棚卸資産はビジネスにおいて事業者が保有する資産であり、利益にも影響する極めて重要な要素のひとつである。ここでは棚卸資産の概要と種別を確認し、棚卸資産の評価方法や棚卸資産を計上するうえでのポイントなどを解説する。この記事の内容を把握することで棚卸資産や会計業務について理解を深め、ビジネスの知識をブラッシュアップする手助けとしてほしい。
棚卸資産とは何か
「棚卸資産」とは事業者が顧客に販売する目的で所有している資産をさし、ビジネスにおける「在庫」のことである。販売予定の棚卸資産は実際に販売がおこなわれるまで事業の資産として計上され、仕入れの減算が発生する。
棚卸資産には販売目的の商品以外に、計上時点で作りかけのものや製品を作るための原材料なども含まれる。また、直接的な販売の予定はないが収益を得るために使われる消耗品なども、棚卸資産として分類される。
事業の資産について
一般的に事業の会計における資産は、「固定資産」と「流動資産」に分類される。固定資産は、不動産や建物のような長期間所有することが前提とされているものをさす。対して流動資産とは、流動性が高く一年以内に現金化される予定のものである。
棚卸資産は、事業が営業活動をおこなう中で販売と仕入れを繰り返す資産なので、流動資産として分類される。
棚卸資産の分類
棚卸資産はビジネスにおける在庫をさすことは先に述べたが、一言で棚卸資産といってもその内容は5種類の資産に分類される。ここからは、棚卸資産の分類について詳しく解説していく。
商品または製品
事業の販売目的で仕入れたものや製造されたものは「商品または製品」として棚卸資産に分類される。ここでいう「商品」とは仕入れ後に加工の必要がなくそのまま販売ができる品物をさし、製品とは事業者によって製造および販売されるものをさしている。商品または製品は、主に小売業や物販販売業などで発生しやすい棚卸資産といえる。
半製品
「半製品」は製品としての製造工程が終わっており、形は完成しているが販売までは至らない品物の現在価値をさす。後述する「仕掛品」とは、完成しているか否かで分類が分けられる。
半製品の例としては、商品としての形はできあがってあるが、販売用のラベルが貼られていない在庫などがあげられる。
仕掛品
「仕掛品(しかかりひん)」とは、原材料から製造・加工の工程を経ているが完成には至っていない品物をさす。パーツが組まれていない製品や仕込み段階の食品など、それ単体では販売や貯蔵ができない製造工程の途上にあるものは、棚卸資産では仕掛品として分類される。
原材料
製品を加工する目的で仕入れた材料がそのままで残されている場合は、「原材料」として棚卸資産に分類される。原材料のうち、製品の製造・加工に必要となる材料は「主要原材料」として分類できる。また、原材料には製品加工の工程で必要な消耗資材なども含まれ、これらは「補助原材料」として分類されるのが一般的である。
貯蔵品
事業で使う目的で買ったもののうち、会計の時点で使われずにいるものは「貯蔵品」として分類される。貯蔵品には未使用の印紙類や切手、燃料などが該当する。
消耗品の中でも毎年継続で使用しており重要性の乏しいものは、買い入れ時に損金算入ができるため棚卸資産の貯蔵品からは除外できる。ただし、著しく高額になるものは棚卸資産として計上しなくてはならない。
棚卸業務とは
棚卸業務とは、事業者が所有する在庫の全てを確認する作業のことをさす。会計上で棚卸資産については決算時に一覧として提出する義務があり、正確な数量と資産の評価額を明らかにしなければならない。棚卸資産の数と評価額は貸借対照表への記載が求められるため、在庫を持つ事業者は棚卸業務をおこなう必要がある。
事業のジャンルや規模によっては、棚卸の作業に大変な時間と労力を割かなければならない場合がある。しかし棚卸業務は財務諸表を作成し、保有する資産を有効に活用するために、避けては通れない作業である。また、棚卸業務をおこなうことで、資産の状態と価値の変化も把握できる。棚卸業務は事業経営において、現状の分析に活用できる側面も持ち合わせているのである。
棚卸資産の計上
事業の会計では、棚卸資産の正確な数量と価格を「貸借対照表」に計上しなくてはならない。貸借対照表は「バランスシート」ともよばれ、決算日の時点で事業の財務状態を明確にする書類である。貸借対照表によって、ビジネスの資金調達から利益発生までの流れが把握しやすくなる。
貸借対照表の表記は左右に分割される。右側が「資産」の覧、左側が「資本・負債」の覧に分かれており、左右で同じ金額となる必要がある。
棚卸資産を貸借対照表に計上するためには「棚卸高」の算出が必要だ。棚卸高は決算時に在庫として残っている棚卸資産が、売上原価の算出から外されて次の会計期間へと繰り越すための資産総額をさす。
棚卸高の算出は「棚卸高=棚卸資産の数量×棚卸資産の単価」の公式から導き出せる。棚卸高を算出するためには棚卸作業によって資産の数量を確認し、棚卸資産の評価をおこなうことでその価値を確定する必要がある。
棚卸資産の評価方法
