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Sunday, August 21, 2022

東急ハンズのECを2年で黒字化 アクセンチュア流「5つの改革」 - 日経クロストレンド

アクセンチュア・ファミリー 第2回

2020年から、コープさっぽろ(札幌市)に非常勤CIO(最高情報責任者)として勤務する長谷川秀樹氏。新卒から14年間勤めたアクセンチュアを退職した後は、在籍時代の小売り支援経験や、SE(システムエンジニア)としての実務経験を生かし、東急ハンズ(東京・新宿)、コープさっぽろなど、主に小売事業でIT部門に携わっている。長谷川氏が、アクセンチュア時代に身に付けたという「改革魂」は、アクセンチュア退職後に手掛けてきた事業にどのように生かされてきたのか。

コープさっぽろの非常勤CIO 長谷川秀樹氏。14年間勤めたアクセンチュアを退職し東急ハンズに入社後、開設以来赤字続きだった通販事業の立て直しを図るため、5つの改革を実行。2年目にして黒字化に成功した

コープさっぽろの非常勤CIO 長谷川秀樹氏。14年間勤めたアクセンチュアを退職し東急ハンズに入社後、開設以来赤字続きだった通販事業の立て直しを図るため、5つの改革を実行。2年目にして黒字化に成功した

 コープさっぽろでDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を行う長谷川秀樹氏。同時に複数社のCIOとして従事しながら、ブックオフグループホールディングスの社外取締役も兼務する同氏がアンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)に新卒で入社したのは、1994年のことだ。

 通信モジュールの設計・開発に携わった後、営業システム導入支援プロジェクトに参画。96年より、現在のキャリアにつながる小売り領域でのプロジェクトに関わり続けてきた。その後、2008年にアクセンチュアを退職。転職先の東急ハンズでは、創業以来赤字だった通販事業を5つの改革により、2年で黒字化させた。また、自社開発のシステムを外販するハンズラボ(東京・新宿)の社長を務め、在任期間の5年間にわたり、売上高を前年比の2桁の増加率で成長させ続けるなど、さまざまな功績を残してきた。

 これらの背景にあるのは、長谷川氏がアクセンチュア在籍時代に培った「改革魂」がある。長谷川氏は自身の仕事観を、「泳ぎを止めると死んでしまう魚のよう」と表現する。こうしたマインドは、アクセンチュアの文化に根付くものだ。アクセンチュアには「キャンドゥー・アティチュード」という言葉がある。これはすなわち、積極的な姿勢を意味する。仕事に対する積極姿勢が、四半期ごとに評価されるのだ。

 長谷川氏は積極的に改革・改善し続けることが自身の「バリュー」であり、「改善なく昨日と今日とで同じことをするのは、自分にとっては『悪』と言ってもいい」と明言する。まさしく、アクセンチュアで培った仕事に対する積極的な姿勢が長谷川氏の言葉からはあふれている。東急ハンズでの実績を中心に、「アクセンチュア・ファミリー(アクセンチュア出身者)」の1人である長谷川秀樹氏の改革例を紹介しよう。

「黒船」に備えよ 大手GMSと打って出た対抗策

 長谷川氏がアクセンチュアで現在のキャリアにつながる小売り領域に関わり始めたのは、新卒入社から約3年後の96年9月だ。アクセンチュアにおける若手職の「アナリスト」から、製造・流通本部コンサルタントに昇格したタイミングでもある。

 その後、00年2月、製造・流通本部マネジャー昇格時に長谷川氏は、ある日本の大手GMS(総合スーパー)における新業態開発プロジェクトを担当することになった。当時、仏カルフールや米ウォルマートなど、外資の大手小売業による国内進出が迫っていた。まさに「黒船来航」ともいえるこの状況に対し、国内の大手小売業の間では、楽観視する企業と危機感を持つ企業の2つに分かれたという。長谷川氏が担当した企業は、後者の考えの下に焦りを募らせていた。

長谷川秀樹氏

長谷川 秀樹 氏
コープさっぽろ 非常勤CIO

1994年にアクセンチュアに入社後、国内外の小売業の業務改革、コスト削減、マーケティング支援などに従事。2008年に東急ハンズに入社後、情報システム部門、物流部門、通販事業の責任者として改革を実施。11年に同社執行役員に就任。18年10月にメルカリ CIOに着任。19年、ロケスタ(東京・世田谷)社長に就任(現任)。22年8月現在、プロフェッショナルCIO/CDO(最高デジタル責任者)として、コープさっぽろなど複数社のCIOに従事。同時に、ブックオフグループホールディングスの社外取締役も務める

