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Monday, April 11, 2022

子ども政策に強大な第三者機関は必要ない | | 城内実 - 毎日新聞

基本法の意義

 こども家庭庁の設置に向けた動きに合わせ、自民・公明両党は、子どもの権利を守っていくための「こども基本法案」を衆院に提出した。

 日本は1994年に子どもの権利条約を批准したが、国内法の整備は遅れている。その中で、子どもに関する多くの法律を束ね、子どもの権利や利益を守っていくことをうたう理念を中心とした基本法の制定は意義のあることだ。国内へのアナウンス効果はもちろん、国際的なアピールにもつながる。

コミッショナーへの疑問

 しかし、基本法案で法施行後の検討課題とされた、子どもの権利が守られているかを監視するため、調査権や勧告権などを持つ第三者機関(子どもコミッショナー)を盛り込むべきだという意見には反対だ。

 子どもは自らの権利侵害を訴えることが難しく、いじめなど行政が解決できない問題も発生しており、権限があるコミッショナー制度が必要だという主張だ。立憲民主党など野党も設置を求めているが、私には甚だ疑問だ。

 国の制度として設置されるのであれば、国家行政組織法に基づくいわゆる「3条委員会」「8条委員会」が想定される。3条委員会には公正取引委員会などがあり、独自で意思決定ができる極めて独立性の高い組織だ。8条委員会は、金融庁の証券取引等監視委員会や内閣府の消費者委員会など、省庁下にあるため3条委員会ほど独立性は高くないが、行政機関に対する勧告や違反調査なども行う。

 ここまで強大な権限を持つ機関がなければ子どもの権利を守れないのだろうか。強すぎる組織の出現は現場の萎縮を招く。虐待する親などは論外として、子どもは家庭、地域で育ち、社会で育てるものだ。子どもの権利ばかりを強調しすぎるあまり、家庭や地域の役割が崩れてしまう可能性もある。

「子どもか家庭か」の二者択一ではない

 子どもの権利を第一に考えるというのは、イデオロギーを超えて大事なことであり、反対する人はいないだろう。

 ただ、その際に「子どもの利益とは何か」というのも考えなければならない。子どもは1人の人格のある存在であり、自分のことは自分で決める権利を持つ――それは正しいだろう。しかし、無制限ではない。勉強をしない、校則を守らないなど、子どもの欲望を全てかなえることが子どもの利益ではない。

 子どもに権利があるのはもちろんだが、一方で未成年という弱い立場であることも事実であり、それはつまり、保護者の手助けが必要だということだ。そして一義的には保護者は親であり、子どもは家庭で守られる。そして、社会で生きていく上で必要なルールを家庭や、その周りの地域、社会で学ぶ。

 家庭は子どもの権利を阻害する一因とする考え方の人もいる。しかし、そのような考え方は、家族の絆を壊す。もちろん、親が虐待する場合などはその典型で、子どもに暴力を振るったり、食事を与えなかったりする親を親と考えるべきではなく、そのような場合には子どもに別の居場所を確保してあげるべきだろう。

 だが、多くの場合、子どもは家庭で暮らし、家族に守られ、家族と家庭の中で健やかに成長する。「子どもか家庭か」という二者択一はありえない。

特定の「主義主張」の懸念

 子どもの取り巻く環境が厳しさを増しているのは事実だ。虐待やいじめなどの問題は深刻化し、児童相談所の対応件数は増え続けている。2019年の千葉県野田市で10歳の心愛ちゃんが虐待死した事件など、学校や児相が既に問題を把握していたにもかかわらず、救えなかった事案も発生している。仮に大きな権限を持つ機関が調査や指導をし、子どもの縦割り行政を打ち破って問題を解決できるのならばいいかもしれない。

 だが、大きな権限には、乱用されるなど負の側面がある。運用できなかったときの影響は大きい。特定のイデオロギー、主義主張を持つ人や団体が第三者機関のメンバーになれば、教育行政や学校現場に偏った考えを押しつけ、ゆがめられる可能性が常に伴う。

 また、第三者委員会には予算や人材を確保しなければならない。障害がある人やシングルマザーの家庭、生活困窮者など助けなければならない人たちが大勢いる中、子ども政策に関する特定の第三者委員会を設置し、限られた予算や人材を割くことができるのか。この点においてもバランスある議論が必要だろう。

 その上、権限や予算を獲得した組織は往々にして、自らの権益を広げようと動くものだ。もし、第三者委員会の調査・裁定が必要な具体的な事案がなければ、恣意(しい)的に介入をしようとしたり、必要以上に現場を追及したりする可能性もある。かえって現場に圧力がかかり、うまく機能しなくなる恐れがある。

理想論よりファクトに基づく現場対応

 子どもを巡る問題を解決するために重要なのは、やはり現場だろう。家庭、学校、自治体、警察だけでなく弁護士会などの団体もある。それらが連携し、どこに問題点があるか、スムーズにいかなった場合は何がいけなかったのかなどを見いだし改善していく。実際に対応しなければならないのは現場なのだ。

 子どもに関する行政は文部科学省、厚生労働省、いじめに関してはさらに警察庁などと関係省庁・部局は多岐にわたるが、縦割り行政が染みつき、なかなか連携できない状態が続いてきたことは否めない。

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