフラストレーションを感じることも少なくない。
クリエイティブエージェンシーの誰かと話せば、少なくとも1つくらいは悲惨な体験を語ってくれるだろう。古くからある話だが、新規クライアントに売り込むためのアイデアに貴重な時間を費やしたにも関わらず、そのアイデアが単に却下されただけではなく、自分の許可なく、他のところで使用され、公開されていることを後になって知ることだ。そして、それには正当なクレジットが与えられるべきだったし、恐らく最悪なのは、支払われるべき対価があったはずなのだ。
多くの場合、盗まれたアイデアは、クライアントのインハウスの制作担当者に渡り、広告キャンペーンや他のプロジェクトで使用されることになるのだが、それによって、社外の人間の懸命な仕事に対価が支払われることはない。
IPの権利侵害は、クリエイティブ分野の誰もが──デザイナー、ライター、さらにはアーキテクチャーさえもが被害にあう可能性がある。企業や創作者は、IPの適切な保護と、アイデアやブランドの根本的な防衛策を講じないと、特にピッチの際などにアイデア盗用の被害にあうことが多いだろう。
言うまでもなく、被害を経験した人なら誰でも、自分だけでなくクリエイティブ分野全体に対しても、このようなことが二度と起こらないようにするための確実な方法を望むだろう。
知識ベースの経済が進んだ現在、IPは事実上、不可欠なものになっており、コンテンツはクリエイターの生命線となり、黒字化の重要な鍵を握っている。だとすると、重要な事業資産が盗まれるのを防ぐIP保護こそが、切れ目のないイノベーションへの扉を開き、クリエイティブ資産の財務的な価値を高めるだろう。
保護に伴う問題
IP保護で問題になるのは、IPが無形であり、アイデアそのものを保護することはできないため、その実施が困難なことだ。しかし、アイデアが文書化された表現なら保護することができ、それはピッチとして送られた実際のプランの中に存在している。
また、IPの保護に関しては、「コストがかかり過ぎるうえに保護は難しい」、「アイデアだけでは特許を取得できない」、「IPで保護されるのは主に市場の大手プレイヤーだけだ」、といった誤解がある。こうした誤解によってエージェンシーやクリエイターはIPの保護を後回しにして、必要だとわかった時にはすでに手遅れになってしまっている。
4月26日の「World IP Day 2021」では、こうした誤解にメスが入れられた。そして個人のクリエイターや中小企業が保有するIPを保護することが競争力を生み、弾力的なビジネス環境を実現するために重要だという考え方が強調された。このイベントでは、「IPと中小企業:アイデアを市場へ」をテーマとして、IPの権利の基礎について中小企業を啓発することが必要だと訴えていた。
民間のソリューションと公的なソリューション
IP保護は、ビジネスの成功にとって非常に重要であるため、シンガポール政府も、無形資産(IA)を活用するためIP関連サービスへのアクセスが増加している企業を支援することを目的としたイニシアチブである「Singapore IP Strategy 2030」において、それを認識し、強調している。
これらのソリューションはウェブベースのものが多く、迅速かつ効率的にIPを保護する。そして、アイデア盗用に関与する可能性のある多国籍企業による悪質な行為から身を守るために、必要なツールを中小企業に提供することを目的にしている。
あまり知られていないが、シンガポールでは、著作権法に準拠し保護対象となる作品には、著作権が自動的に適用される。クリエイターや中小企業は、著作権保護を受けるための登録を申請する必要なく、さまざまな契約を通じて、著作権をサードパーティやクライアントに自由にライセンスすることができる。したがって、クリエイターにとっては、作品を効率的に保護できてすぐに利用可能な、各種ソリューションに慣れておくことが極めて重要になる。
こうしたソリューションを利用すると、エージェンシーやクリエイターは、文書や資産をアップロードして、コンセプト、アイデア、提案などがアップロートされた日時を証明する固有のシリアルナンバーを持つ証明書を取得することができる。
クリエイターが知っておくべきポイント:
証明書は作品の所有権者である動かぬ証拠になる
これらの証明書は作品に含めることができるため、クライアントは資産を容易に認証して、アクセスできる
資産の違法利用を巡って紛争になりそうな場合、ウェブベースのソリューションは法的主張を遂行するために、登録された法律顧問パートナーと共に、エージェンシーやクリエイターを支援できる
これにより、エージェンシーやクリエイターはピッチ後も作品を守れるだけでなく、自らの労働の対価を得ることができる。
クリエイター、クライアント両者の課題
ピッチとIP保護を巡っては、クリエイターが損な役割を担わされることが多いものの、クライアントが課題に直面することもある。エージェンシーが売り込んできたものと似たアイデアにすでに取り組んでいたり、似通った要素があるピッチを別のエージェンシーから受けていたりすることもあるのだ。
クライアント側のマーケターは、サプライヤーの知的財産権を尊重することを誓約し、紛争が発生した場合に、ピッチや資産の知的財産権を実際に誰が所有しているのかについて、明確かつ透明性のある方法で、発案者と意思疎通することを約束することができる。
こうすることで、クライアント側はエージェンシーのピッチでオリジナルのコンセプトを得ることができ、クリエイター側はクライアントに最高の作品を安心して提示することができる。つまり、双方にとってメリットがあるのだ。このようにお互い理解しあうことで、クライアントとクリエイター間のプロフェッショナルな関係が強化され、信頼関係と善意が醸成される。
マーク・ライディ氏はピッチマークのマネージングパートナー。同社はシンガポールを拠点とするプラットフォーム企業で、クリエイターは自身の作品をIP盗用から守るためにピッチを登録することができ、クライアントはクリエイターのIPを尊重するという誓約書に署名することができる。
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