 そこで、アクセンチュアとクライアントの大手GMSは、外資に負けない日本型の「スーパーセンター」の開発を行うことになった。スーパーセンターとは、ウォルマートのような、スーパーマーケットとディスカウントストアを一体化した総合スーパーのことだ。衣食住全てを扱う売り場をワンフロアに納め、1カ所に集めたレジにて会計する小売業を指す。

 長谷川氏は、マネジャーとして同スーパーセンターの開発プロジェクトに参画。「日本にないものを日本人が考え、つくるなんてできるわけがない」(長谷川氏)ことから、実際に欧州のアクセンチュアでスーパーセンターのプロジェクト経験があるメンバーを日本に招へい。国をまたいだ合同プロジェクトとしてスタートした。

 世界中のアクセンチュア社員の中から、プロジェクトに適した人材を集められるのはアクセンチュアの全社員が共通して身に付ける6つのコアバリューの1つ、「ワン・グローバル・ネットワーク(One Global Network)」に基づいている。ワン・グローバル・ネットワークについて、アクセンチュアの資料ではこう説明されている。「世界中どのクライアントに対しても最高のサービスを提供するために、国際的な見識、関係、連携、知識を効果的に活用する」

 長谷川氏は、スーパーセンター1号店オープンに向け、新業態のコンセプト設計、価格戦略立案、店舗の出店戦略立案、品ぞろえ戦略立案、販促戦略立案、ビジネスケース(投資対効果、投資回収期間の定義など)の作成に奔走した。実際にオープンしてからも、価格・販促・品ぞろえなど、継続的な検証と改善を行った結果、1号店は、同クライアントの他の業態と比較し、投資回収効率を約2倍にすることに成功した。同プロジェクトで行った施策は成功例として、他の業態でも採用されたという。

 その後、英大手スーパーマーケットのシステム構築プロジェクトに参画するため英国オフィスへの長期出張を行うなど、国内外で小売業支援に従事した後、08年5月、東急ハンズに転職。当時東急ハンズが抱えていた経営課題を解決するために、アクセンチュアで実績を積んでいた長谷川氏に白羽の矢が立ったのだ。

物流センター廃止で4億円のコスト削減に成功

 その経営課題とは、「本部バイヤー制」への移行に伴う業務システムの刷新と、物流センターの廃止によるコスト削減だった。長谷川氏が入社する以前の東急ハンズは、「仕入れ販売員制」という店舗にバイヤーが所属する業務形態をとっていた。そこから、本部に「商品部」を設置し、本部主導で商品の選定や仕入れなどを行う「本部バイヤー制」に移行することになったため、業務システムの刷新が必要だった。

 従来の仕入れ販売員制は、販売員に仕入れ権限があり、各店舗で仕入れをしていた。そのため、例え同じ商品だとしても、店舗別に仕入れ先が異なったり、仕入れボリュームが分散することで、原価がまちまちになったりするといった課題があった。

 そこで、東急ハンズ、取引先双方にメリットがある本部バイヤー制へ移行することになった。東急ハンズは本部で一括して仕入れることによりスケールメリットが出せるため、原価の低減につながる。仕入れ取引先は、各店舗に回り1店舗ごとに交渉する必要があったが、本部のバイヤーとだけ話せば全店に商品が入るようになる。

 制度変更に伴い、本部に統合された商品マスターを構築し、バイヤーが登録できる仕組みや、初回の発注機能も必要になった。しかし大がかりなシステム変更が伴うため、刷新は難航。このプロジェクトを、東急ハンズ入社後、IT企画部長兼物流企画部長に就任した長谷川氏が担当することになったのだ。

 長谷川氏はアクセンチュア所属時に同様プロジェクトの経験があったことから、当時の経験を生かして、システム刷新に取り組んだ。同時に、コスト削減のため店舗用の物流センターを廃止し、年間4億円のコスト削減を達成した。物流センター廃止時に長谷川氏が行ったのは、大幅なコスト削減と同時に実現した「マジックのような業務改革」(長谷川氏)という、ヤマト運輸との交渉だ。

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