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次に、メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用に移行する中で、リーダーにどのようなことが求められるのかを考えてみましょう。
メンバーシップ型雇用では、新卒で入社してその会社の社員という名のメンバーになれば、生涯にわたる高い処遇と引き換えにどんな仕事でも命じられれば従事する義務が生じると考えられます。リーダーである上司にとっては、部下を導きやすい環境であるといえましょう。
一方、メンバーシップを前提としたリーダーシップが通用しないジョブ型雇用に日本が移行していくと、リーダーは部下を導くためにより機敏に振る舞い、状況に応じてさまざまな行動を使い分けることが従前に増して必要となってきます。
メンバーシップ型では、社内のメンバー間で通用する暗黙の了解によるハイコンテキストな状況、いわば「あうんの呼吸」があるため、上司はメンバーに対して子細を説明する必要がありません。また、上司が多少理にかなわない命令を下したと部下が感じたとしても、メンバーであることによる高い処遇を捨ててまで上司に反発するよりは、忖度し受け入れたほうが良いと部下は考えがちになります。
雇用関係がよりジョブ型に近づけば、雇用はより流動的となり部下の多様性も増すと考えられ、社内での暗黙の了解は少なくなり、明示的な説明を要するローコンテキストの状態となってきます。
従って、リーダーが部下を導くためにはさまざまなリーダーシップの発揮方法を尽くして説得していく必要があります。リーダーが部下の協力を得るには、単に指示命令を出すだけでなく、なぜそれを行うのか、どこを目指すのか、その先に何が待っているのか、といった中長期的なビジョンをより丁寧に説明して腹落ちさせることが必要となってきます。
リーダーシップの発揮に失敗すれば、必要なメンバーの離職という手痛い結果を招きかねません。ジョブ型雇用では、メンバーシップ型雇用よりも状況に対応したリーダーシップの使い分けがより重要になってくるのです。
メンバーシップ型雇用では、業務に求められる汎用スキルと比べ、社内スキル、例えば根回しや合意形成の方法といった自社独特のノウハウの重要性が相対的に高くなると考えられます。社内スキルは年功によって身につくため、一般に年上となる上司は部下より高い社内スキルを率先して発揮し、部下は上司の背中を見て社内スキルを習得する必要があります。
一方、より汎用スキルが重要となるジョブ型雇用に近づくと、そのジョブを遂行する上で必要な汎用スキルを不断に取り入れる必要が生じます。環境変化がますます激しくなる中、上司が自ら背中を見せるだけでは足らず、部下の新たなスキルの習得を支援する育成を粘り強く行うことに力点を置く必要が出てきます。
さらに、メンバーシップ型雇用では社内メンバー間の交流が職業人生を通じて継続するため、いわゆる「飲ミニケーション」や社員同士のゴルフなど仕事以外の濃密な関係構築が仕事の遂行に重視されます。一方、ジョブ型雇用に近づくことでこうした傾向は弱まります。
職場での人間関係は依然大事ではあるのですが、仕事以外の時間の確保が難しくなる中、むしろ仕事を通じて相手の意見を取り入れたり、意思決定に参画させたりする民主的な振る舞いが関係構築により有効となるでしょう。折からコロナ禍でリモートワークの機会が増えていることも、こうした傾向を加速させているといえます。
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筆者が所属するコーン・フェリーは、リーダーが発揮する6つのリーダーシップスタイルを提唱し、多面観察診断を世界中の多数のリーダーに提供しています。その研究結果によると、組織風土の向上を通じて成果を出せる優れたリーダーは、限られたスタイルだけに依存するのでなく、幅広いスタイルを持ち、場面に応じて柔軟に使い分けることで効果的なリーダーシップを発揮していることが分かっています。
優れたリーダーは場面に応じてさまざまな顔を見せる“名役者”ともいえるでしょう。ジョブ型雇用への移行により、リーダーが直面する状況やメンバーがより多様になっていく中で、リーダーは幅広いスタイルを持ち、状況に応じてさまざまな姿を演じることがますます重要になっています。
