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Friday, July 9, 2021

[語る]ワクチン<6>国産開発 製薬会社の使命…塩野義製薬社長 手代木 功 61 : 政治 : ニュース - 読売新聞

 塩野義製薬は昨年12月、自社開発の新型コロナウイルスワクチンの臨床試験を始めた。米ファイザーやモデルナとは異なる「遺伝子組み換えたんぱくワクチン」という種類で、年内にも量産体制を整える予定だ。安全性などを確認する臨床試験を経て、国の承認審査を受けて実用化されれば、年間で最大6000万人分のワクチン供給が可能になる。

 初めてワクチン開発に取り組む中で、前例のない規模で人・モノ・金を投入し、驚くほど良いワクチンが出来つつある一方で、「欧米に比べてスピード感が足りない」とお叱りも受ける。

 なぜ、国産ワクチンの開発が日本では遅れたのか。

 欧米諸国は、平時からパンデミック(世界的流行)に備えてきた。欧米や中国、ロシアなどは、国が開発や供給に巨額の費用で支援した。ファイザーやモデルナのワクチンは、米国の「緊急使用許可」(EUA)制度でスピード承認された。未承認の医薬品を、通常の手続きを省略して使用を認める制度だ。

 一方の日本は、2000年代後半に感染拡大した新型インフルエンザの対応で得た教訓が生かされず、政府による研究開発への支援は乏しいままだった。薬事承認は有事対応力が不十分で、厳格な規制に縛られ、柔軟に運用されなかった。

 欧米諸国では、世論にも緊急措置を受け入れる素地があった。十分メリットが見込めるなら、リスクが多少あっても前に進むことが許される社会的な合意がある。日本人は、少しでもリスクを取るのを許さない感覚が根強い。ワクチン開発には、こうした国民の意識も壁になる。

 感染症は患者数が予測困難で、民間企業の製薬会社には採算性が最大のネックだ。我が社はインフルエンザ治療薬「ゾフルーザ」を開発したが、昨年と今年はインフルエンザが流行せず、2年連続で収益はほぼゼロだった。流行がないことは社会として歓迎すべきだが、利益がなくては企業はやっていけない。

 このため、国産ワクチン開発に向けて国の関与や支援は欠かせない。感染症対策を支える産業を確立するため、国がワクチンや治療薬を買い上げて備蓄する体制があってしかるべきだ。

 消火器を例に挙げると分かりやすい。消火器は設置して使う機会がなくても、取り換える時に費用を負担する。誰も使用しなかったからといって、費用負担を渋らない。ワクチンも同じで、万が一に備えることに意味があり、そのコストは必要という発想だ。

 今回の経験から、政府は6月、「ワクチン開発・生産体制強化戦略」を閣議決定した。世界トップレベルの研究拠点の整備や薬事承認プロセスの迅速化などを盛り込んだ。この戦略を実現し、次のパンデミックに生かせるか。日本が変わるラストチャンスだろう。

 世界では、ワクチンから治療薬に関心が移り始めている。我が社も治療薬の臨床試験を近く始める。出来る限り早く薬事承認を得て実用化にこぎ着けたい。あと半年から1年程度でワクチン、治療薬、診断薬の3点セットがそろい、新型コロナも「インフルエンザと同じ程度だ」と安心感をもたらす状態まで持っていきたい。

 ワクチンに参入した我々を「なぜ利益も出ないのに参入し、恐竜に竹やりで立ち向かっているのか」とやゆする声もある。だが、同時に国内外問わず「高品質な日本の国産ワクチンが欲しい」との声も多く聞く。

 我々が国産ワクチンの開発を諦めれば、次のパンデミックでワクチン開発に携わる日本企業はなくなりかねない。製薬会社は、国民の命を守る感染症対策に関わる使命があると考えている。子どもや孫の世代が暮らす日本の未来のためにも、やり抜くつもりだ。

 (聞き手 薩川碧)

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