
戦前から親子3代続く伝統の洋菓子店が「最高傑作」とうたう丸型のパウンドケーキは、全国に熱烈なファンを持つ。手土産として〝食通〟の人に贈っても喜ばれる名品だ。このパウンドケーキを手掛ける洋菓子店「ゴンドラ」(東京都千代田区)の2代目オーナーシェフ、細内進さん(82)は日本スイーツ界の先駆者で、「知られているケーキをよりおいしく作ること」がモットー。細内さんに洋菓子作りのこだわりを聞いた。(浅上あゆみ)

JR市ケ谷駅から徒歩7分、靖国通りを進んだところに「ゴンドラ」はある。店を目当てにした客は男女を問わずひっきりなしに訪れ、贈答用でたっぷりと菓子を買っていく人も多いという。
店内のショーウインドーに並んでいるのは生ケーキ、焼き菓子、チョコレート…。細内さんにおススメを聞くと、困った顔で「全部こだわっているので、私に言わせればどれも1番なんです」と答える。
ゴンドラが「最高傑作」とするパウンドケーキの見た目は、いたってシンプル。だが、一口食べればその上品な味わいと、しっとりとした口当たりに感動させられる。底に敷き詰められているラムレーズンも絶妙だ。
最高級のバター、ラム酒を使うなど素材にこだわる。だが、「良い材料を使えばよいというものでもない。材料を生かして使わないと意味がない」と細内さんは語る。
シンプルなお菓子こそごまかしがきかない。バター、卵、砂糖、小麦粉を同分量入れる基本のレシピに忠実でありつつ、「ヨーロッパと日本の気候は異なる。毎日の気温、湿度によって卵の泡立て方や生地の混ぜ方などを調整している」(細内さん)。
毎朝5時に起床し、1階の厨房(ちゅうぼう)の上にある自宅から階段で下りてくるとき、その日の気温と湿度を肌で感じているという。「大事なのは経験と勘だよ」と腕をたたく細内さんは、伝統工芸や工業、調理など各分野で卓越した技能を持つ人を表彰する厚生労働省の「現代の名工」に選ばれたことも。そのお菓子作りは、まさに職人技だ。
パウンドケーキが丸いのも、ゴンドラの特徴だ。どうして丸いのか。細内さんによると、当初は一般的な長方形のパウンド型を使っていた。昭和30年ごろ、クリスマスケーキが日本ではやり始め、ゴンドラでもホールケーキを焼くのに丸の焼き型をたくさん調達した。初代の細内善次郎さんが「クリスマスだけで使うのはもったいない」と考え、パウンドケーキも丸型で焼くようになった。ちなみに、パウンドケーキを丸缶に入れて販売しているのは、湿気を防ぐためという。
細内さんは幼いころから、父親の善次郎さんがお菓子を作る姿を見てきた。21歳で菓子修業のためヨーロッパに留学。スイス、フランス、ドイツなどを巡り、製菓学校や菓子店で修業。帰国して、日本に本場の味を持ち込んだ。
当時は日本人がヨーロッパに行くこと自体、珍しかった。日本円を両替する場所も少なく、日々生活するだけでも精いっぱいだった。その留学の経験があるからこそ、苦境がありながらも工夫して店を80年以上、続けられているのだという。息子で3代目の滋之さん(53)も「たくさんの人に愛されている店。伝統を守りつつ、よりおいしいお菓子を作り続けたい」と話す。
親から子へ、信頼の味は受け継がれている。
からの記事と詳細 ( 「ゴンドラ」のパウンドケーキ 受け継がれる信頼の味 - 産経ニュース )
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