コロナ禍で貧困が拡大している。
新型コロナの影響で生活が苦しくなった世帯に最大20万円を無利子で貸し付ける「緊急小口資金」の申請総額は、リーマンショックの影響が大きかった2009年度の約80倍に上っている。
最後のセーフティネットである生活保護の申請件数は、4月に前年同月比で24.8%増加、受給開始世帯も前年同月比14.8%増加し、リーマンショック以来の増加幅となっている。
私が代表を務めるNPO法人POSSEの生活相談窓口には、3月下旬から6月末までに401件のコロナ関連相談が寄せられている。2019年度の総相談件数が417件であるため、3ヶ月で1年分の相談が来たことになる。
しかも、コロナ危機の前後では相談の量だけでなく、「質」も変わってきているように思われる。端的に言えば、「働ける」労働者たちが「貧困状態」に陥っているのである。
今回は、2019年度(2019年4月~2020年3月)の生活相談集計と、今年6月末までのコロナ関連相談の集計をもとにして、相談の変化について見ていきたい。
コロナ前:「働けない」人たちからの相談
まず、コロナ危機の前にあたる2019年度の相談集計を見てみよう。
POSSEに寄せられる生活相談は、貧困状態にあり生活保護をこれから利用したいという方と、すでに生活保護を利用している方からの相談が多い。相談の寄せられたタイミングについては、生活保護の「申請前」が35.7%、「受給中」が58.5%となっている。
年齢層は20代が45件(10.8%)、30代が48件(11.5%)、40代が73件(17.5%)、50代が60件(14.4%)と、20代~50代の稼働年齢層に幅広く分布しているが、40・50代の中年層の方が多くなっている。近年の中年フリーター、中年ひきこもり問題に関連した相談が寄せられているためだ。
世帯構成としては、単身世帯が約6割と最多で、ひとり親世帯が16.8%と続く。
相談者を含む世帯員の状況については、障害・傷病者を抱える世帯が70.3%と非常に多い。なお、世帯員に一人でも障害・傷病の(診断がなくとも)自覚症状がある場合にカウントしている。経済的困窮のために受診できていないことも多いからだ。
生活困窮の要因については集計できていないが、障害・傷病のために働けなくなり、貧困状態に陥っているケースが多い。そして、障害・傷病の原因としては、職場での長時間労働やパワハラといった労働問題か、家族による虐待やDVのどちらかであることが推察されるケースがほとんどである。
以上より、コロナ前の生活相談の特徴を総合すると次のように言えるだろう。
障害・傷病などを契機として働くことのできなくなった人たちが貧困状態に陥り、生活保護の利用につながっているということだ。その背後には労働問題が存在しているが、直接貧困状態に至る過程では、「働けない」という状態に陥っていた。
それでは、このような傾向がコロナ危機を通じてどのように変化したのだろうか。
コロナ後:一般の労働者が貧困状態に
まず、大きな違いは、通常であれば「働ける」はずだった労働者からの相談がほとんど全てであるということだ。特に、「20代女性」「非正規」「小売・飲食」「単身者」の労働者の方からの相談が多い。
年齢・性別については、「その他・不明」を除く304件のうち、「20代女性」が47件(15.5%)と最多で、「40代男性」が32件(10.5%)、「50代女性」が31件(10.2%)と続く。
雇用形態については、「その他・不明」を除く217件のうち、「パート・アルバイト」が90件(41.5%)、派遣が71件(32.7%)と、非正規雇用が非常に多い。正社員は18件(8.3%)とごく少数である。
勤務する業界については、「その他・不明」が多いが、除いた場合に「小売・飲食」が61件(50.4%)、「その他サービス業」が21件(17.4%)、「観光・交通」が13件(10.7%)となっている。
世帯構成については、「その他・不明」を除く287件のうち、「単身」が185件(64.5%)、「夫婦と未婚の子」と「ひとり親と未婚の子」がともに35件(12.2%)である。
さらに、生活困窮の原因としては、「休業・勤務日数減」が48.1%、「解雇・雇止め」が14.5%、「(コロナ前から無職だった人が)仕事が見つからない」が18.2%となっている。このように、コロナ前の相談と比べて、貧困の原因が労働問題にあるということが鮮明に現れている。
このような労働者たちが生活に困窮し、多くは生活保護を受けてもおかしくないという状況に陥っているのである。