棚卸資産は、保有している数量と共にその評価額を計上しなければならない。棚卸資産の評価方法は、大別すると「低価法」と「原価法」の2種類に分類される。さらに複数の評価方法があるので、以下に解説する。
低価法
「低価法」とは在庫の購買価格と現在価格を比較した場合に、安い価格を採用する棚卸資産の評価方法である。会計期間の期末に棚卸資産の価値が帳簿上の価値を下回った場合、低価法では下がってしまった価格で資産を評価することが可能だ。
低価法では棚卸資産の評価額と帳簿上の価値の差額は経費として計上できるため、節税効果の高い評価方法と考えられる。
原価法
「原価法」とは、帳簿上の資産価額を評価額にする棚卸資産の評価方法である。原価法は、さらに複数の計算方法に分類される。ここからは、棚卸資産の原価法における評価方法の分類についてそれぞれ解説する。
個別法
「個別法」とは、仕入れがおこなわれた時点の価格によって棚卸資産の価値を評価する方法だ。個別法では仕入れの原価がそのまま評価額となるので、在庫品の単価が高くて数が少ない場合によく使われる評価方法である。個別法は、棚卸資産を把握できる範囲が小さい場合に適した評価方法といえるだろう。
先入先出法
「先入先出法」は、在庫を仕入れた順番に沿って販売したり製造に使ったりすることが前提となる棚卸資産の評価方法である。先入先出法では常に新しい在庫が棚卸資産となるので、継続的な仕入れと販売を繰り返すビジネスモデルに適した評価方法といえる。
反対に後で仕入れたものから消費していく「後入先出法」も棚卸資産の評価方法として存在したが、現在は廃止されている。
平均原価法
棚卸資産になる原材料や製品の原価を平均して、資産の評価額を決定する方法が「平均原価法」だ。平均原価法には、一定の期間ごとに原価の平均を割り出して総平均原価とする「総平均法」と、在庫が移動するごとに平均原価を計算する「移動平均法」がある。総平均法は期末など一定の期間を要するのに対して、移動平均法は日々の管理が手間だが、どの時点でも棚卸し資産の評価額を知ることが可能だ。
売価還元法
複数の異なる棚卸資産を、グループに分類して加重平均していく評価方法が「売価還元法」である。この評価方法では期末在庫高を、期末在庫棚卸高に原価率をかけあわせることで算出する。売価還元法は煩雑になりがちな在庫管理の作業負担を減らす効果もあるため、小売業など在庫の種類を多く持つ事業で採用されることが多い。
最終取得原価法
「最終取得原価法」は、会計期間の期末に最も近い時期の仕入価格を基準として棚卸資産を評価する方法である。最終取得原価法は、会計の期末に仕入れが集中するビジネスに適した棚卸資産の評価方法といえるが、価格変動が激しいものや会計期間が長い場合にはあまり適さない。
棚卸資産計上のポイント
棚卸資産の計上には棚卸業務で数量を確認し、資産の評価方法から価値を算出する必要がある。そして、棚卸資産を貸借対照表に計上する際には知っておくべきことがいくつかある。ここからは、ビジネスの会計における棚卸資産計上のポイントを紹介する。
棚卸資産の評価方法は届出る
棚卸資産の評価方法は、何もしなければ自動的に「最終仕入原価法」が適用される。「最終仕入原価法」以外の評価方法を選択したい場合には、税務署に対して「棚卸資産の評価方法の変更承認申請書」を提出する必要がある。
棚卸資産の評価方法の変更承認申請書の提出は、新しい事業年度がはじまる日の前日までに申請しなくてはならない。また、一旦決定した評価方法は、承認後3年間は変更ができない。
法改正への対応
棚卸資産の評価方法は税法の改正によって変化することがあり、これまで選択できた評価方法が廃止される可能性もある。この場合事業者は、法改正の前に棚卸資産の評価方法を見直す必要がある。法改正の情報は国税庁やビジネス関連のメディアが発信しているので、棚卸担当者は定期的なチェックを怠らないよう注意しておきたい。
棚卸資産評価損の計上
棚卸資産の数量が帳簿と合わない場合や、商品の市場価値が低下してしまったときには「棚卸資産評価損の計上」が必要となる。棚卸資産評価損とは在庫の劣化による損失をさし、災害によって著しい損傷を受けた場合や破損や型くずれなど品質劣化がある場合、流行性が極めて強い場合などには評価損を損金として計上できる制度だ。
棚卸資産評価損は「棚卸資産評価損=棚卸資産評価額-販売した価格」の計算式から導き出せる。商品価値の流動性が高い在庫を扱う場合には、棚卸資産評価損の計上も視野にいれておくべきだろう。
棚卸資産からビジネスの全体像を把握する
ここまで棚卸資産について資産の種類と棚卸業務、評価方法、計上のポイントなどについて解説してきた。棚卸資産はビジネスの在庫分析はもちろんのこと、経営判断そのものにも影響を与える要素のひとつである。棚卸資産に対してしっかりと理解を深め、知識の基盤を固めて日々の業務に活かしていただきたい。
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