日々の業務やキャリアアップのための勉強、健康のための運動など、やろうとは思っているのになかなか行動に移せない……ということはないだろうか。そんなときは、「自分には行動力がない」「フットワークが重い」と悩み、自分はそういう性格だから仕方ないと思い込んでしまいがち。しかしこれは、元々の性格や能力のせいではなく、人間の脳の仕組みによるものだという。この仕組みをしっかり理解した上で対策を立てれば、やる気や根性に頼らず誰でもすぐに行動のスイッチを入れることができるようだ。
今回は、スポーツ選手やベストセラー作家、モデルや経営者など各界で活躍する人々の目標実現・行動革新サポートの実績がある大平信孝(おおひら のぶたか)氏の著書『やる気に頼らず「すぐやる人」になる37のコツ』(かんき出版)を読み解き、科学的な根拠に基づいた自分を動かすためのコツを6つ紹介する。
初動が肝心! 先延ばしをなくすための「10秒アクション」
繰り返しになるが、やらなければならないことを先延ばしにしてしまうのは、個人の性格や能力によるものではない。まずは、人間の脳の仕組みを把握しておこう。
脳は生命維持のため、できるだけ変化を避けて現状維持しようとする防衛本能を備えている。何か新しいことを始めるとき、最初のうちは気合を入れてなんとか乗り切れるものの、数日たつと続かなくなってしまうという現象の裏には、このような脳の仕組みがある。三日坊主にも科学的な根拠があったことに驚く人も多いだろう。
ただ、脳には「大きな変化は受け入れず行動を抑制する一方で、小さな変化は受け入れる」といった可塑性(かそせい)という性質が備わっている。この可塑性こそが、「すぐやる人」になるためのキーといえる。
また、脳には側坐核(そくざかく)と呼ばれる場所があり、ここが刺激されるとドーパミンというホルモンが分泌される。ドーパミンは、意欲を高めたり楽しいと感じたりする、いわば行動力の源だ。つまり、側坐核のスイッチを入れさえすれば、誰でもすぐに行動ができるようになる。ただ、側坐核は何かしらの行動を起こすことでしか刺激することができない。そこで、脳の可塑性を利用し、取るに足らないと思われがちな小さなアクションから始めてみたい。
どうしても一歩踏み出せないときは、試しに10秒だけ動いてみる
(大平信孝『やる気に頼らず「すぐやる人」になる37のコツ』<かんき出版>P.28より引用)
書籍ではこれを「10秒アクション」といい、その際、「最初の一歩のハードルを極限まで下げてみること」を意識したい。10秒アクションは、仕事であれば「パソコンの電源を付ける」「とりあえず資料を開く」、早起きであれば「前の晩にアラームをセットする」といった、些細なことで十分。
一度始めてしまえば、その後の作業を続けることができたという経験はあるだろう。やる気が起きるのを待っていても、行動はますます遅くなる一方。まずはとにかく行動を起こすことが大切で、やる気は後からついてくる。
誰でも簡単にできる、集中力を保つための基本ポイント
行動に初速をつけ、作業がはかどりだしたなら、集中力を切らさず進めたいところ。その際に役立つ、集中力を保つコツを見てみよう。
「再開時にやることメモ」を活用する
仕事に集中しているときに話しかけられたり、昼休みを終えてすぐは集中できなかったりということはないだろうか。中断した作業を再開するときに「さっきは何をしていたか」を思い出そうとして、メールを確認したり、ついネットニュースを見てしまったりなど、一度途切れた集中力を取り戻すのに苦労した経験も少なくないだろう。そんな状況を防ぐために、作業が中断されたときは、再開後に最初にやることを1つだけ付箋などにメモしておこう。
仕事を中断されたら、再開時にやることをメモしておく
(大平信孝『やる気に頼らず「すぐやる人」になる37のコツ』<かんき出版>P.60より引用)
著者はこれを「10秒コマンドメモ」と呼ぶ。10秒アクションと同じく、次に何をするかのメモに従ってすぐに動くことで、側坐核を刺激できるというわけだ。
メモの内容は、「今すぐAさんにメール返信」「今すぐ資料の○ページを読む」といった、シンプルな書き方が良い。目を離すとどこまで進めていたかわからなくなりがちなデータの処理などは、「表計算ソフト○行目から再開」というように具体的なメモを残すと良さそうだ。再開後に何をすればいいか迷いがなくなるため、スムーズに作業を再開できるだろう。
姿勢を正すことで科学的に集中力アップ
今この記事を読んでいる際の姿勢はどうだろう。頬杖をついて体が斜めになっていたり、前傾姿勢になりすぎて背中が丸まっていたりしてはいないだろうか。
姿勢を良くすることで集中力が増すというのは、一見「気の持ちよう」に聞こえるが、実は2つの科学的根拠がある。1つめは、姿勢を正すことで脊髄の神経回路の伝達がスムーズになること。2つめは、気管の通りが良くなり呼吸が深くなるため、脳へ供給される酸素量が増え、集中力が増すこと。
集中力が欠けてきたと感じたら、おなかに力を入れて両肩を落とし、目線を少し上げてみよう。姿勢を整えることで気分転換にもなり、仕事の効率アップも期待できそうだ。
