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Tuesday, February 20, 2024

自分が自分であるために。安野谷昌穂と前田征紀、ふたりの美術家が日常で見つける小さな魔法 - THE FASHION POST

本展「LINALSASI」では、日々の生活を送る中で見つけたものや気づきを、自然の中で得た感覚とともに自身に投影したという新作を展示する。また、開催にあたり、COSMIC WONDER 主宰、そして現代美術家でもある AAWAA こと前田征紀との特別な対話が実現。ふたりの作家間で交わされた書簡の一部始終をここにお届けする。

AAWAA(以下、A):私は、昌穂の「Parallel Over Runner」という鮮やかなピンクに彩られた大作を一目で気に入り、京都のギャラリーから竜宮*に届けていただいてから毎日眺めています。ピンク、白、金などで幾十にも重ねられたその絵は自然光や季節の変化によって違う表情が現れてくる不思議な絵でした。この絵について多くを聞かないまま手元に持っています、この絵についての物語があれば教えてください。
*京都にある AAWAA の自宅兼アトリエのかやぶき古民家

安野谷昌穂「Parallel Over Runner」

Parallel Over Runner, 2023

安野谷昌穂(以下、M):あの作品が誕生する道のりは、その題名そのものの様でした。基本的に全ての作品において下書きなどはしません。自分の中の宇宙に表出する創造の風を何とかして目前にて確認しようとします。この作品においても、その宇宙に研ぎ澄ましながら受け取った感覚を行為として画面に提示し続けていました。自分の中と一致する瞬間までひたすら進みます。作品が多層構造的になるのは、その一致するパラレルを飛び越えて前に進んでいっているからです。この作品も様々な色や形の時代がありました。長いながい旅路でした。作品の完成というのは、ある時突然にパッと、魔法の様にやってくるのです。1分前までピンク一面の作品なんか考えてもいなかったのに。その一手、軽やかな一手によって、その瞬間に僕の中と一致したのです。乗り越えることができたのです。そんな作品でした。前田さんとその作品が初めて出会った時はどの様な印象でしたか?

A:とてもよくわかります。それは、人であるための証明のような行為だと思うのですが、その作業を日々続けるのはなぜですか?「Parallel Over Runner」の最初に見た印象は、トワイライトの美しい瞬間に立ち会ったような感じです。そして、作品タイトルを知り、しっくりと作品の中にある多重の多次元の重なりのような空間が見えてきました。この頃、昌穂の作品に変化を感じています。自然で必然の経過、そこに立ち会うことはとても面白いことです。

M:人であるための証明という表現をいただきましたが、そう、まさに僕が僕である事を証明していく行為なのだと思います。自分自身を確かめる作業なのだと思います。自分の外側、家庭や社会、世界で起こっている事柄は複雑で理解し難い事も多いですが、内なる世界で起こっている事はもっとわからない事だらけで、注意深く観察する必要があって、僕には作品を作るという行為がそれを導いてくれています。トワイライトの瞬間、美しいですよね。光と闇のあいだの不思議な時間。陽は登るし沈む。そこに向かう空。その偉大な光景を前にすると、ぼやけた、もしくは毛羽だったハートが元に戻る気がします。僕は都会や人混みが得意では無いので時々行く事もあるくらいですが、田舎も都会も太陽は登るし雨も降ります。木が植えてあれば紅葉して落ち葉もつもります。天災もありますね。先日の朝に散歩した時、ただの空き地の枯れた雑草が全て凍っていてそれが朝日に照らされて虹色に輝き放っていました。人間にはどうする事もできないような偉大な出来事は日々の生活の中に溢れていると思うのです。

Meeting My Soul Unlimited, 2023

Meeting My Soul Unlimited, 2023

A:私は8年前に都市から京都北部の山里にある山谷の麓の古い古民家に移動して制作や仕事をしています。ここにいると今まで見えていなかったものがまるで解像度が上がったように見えてきました。自然の中にいると小さなものもとてもよく見えてきて、雑草の一つ一つがこんなにも種類があったのかというようなことまでも気がついてきます。野原の凍った野草たちが一つ一つ美しく見えるのも、地球の偉大などうすることもできない循環、起こる出来事や情報に対しても着目する視点が変わり、集団意識の視点から人本来のその人だけの感覚の次元で過ごすことを覚えてきます。地球の循環と自分の生活しかないというか。都市では集団の動きに着目するようにと大切にと知らず知らず行動に影響がありますが、そこから離れてしまえば人はあまりにも自由なものだと感じています。昌穂も都市から離れて、静かな環境で作品を制作している時間が経ちました、そういった影響も少なからず今の作品から感じられるような気がして時代の新しさを感じています。