コロナ危機があぶり出した日本社会の貧困
しかし、貧困拡大の原因をコロナ危機という歴史的事象にのみ還元するのは正しくない。ここで考えなければならないのは、コロナ危機の前から多くの日本の労働者が「綱渡り」の生活を送っていたということだ。
日本では住宅や福祉、教育の商品化の度合いが高く、生活を賃金に依存せざるを得ない。住宅を例にとって考えてみよう。日本では、安価な公共住宅が少なく、家賃補助も限定的である。住宅ストックのうち、公的借家の占める割合は日本で5.4%に対し、イギリス17.3%、フランス16.4%と3倍以上の開きがある。
公的な家賃補助である住居確保給付金は、コロナ危機に際して対象者を離職者以外にも拡大したが、未だに収入基準は厳しく、支給対象を借家のみに限定している。この点についても、ヨーロッパの福祉国家では、中間層を含めた幅広い層を対象に、借家だけでなく持ち家の住宅ローン補助も行っている。
しかも、非正規雇用は低賃金であるため生活が非常に苦しくなる。賃金構造基本統計調査(2017年)によれば、正社員の賃金321.6万円に対し、非正規の賃金は男女計平均で210.6万円である(ともにフルタイム)。非正規女性に限ると189.7万円とかなり下がる。月当たりに直すと、男女計の平均が17.6万円である(なお、ここでの「賃金」とは、税金などが控除される前の金額である)。
非正規雇用の賃金水準は最低賃金ギリギリに合わせられているが、最低賃金自体が家計補助型の主婦パートを想定して決められているため、非正規雇用で生計を自立させている労働者にとってはかなり低水準となってしまうのである。
そして、住宅供給が市場に依存しており、かつ低賃金のため、住宅の維持は非常に困難である。例えば、2014年にビッグイシュー基金が首都圏と関西圏の低所得(年収200万円未満)の未婚の若者(20~39歳)を対象に実施した調査によれば、家賃が対手取り月収比で3割以上が57.4%、5割以上が30.1%となっている。
日本においては、生活上のリスクに対応する方法としては貯蓄するしかないが、もはや貯蓄ゼロ世帯が単身で46.4%にも上っている。
つまり、もともとギリギリの生活を送っていたところをコロナ危機が襲ったために、膨大な貧困者が生み出されたのである。
一般の労働者にこそ福祉を活用してほしい
改めて、貧困問題の背景には労働問題があり、一般の労働者にとって貧困は身近な問題であるということがわかる。
そのため、貧困を解決するにはまず労働問題に取り組む必要があるだろう。今回のコロナ危機に引きつければ、会社に休業補償をさせたり、解雇や雇止めを辞めさせることが重要である。
ただ、本当に困った時には国の福祉制度を活用することをお勧めする。特に、コロナの経済に対する影響を受けて、社会福祉協議会の生活福祉資金と生活困窮者自立支援制度の住居確保給付金が拡充された。これ自体は歓迎すべき動きではあるが、前者は基本的に貸付であり(返還時に住民税非課税世帯水準の収入であれば返還不要)、またともに給付期間が決まっている。
それに対し、給付かつ期間の定めのない制度としては生活保護がある。住んでいる自治体で誰もが申請でき、収入と資産の要件を満たせば、毎月の生活費や家賃が一定額支給され、医療や介護を無料で受けられるようになる。住居を失った時にはアパートの初期費用や引っ越し費用、子どもがいる場合には教育費の補助もある。
相談を受けていると、生活保護を受けるなど想像もしておらず、恥ずかしいので受けたくないという方が少なくない。しかし、もはや生活保護は働けない「特殊な」人たちのためだけの制度ではなくなっている。「綱渡り」の生活が破綻してしまった今、働けるはずの多く労働者が生存のために活用すべき制度なのだ。
生活保護が受けられるか知りたい、受けようかどうか迷っているのでアドバイスが欲しい、あるいは窓口に行ったが申請を受けつけられなかった(これは違法な対応である可能性がある)、など、ぜひご相談いただき、制度を活用いただきたい。
無料生活相談窓口
電話:03-6693-6313
メール:seikatsusoudan@npoposse.jp
受付日時:水曜18時~21時、土日13時~17時、メールはいつでも可
*社会福祉士や行政書士の有資格者を中心に、研修を受けたスタッフが福祉制度の利用をサポートします。
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