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Sunday, August 29, 2021

【一服どうぞ】コロナ禍に育む感謝 裏千家前家元 千玄室 - 産経ニュース

裏千家前家元、千玄室さん(荻窪佳撮影)
裏千家前家元、千玄室さん(荻窪佳撮影)

環境分野で初のノーベル平和賞を受賞したケニア女性のワンガリ・マータイさんが来日したおりに「もったいない」という言葉に感銘を受けたことが話題になった。日本語は世界の言語の中でも難しいといわれる。漢字、ひらがな、カタカナを使い分けねばならないし、ひとつの言葉でも用い方で意味が変わるのでちょっと理解し難い面もあるが、ただ、美しい発音のイントネーションの言葉であると多くの外国の研究者が言っている。「もったいない」も他の言語には同じ意味の言い回しはあっても、これに相当する単語は見当たらないという。

日本は島国であるためであろう、昔から限りある資源を大切に使うという考えがあった。しかし、今の日本ではその環境が変わったわけではないのに贅沢(ぜいたく)品があふれ、食品ロスが大きな問題になっている。今一度足元を見つめ直すことが肝要だ。

万葉集に「家にあれば笥(け)に盛る飯(いひ)を草枕旅にしあれば椎(しひ)の葉に盛る」との有間皇子(ありまのみこ)の歌がある。家では温かい飯を器でいただけるのにと、囚(とら)われ連れて行かれる身を嘆いての歌である。だんだんとお米離れが進んでいるといわれても、日本人の主食はやはりまだまだお米のご飯である。いただく時に「ご飯を茶(ちゃ)碗(わん)によそう」という言い方をするが、この「よそう」は「装(よそお)う」が変化したものだという。このように変化するのも日本語が難しいといわれる一因であろう。元々は食事の支度をし飲食物を器に整えることから来ているようである。千年以上前より使われるこの言い方は、今では関西や関東で使われることが多い。東北や北海道では「盛る」、中国、四国、九州では「つぐ」が多く使われると聞く。

ご飯とともにいただく惣菜(そうざい)もその姿は変化してきて、近頃では多くの品数をそろえ、見た目重視になっている感がある。

織田信長が催した茶会の会記を見ると鴨(かも)や雉(きじ)を贅沢に使っている。これも見た目重視といえよう。それに対し千利休の茶事は一汁二菜と会記に記されている。簡単なものであっても旬の物を使い、心を込めることが重要だと主体的に教えている。

新型コロナウイルスのため自粛を余儀なくされている昨今、やはり最後に残るのは食べるという楽しみであろう。家で、三食を家族団欒(だんらん)で楽しむという機会もずいぶん多くなっているのか、そのための食材や調理方法の情報があふれ、テレビなどでも簡単に美味(おい)しく作れる物が紹介されているのを見かける。子供たちも食事作りに興味を持ち一緒に作る家庭が増えているようで、これは非常に喜ばしいことである。今まで塾だお稽古だと忙しく、用意されたものを単に食べていただけだったのが、旬の材料で季節感を感じそれを美味しくいただくためにどのような手間がかかっているかを知ることにより、必然的に物への感謝、作ってくれる人への感謝を持つようになる。

大変なことばかりの時期ではあるが、そのような前向きな側面を見つけ乗り越えていきたいものである。 (せん げんしつ)

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