2021年12月06日13時31分
秋田県の郷土漬物「いぶりがっこ」がピンチに直面している。昔ながらの製法を代々受け継ぐ農家は農閑期に小屋で作っているが、改正食品衛生法の施行で許可が必要となり、衛生基準を満たすには多額の改修費が必要になるためだ。作り手は零細の高齢農家が多く、「あと何年やれるのか」と諦めの声が広がっている。
いぶりがっこは豪雪地帯の保存食として生まれた。秋に大根をつるして木の煙でいぶし、塩などが入った米ぬかに40日以上漬け込む。近年は東京など大都市で人気を集め、県内各地の工場でも生産されている。
一方、県の内陸に位置する横手市の人口約3000人の山内地区では食文化として受け継がれている。使う木の種類や漬け込み用の材料で味が変わり、今も約100人が昔ながらの製法を守る。
「みんなおいしいと買ってくれて、ありがたいが、迷いもある」。農家の高橋キヨ子さん(73)はため息をつく。農機具小屋の空きスペースを活用して夫の誠一さん(76)と作り、約20年前からは毎年1万本余りを道の駅などで販売してきた。
ところが、全国で浅漬けなどの食中毒が相次ぎ、国は6月施行の改正法で、漬物製造業を営業許可の取得が必要な業種に追加。国際標準に沿った衛生管理を義務付け、専用の製造場所を設けるよう規定した。
経過措置が3年間あるが、高橋さん夫婦は小屋の天井や壁などを改修しなければ販売用として製造できなくなる。県内で漬物による食中毒発生例はないが、改修費は約100万円が見込まれ、誠一さんは「この年で設備投資しても、あと何年やれるか」とこぼす。
年約1000本を作る高橋一郎さん(79)は経過措置をもって販売中止を決めた。「生産者の9割は小規模。何百万円もかける人はほとんどいない」と言う。「農家のいぶりがっこは製法や漬ける環境で味が異なるのが魅力。市場には工場で作る一定の味しか残らないだろう」と肩を落とす。
「横手市いぶりがっこ活性化協議会」の佐藤健一会長(65)によると、生産農家の平均年齢は70代で、「いずれ生産者が少なくなる可能性は十分ある」と危ぶむ。市の担当者は「高齢者や女性の活躍の場が失われてしまう。生産基盤を整え、後継者発掘にも取り組みたい」と話す。
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