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Tuesday, February 8, 2022

設計者には実施すべきマーケティングがある 3つのポイント - ITpro

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 「マーケティング? 自分には関係ないな」。設計者の皆さんはこう思ってはいませんか。マーケティングは商品企画部門や営業部門だけが実施すべき仕事だ、と。しかし、私は製造業では設計者も実施すべきマーケティング項目があると考えています。設計者がマーケティングを実施していないと、顧客の商品の使い方が、設計者が思い描いたものと違ってしまう可能性があるからです。

 これは見込み生産の商品(自動車など)に限った話ではありません。受注生産の商品にも当てはまります。商品が異なる使われ方をされてしまい、顧客が要求していた品質や性能が思うように発揮されずにクレームにつながってしまうことがよくあるのです。

 改めて、マーケティングの定義から考えてみましょう。日本マーケティング協会が示す定義はこうです。「マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である」。さらに深掘りするために、米国マーケティング協会の定義も見てみましょう。「マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである」となっています。

 マーケティングには「価値のある商品・サービスを創造すること」が求められていることが分かると思います。商品企画部門や営業部門がどれほど素晴らしい価値のあるアイデアを考えたとしても、最終的に形にするのは設計者であり、製造者です。価値のあるアイデアを形にする際に、設計者が具体的な使われ方などを知った上で設計するのと、それを知らずに設計者の考えだけで設計するのとでは、商品にした場合に顧客満足度が大きく異なってくるはずです。

見て分かる、使って分かる

 私が定義する設計者が実施すべきマーケティングは下記の3点です。

[1]見て分かる

[2]使って分かる

[3]使い終わって分かる

 それぞれの内容を確認していきましょう。

[1]見て分かる

 営業部門が説明しなくても、商品を見ただけで顧客が感じるポイントを明確にしていきます。これは、感性に訴えかける部分や顧客の困り事の解決(意味的価値)を持つ部分などが対象となります。「使って分かる」につながるところで、見ただけで使い方が分からなければなりません。

(出所:トヨタ自動車)

(出所:トヨタ自動車)

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 例えば、自動車のステアリングスイッチ。説明書を見なくても、何を押せばよいのかが判断できるようになっています。ステアリングスイッチなので、絵柄によってスイッチの位置を記憶しやすくし、最終的には手元を見なくてもスイッチが押せる状態になっています。かつては各ボタンにボタンの意味や内容が記載されていましたが、今のスイッチは絵柄を表示し、見るだけで使い方が分かる状態になっています。

[2]使って分かる

 これは、設計者が最も気を付けて調査しなければならないものです。顧客がどのように使っているのか、またどのような環境で使っているのかをしっかりと把握しなければなりません。有名なのはアキレスの「瞬足」という運動靴です。通常の運動靴の底面は、左右対称にスパイクが配置されています。しかし、瞬足は左右非対称なのです。この左右非対称に結びついたアイデアこそ、徹底的な運動靴の「使い方の観察」によるものです。

(出所:アキレス)

(出所:アキレス)

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 左右非対称のスパイクになった秘話がアキレスのWebサイトに記載されています。子供たちが新しい運動靴を欲しがる瞬間は、運動会の前など他の子供たちとの競争が発生するタイミングです。潜在的なニーズとして「他の友達よりも速く走れるようになりたい」や、「走るのが遅いから少しでも速く走れるようになりたい」という思いがあります。そうしたニーズをくみ取り、運動会の徒競走で速く走れるためには、どのような運動靴であるべきかを徹底的に観察しました。

 そこで見たのは、都会の子供たちが小学校の狭い運動場を走りにくそうにしている姿でした。では、なぜ走りにくいのか? 運動場のコーナーが小さい楕円であるため、コーナーでバランスを崩して転倒する子供たちが多かったのです。つまり、小さい楕円のコーナーで転倒しにくい運動靴を設計することが隠れていたニーズだったのです。

 商品企画で「ただ単に速く走れるようになる」や「転倒しにくい運動靴」といった定義しか出てこない場合、その内容をどのようにして具現化するかを考えるのが設計者の役割です。ここで、アキレスは徹底的に子供たちの使い方を観察し、左右非対称にするというアイデアが生まれたのです。

 このように、使われ方を徹底的に観察しなければ創出できないアイデアがあるのです。これはまさに、マーケティングの一種と言ってよいでしょう。

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