デイトレーダーの集団が明確な理由もなしにあなたの会社の株価を急騰させた。さてどうする?
通常なら、企業幹部が頭を悩ませるリストにこれは含まれていない。経営再建に苦戦する企業であればなおさらだ。株価は業績に対する信任票のようなもので、好調であれば、資金調達や競合買収の原資を提供する――だが、オンライン掲示板のメッセージによって、時価総額が1年前の2億5000万ドル(約260億円)から250億ドル余りに急増した場合は別だ。
経営立て直しに手間取るゲームソフト小売り大手ゲームストップの株価は、昨年末が19ドル未満、新型コロナウイルス禍以前は4ドル程度で低迷していた。だが、事業の先行きに何ら根本的な変化は見られないにもかかわらず、足元では一時483ドルまで急騰した。その後の急落ぶりは、急騰局面と同じくらい激しく、4日終値は54ドルを割り込んだ。深刻な経営危機に直面している米映画館チェーン大手AMCエンターテインメント・ホールディングスや米家庭用品小売りチェーンのベッド・バス・アンド・ビヨンドなども、同じように株価が乱高下している。
一般人がその変動ぶりにあっけにとられている中、その標的となった企業の幹部は計画を練る必要がある。好調な株価に乗じて会社のために資金を調達するか、ストックオプションを換金して自らの富を増やすかといったことも含め、難しい選択に直面する。魅力的に映るかもしれないが、こうした選択肢には実質的な影響を伴う。
資金調達すべきどうかの決定は実のところ、はるかに複雑な問題だ。株価がつり上がっている状況では、株主は直感的に売却すべきだと考えるだろう。これは企業も個人も同じだ。つまるところ、株価の値上がりは、実際に買い求める向きが存在すれば、事業の面で大きな意味を持つ。
だが、幹部にとっては、機関投資家1社の方がデイトレーダーの株主ベースよりもはるかに望ましい。機関投資家は長期のパートナーのような存在であり、そこまで極端な意志決定は行わないことが多い。長期的な視点に立って、ゲームストップの株を最近買い入れたという熟練の資産運用担当者を見つけることは難しそうだ。
他にも困難な要因がある。企業幹部は資本コストや、新規調達で投資家がどの程度高いリターンを求めているかに目配りする必要がある。幹部はビジネススクールの初日に、企業にとっては通常、融資を受けるよりも、株式を売却する方がコストが高いことを学ぶはずだ――だが、足元の奇妙な世界では一時的に通用しなかった。だが、新規株主はおそらく、企業がこれでコストを削減できても満足しないだろう。投資家は新発株式が急落した場合、目論見書にどれだけ法的な決まり文句が書かれていても、提訴する傾向がある。
また市場の混乱を受けて、企業幹部は規制が強化される可能性にも目を向ける必要が出てくる。米証券取引委員会(SEC)は市場動向に関心を抱いているようで、議会は18日に最近の売買状況について公聴会を開催する予定だ。SECのアリソン・ヘレン・リー委員長代理は先頃行ったラジオのインタビューで、この環境下で増資を決めた企業が株価に関するリスクを完全に開示しているか注視すると述べている。また株価の振れが大きい企業について、内部関係者が持ち株を取引していないかにも注目しているとしている。
株価が一時的に急騰しただけでも、幹部のストックオプションの価値は短期的に大きく値上がりするため、内部関係者には換金の機会となる。実際に売却すれば投資家にも快くは受け止められず、同時に会社のイメージを落とすことにもなりかねない。
世間の注目をさらった今回の騒動だが、企業幹部にとっては、第2波が訪れた場合にどう対応すべきか、計画の策定に着手することができそうだ。例えば、転換社債など、より一般的ではない調達方法を試みることが挙げられる。この場合、株価が貸し手を満足させる水準で取引されていれば、借り手は債券の支払いを現金ではなく、株式で行うことができる。
この他、企業が新株を実勢価格で市場に直接販売する「アット・ザ・マーケット(ATM)」と呼ばれる方式で資金を調達することもできる。従来の手法では、投資銀行が固定された株価で機関投資家に一括販売することが多い。
これまではバイオテク業界で主流だったATM方式だが、ここにきて変化が見られる。ディールロジックによると、米企業は2020年にATM方式で900億ドル近くを調達した。これには市場のお気に入りである電気自動車(EV)メーカー大手テスラによる100億ドルも含まれる。
映画館チェーンのAMCは、こうした調達手法によって大きな恩恵を受けた典型例だ。同社は先頃、6億ドル相当の転換社債を株式で清算し、ATM方式による株式売却で3億ドルを調達した。総合すると、同社は市場が大荒れとなる中で10億ドル近い現金を確保した――新型コロナウイルス禍による劇場閉鎖で業績不振に苦しむAMCにとっては、切実に必要としていた資金だ。
ゲームストップもまだ機会を逸してしまったわけではない。現在の株価でも、大半のアナリストが可能だと思う水準を大きく上回っている。同社株は昨年の大半について、ほぼ5ドル未満で取引されていた。市場が落ち着きを取り戻せば、向こう数週間に有利な価格で資金を調達できるかもしれない。
その他の上場企業については、今回の騒動を経て、新たなメッセージが求められそうだ。上場企業の幹部は決まって「日々の株価の変動にはあまり気にしていない」と言う(おそらくうそだ)。レディット発の狂騒劇を受けて、この決まり文句が近く消えても、誰も彼らを責めないだろう。
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からの記事と詳細 ( ゲームストップ現象の板挟み:会社が標的にされたら - Wall Street Journal )
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