M:解像度が上がったように見えるという表現は、僕も腑に落ちました。僕も都市部に身を置いていた期間が10年ほどありました。日々都会特有の様々な外的な刺激に触れつつ、集団の流れの内から自分だけの抜け道のようなところを精神的にも物理次元でも探し回っていたような気がします。処理しきれなかった大量の刺激物から自分自身を守るために、感覚を一部シャットアウトもしながらクリエイションに結びつけていました。ただ思うのは、都会と田舎のどちらが良い悪いではなく、其々の魂がこの大きな宇宙の視点に立って見た時にピントが合うポイントを大切にしたいという事です。現在は都市やマスからの距離をベストなところに改め、燃える魂に焦点をおいているところです。

A:今回の展覧会「LINALSASI」についてお聞きします。「LINALSASI」とはどういう言葉でしょうか?

M:今回のタイトル「LINALSASI」は魔法の言葉です。使い方は簡単です。実現したい事柄、思い描くヴィジョン、進みたい方向などに向けてその設定のイメージをしながら発してみてください。そんな言葉なのですが、僕には1歳過ぎた息子がいまして彼には日々多くの事を学ばせてもらっているのですが、ある日久しぶりに母とテレビ電話をして息子の様子を見せておりました。少しして僕はお手洗いに行きたくなったので iPhone をそのまま置いて行きました。戻って iPhone 画面を見ると、何やらこちらから写真を添付して送っていた様なのです。しかもその写真は前に撮ったもので、光の差す林の中で息子が行く先を指差している図で、しかもその写真の上にまるで画像編集ソフトで載せたかの様に「らいなるさし」と記されていたのです。この1分もしない間に何をどうしたのか、全く理解ができませんでした。魔法を使ったようでした。その写真と言葉から受け取ったメッセージは、その時悩んでいた事や停滞していた事柄を解くものとなったのです。そしてそれは、その時制作にかかっていた今回の展示へのイメージと一致する言葉となりました。

Body Imagine Wind, 2023

A:とても不思議な出来事です、1歳の息子さんが時空間を超えたメッセージとイメージを瞬く間に発信された。昌穂の元で働いておられますね。「LINALSASI」は魔法の言葉です。今回の展示は絵と立体作品で空間が構成されています。何か LINALSASI としての意図はありますか?また、一つ一つの絵画のイメージはどのようなものでしょうか。

M:LINALSASI で展示する作品がこれまでの作品ととりわけ違った物では無いのですが、今回の軽やかな魔法を目の当たりにしてから、その感覚に由来するものが強くなりました。あとは COSMIC WONDER のコレクション「THAT OLD MAGIC」への想像も影響しています。僕の制作において瞬間的な、偶発的な、運動神経的なプロセスというのはある意味魔術的な物です。そこに重点をおいていると言う面では僕の初期作品の頃から変わらないものですが、あらためてその領域を強く深める事になりました。

A:今回の展示の試みとして、COSMIC WONDER のコレクションにドローイングがなされています。「瞬間的、偶発的、運動神経的なプロセス」、その三拍子の動きは確かに魔術的な作用の賜物を感じます。昌穂にとってそれは初期から変わらない普遍的で根源的なエネルギーであって、衣服に解き放たれた時、さらに私たちを惹きつけました。あらゆるものが作品の土台となる喜びは、壁に描けば雨に打たれて絵が削られていく、服に描けば着用者の使用で描いた絵が朽ちていく、そのような消え行く自然の美しさは、芸術の根底であって原初の試みとも思われます、そしてそれは昌穂の作品の本質的なものだと感じています。とはいえ、LINALSASI の輝く空間はとても美しいです、このような芸術の原初的な空間を作ってくださりとっても嬉しいです。

M:すべてものは変化して行きますね。僕の作る作品もこの宇宙から見れば瞬間の出来事であるし、いずれは朽ちて源に帰っていくのですね。儚さ故に感動や希望が生まれてくるのかもしれません。その瞬間の出来事を誰かと共同してつくる事ができると言うのは、まさに奇跡的な魔法の瞬間だと感じています。COSMIC WONDER での展示にフォーカスして行く中で、日々がそんな魔法で溢れているという事に改めて気づきを得ました。ありがとうございます。LINALSASI展を観に来られた方が其々の魔法を使うきっかけになれば嬉しいです。

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