コーン・フェリーのグローバルの調査(出典: Styles and Climate Technical Brief, Korn Ferry , October 2021)を紹介しましょう。世界22カ国についてリーダーシップスタイルのスコア(リーダーシップの使い分けが良い組織風土に影響を及ぼしている度合)を調査したところ、日本のスコアは世界で最も低いという結果になっています。日本のリーダーは、効果的なリーダーシップの使い分けが世界で最も不得意なのです。
また、コーン・フェリーでは、過去のさまざまな研究から、組織風土の5〜7割はリーダーシップスタイルの発揮に影響されると考えています。この組織風土の良さについても、前述の調査によれば、日本のリーダーのスコアは世界22カ国で下から3番目となっています。
これらの結果は、日本特有のメンバーシップ雇用下では、リーダーが組織運営を行うために多様なリーダーシップスタイルを発揮することは、必ずしも求められてはいなかったことを意味するのではないでしょうか。
日本のリーダーは状況に応じたリーダーシップスタイルを十分発揮できておらず、その結果、組織風土が良好なものでなくなったと考えられます。組織風土は業績にも大きな影響を及ぼしますので、これは重大な問題です。これからジョブ型雇用へとシフトしていく日本において、状況に対応したリーダーシップが発揮できるリーダー人材の育成がより強く求められるといえるでしょう。
では、ジョブ型雇用におけるリーダーシップスタイルをどのようにしてより良いものにしていけばよいでしょうか。結論から言えば、自身の行動の現状を客観的に把握し、現状とあるべき姿を比べてギャップに気付くことで行動変容につなげることが有効です。自身の姿を客観的に把握するためには、周囲から見える姿のフィードバックを受けることが有効です。
しかしメンバーがリーダーにフィードバックを行うことは容易ではありません。そこで、多面観察診断を活用することで、周囲から自身がどう見えているか、自身が思っている姿との乖離(かいり)がないか、といった気付きを得ることが有力な手法となります。
コーン・フェリーではコンピテンシーに関する多面観察診断、リーダーシップスタイルに関する多面観察などを行っていますが、特に最近はジョブ型雇用への移行過程における多面診断のニーズが高まっていると感じます。あるべき姿と現状のギャップに気付くことが、リーダーの変化のきっかけとなります。
「良薬は口に苦し」といわれるように、多面観察診断の結果を受け入れるのは容易でないことがままあります。多面観察の結果を第三者のコーチングを受け解釈を行うことで、自分に向き合いネガティブな感情を克服して結果を受け入れる段階へと到達しやすくなります。フィードバックを自ら求め、前向きに受けとめて行動を変えていく習慣ができれば、自身は変わります。周囲もより良質なフィードバックを提供してくれるようになります。
また、多面観察診断による人材育成の効果を最大限にするためには、目的は育成であることを組織内で明確にすることが効果的です。ある企業では、多面観察診断の目的が人材育成であることを明確化してリーダー自身の成長への取組を奨励するために、診断結果はリーダー本人が自身の所有物として直接受け取る形にしています。人事は診断結果をあえて受け取らず、本人が結果を自身の育成のために活用するための支援を行っています。
- 【次回に続く】ジョブ型雇用では、どんな人材育成の仕組みが必要なのか?(1月28日掲載予定)
著者紹介:森 健(もり つよし)シニアコンサルタント
大手生命保険会社を経て戦略コンサルティングファームに入り、様々な経営改革プロジェクトに従事。その経験から人材育成が経営の要諦との考えに至り、人事コンサルティング業界に転じ人材育成の企画・実行に多数携わる。その後大手企業の人材育成を企画する部長職等を経てコーン・フェリーに入社。現職では経営課題解決に資する人材育成の実行に焦点を置く。 マネジメント領域での19年の講師経験を活かし、経営者から若手有望社員まで第一線のビジネスパーソンに対しトレーニング、アセスメント、コーチング等の支援を幅広く提供。米国インディアナ大学ブルーミントン校MBA(経営学修士)修了。東京大学文学部卒業。
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