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Wednesday, September 9, 2020

チェーホフを読んだことがない人にこそ勧めたい! 小説で読み解くリアルな『桜の園』(本がすき。) - Yahoo!ニュース

ロシア文学の多くは、登場人物の名前が長く複雑であるため、覚えづらくてなかなか感情移入できない。その上、暗い・難しいというイメージがあり、タイトルは知っているけれど、まだ読んだことがない――。 『桜の園』に対するイメージを聞くと、こう答える人が少なくない。 かく言う筆者もそうだった。戯曲とは、そもそも舞台上で役者が演じることを目的に書かれた脚本であるため、小説のような情景描写がない。シーンによっては発言者が目まぐるしく変わるため、登場人物たちの生い立ちも、彼らが置かれている歴史的背景についてもさほど説明がなされないまま、会話だけが軽やかに展開していくように感じていたのだ。短いセリフの核心に触れることができないまま、ページをめくっていた。 しかし、『小説で読む世界の戯曲』シリーズの第1弾である『桜の園』は、登場人物の人となりがしっかりと分かり、個性が際立っていることが印象的だった。それぞれの顔立ちや表情、19世紀の装いといった外見はもちろん、本作には彼らの内面が語られるオリジナルのシーンも少なくない。 例えば、今では実業家となった主人公・ロパーヒンがまだ少年だった頃、元農奴であった父親のなけなしの誇りを傷つけたために、暴行を受けるシーン。また、この上なく美しく愛情溢れる貴婦人然としながら、その実承認欲求に囚われているラネーフスカヤが、金銭を搾取されながらも若い愛人に依存していく心理描写など。戯曲では割愛されている生々しいエピソードを繊細な筆で丁寧に描くことで、登場人物たちが背負っている歴史、抱えている感情や葛藤、原体験が色鮮やかに立ち上がる。 かつて桜の園の領主に所有され、代々、家畜同然に売り買いされる農奴であったロパーヒンの一族。対して、彼らを所有し続けてきた領主である、ラネーフスカヤの一族。1861年に「農奴解放令」が発布されたとはいえ、その身分格差はそれぞれの価値観として、現在も根深く残っている。 (前略)こちらをじっと見つめたまま、ラネーフスカヤが眉ひとつ動かさずに言った。 「でも、別荘族って、申し訳ないけど、低級なのよねえ」 ラネーフスカヤの目を見て、ロパーヒンは悟った。 彼女は別荘族を嫌悪してさえいない。それ以前に、微塵(みじん)も興味がないのだ。別荘族など自分の人生には、これまでも、これからも一切関わることがないと、心の底から確信している人間の、冷ややかな微笑みがそこにあった。(【第二幕】P.123~124) 今や借金まみれであるラネーフスカヤに、資金調達と収益化に向けた事業計画を提案したロパーヒン。彼に対して、ラネーフスカヤが見せた表情である。 本作は随所に自然の美しい風景が描かれており、とりわけ、登場人物の心の移ろいが投影された、桜の樹々の様々な表情が目を引く。そして、その中にふと、こういった残酷な描写が小さな棘のように潜んでいる。現実に対する登場人物たちの温度差も含め、極端といえる差異も、本作の特徴といえるだろう。

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