「すぐやる人」が実践している時間の使い方
最後に、限りある資源である時間の使い方について見てみよう。
行動力を身に付ける上で重要なポイントとして、著者はタイムマネジメントを挙げている。なぜなら人は「時間」を原資に行動しているからだ。時間を最大限に活用する、効率的に時間を使える方法とはどのようなものなのだろうか。
タイムリミットを設定する
心理学の分野で有名な「パーキンソンの法則」。これは「仕事は、与えられた時間の長さいっぱいまで膨張する」というもので、要するに15分でできる仕事でも、30分時間を与えられると30分しっかり時間をかけてしまう傾向があることを表している。逆に考えると、タイムリミットを設ければ最短で仕事を片付けられるということだ。
仕事中は時間を15分単位で区切る
(大平信孝『やる気に頼らず「すぐやる人」になる37のコツ』<かんき出版>P.132より引用)
60分や90分などの長めの時間で区切ると、油断が生じて初めの数十分を無駄にする可能性もあるため、少し短めの15分がおすすめだ。成功のコツは、「15分でここまで終わらせる」と明確にしてから着手すること。取り組む際は、先述の「10秒アクション」を活用することでより集中しやすくなるだろう。
ボリュームの多い仕事であれば、たとえば作業全体を1から10に分け、まずは「15分で1を終わらせる」ことにチャレンジしてみよう。作業全体の見通しもできるため、精神的な余裕も生まれそうだ。
「本気の30分」を実践する
人間の集中力は長くは持たないもの。そこで、1日のうち自分の全力を出し切る30分を、2回用意しよう。
「本気の30分」を1日2回確保する
(大平信孝『やる気に頼らず「すぐやる人」になる37のコツ』<かんき出版>P.136より引用)
ここにあてがうタスクは、普段先延ばしにしがちな、「緊急ではないが重要なこと」がベスト。たとえ30分でも本気を出し切ることができたという経験は、先延ばしの対策になるだけでなく、達成感の醸成も促す。集中することができたという自信が、モチベーションアップにもつながるだろう。
気分転換の方法を決めておく
疲れたとき、苦いコーヒーを飲んで一息つきたくなる人もいれば、甘いものを食べたくなる人もいるだろう。仕事で失敗したりうまくいかなかったりするときは、気持ちを切り替えることも必要。そんなときのために、あらかじめ自分のリフレッシュ方法を決めておくといい。
気分転換の方法を所要時間別にあらかじめ決めておく
(大平信孝『やる気に頼らず「すぐやる人」になる37のコツ』<かんき出版>P.138より引用)
ポイントは、「数分でできるもの、30分あればできるもの、ある程度時間が必要なもの」の3種類に分けておくこと。たとえばコーヒーを飲んだり甘いものを食べたりストレッチをしたりするのは、数分あればできる。仮眠や入浴などは30分必要だろう。映画を見たり旅行に行ったりとなると、まとまった時間が必要だ。「これを終わらせたら気分転換に○○しよう」という、自分へのご褒美を設定しやすくなる。
本書ではこのほかにも、感情に左右されないマインドをつくるコツや、目標に向かって踏み出す行動思考の身に付け方など、普段の生活だけでなく仕事にも活かせるさまざまなコツが紹介されている。「すぐやる人」になるための「10秒アクション」のひとつとして、まずは本書を手に取ってみるところから始めてみてはいかがだろうか。
■書籍情報
書籍名:やる気に頼らず「すぐやる人」になる37のコツ
著者 :大平 信孝(おおひら のぶたか)
株式会社アンカリング・イノベーション代表取締役。メンタルコーチ。目標実現の専門家。中央大学卒業。長野県出身。
脳科学とアドラー心理学を組み合わせた、独自の目標実現法「行動イノベーション」を開発。その卓越したアプローチによって、これまで1万5000人以上の課題を解決してきたほか、オリンピック出場選手、トップモデル、ベストセラー作家、経営者など各界で活躍する人々の目標実現・行動革新サポートを実施。その功績が話題となり、各種メディアからの依頼が殺到。現在は法人向けにチームマネジメント・セルフマネジメントに関する研修、講演、エグゼクティブコーチングを提供。これまでサポートしてきた企業は、IT、通信教育、商社、医療、美容、小売りなど40以上の業種にわたる。
また、個人向けに「行動イノベーション年間プログラム」とオンラインサロンを主宰。「2030年までに次世代リーダーをサポートするプロコーチを1000人輩出し、日本を元気に!」を目標に掲げ、プロコーチ養成スクール「NEXT」を開講。10冊の著作の累計発行部数は23万部を超え、中国、台湾、韓国など海外でも広く翻訳されている。おもな著書に、『指示待ち部下が自ら考え動き出す!』(かんき出版)、『先延ばしは1冊のノートでなくなる』(大和書房)などがある。
出版社:株式会社かんき出版
※本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです。
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