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Monday, August 30, 2021

亡きシェフの味、私たちが守る 本郷のロシア料理店「海燕」 アルバイト奮起 12月まで営業継続 - 東京新聞

(手前から時計回りに)ロールキャベツ、キノコのつぼ焼き、ボルシチ

(手前から時計回りに)ロールキャベツ、キノコのつぼ焼き、ボルシチ

 文京区本郷のロシア料理店「海燕(かいえん)」。おじいちゃんシェフとアルバイトの心温まる掛け合いを紹介したツイッターが話題だったが、今年七月、シェフの毛塚幸雄さん=写真、店提供=が七十三歳で亡くなった。シェフが愛した店を守ろうとアルバイトたちは奮起。十二月末までの期間限定だが、懐かしい味を求めて常連客が訪れている。

亡くなった海燕のオーナーシェフ毛塚幸雄さん=店提供

亡くなった海燕のオーナーシェフ毛塚幸雄さん=店提供

 都営大江戸線春日駅から歩いて五分。静かな住宅街の一角に店はある。

 一番人気はロールキャベツ。肉がぎっしり詰まったキャベツは簡単にかみ切れるほど柔らかく煮込まれ、トマトソースとよく絡む。

 ロシア料理の定番ボルシチ、グリヴィと呼ばれるキノコのつぼ焼きなど家庭的で優しい味が特徴だ。

 元アルバイト「るーさん」(24)は「シェフの味そのものです」と話す。

 るーさんによると、毛塚シェフは二十代でロシア料理に出合い、ロシア全土を旅して腕を磨いた。代々木、根津を経て十三年ほど前に現在の場所に移転したという。

 高校時代、スーパーでバイトしていたるーさんは買い物に来るシェフと知り合い、店で働くようになった。

 シェフの料理を食べた人は「おいしい」と喜んでくれたが、夜の営業時間に客が二人しか来ない時もあった。経営が厳しくても、シェフはるーさんたちバイトに「もう来なくていい」と言わなかった。「働くのが好きだから」と他の店でアルバイトをして、海燕の人件費を捻出していた。

ツイッターにも登場したロシアの民芸品「マトリョーシカ」やぬいぐるみ

ツイッターにも登場したロシアの民芸品「マトリョーシカ」やぬいぐるみ

 まかないでは、リクエストすればメニュー以外の料理も食べさせてくれた。

 るーさんは「本当のおじいちゃんみたいに優しかった」と振り返る。

 そんな大好きな店のために何かできないかと、るーさんは二〇一七年九月、ツイッターを開設した。

 「日本人シェフのおじいさんが一人で切り盛りしているロシアレストラン海燕です。皆様お店の宣伝にご協力ください」と、料理や店の様子を写真でアップすると瞬く間に拡散された。

 シェフのおちゃめな動画、かわいい小物、自慢の料理…。るーさんの愛が通じ、フォロワーは一万人を超え、店は連日満席となるなど活気があふれた。

 一方で、シェフは二年ほど前から体調を崩し、入退院を繰り返していた。

 治療を続けながら調理場に立ち続けたが、七月二日、病状が悪化して亡くなった。

 半年間の営業継続が決まった「海燕」の店内

 半年間の営業継続が決まった「海燕」の店内

 「店を続けることをシェフも望んでいる」と言い出したのは先輩のアルバイト。他の現役アルバイトとるーさんも「応援します」と賛同した。シェフが生前注文していた料理のベースとなるブイヨンのセットが届き、八時間かけてシェフのボルシチの味を再現。同月九日から店を再開した。

 営業は十二月二十六日まで。ランチ営業のみだが、ツイッターで知って初めて来てくれた人もいる。

 「シェフが大切にしたお店のことを知ってもらいたい」とるーさん。

 「イタリアンのように『ロシア料理を食べに行こう』と気軽に楽しめるようになったらうれしい」

 営業時間は午前十一時半〜午後二時半(ラストオーダー平日二時、土日は同一時十五分)。予約は受け付けていない。不定休(三十一日は休み)。(電)03(6272)3086。詳細は海燕のツイッター@Russia_kaienへ。

 文・砂上麻子/写真・木口慎子

 ◆紙面へのご意見、ご要望は「t-hatsu@tokyo-np.co.jp」へ。

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