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Tuesday, November 30, 2021

ファラオも愛したワインを現代に 禁酒のエジプトで受け継がれる4000年の味 - 東京新聞

10月下旬、カイロ近郊サッカラで、ワインを飲むプタハホテプ一世。壁画は紀元前2300年代後半ごろとみられる

10月下旬、カイロ近郊サッカラで、ワインを飲むプタハホテプ一世。壁画は紀元前2300年代後半ごろとみられる

 飲酒を禁じるイスラム教国のエジプトで、栽培から生産まで100%国産にこだわったワインが造られている。主に観光客や外国人向けだが、酒を「ハラーム(禁止)」とする文化の中では、ワイン産業自体が敬遠される存在のはず。しかし、ワインは古代エジプトのファラオ(王)も愛飲した長い歴史があり、いにしえの味を現代に受け継ごうと試行錯誤が続く。(エジプト東部エルグーナで、蜘手美鶴、写真も)

◆100%国産にこだわり

 高さ10メートルほどの巨大なタンク十数基が、工場内に所狭しと並ぶ。タンク内では白ワイン「ビューソレイル」が発酵中で、工場長ラビーブ・カラスさん(53)がタンクのコックをひねると、黄みを帯びたワインが勢いよく流れ出てきた。発酵過程のワインは微炭酸を含み、さわやかな味がする。カラスさんは「ワインが生きている証拠。エジプトで育ったブドウで造り、自分の子どものようなものだ」と誇らしげだ。

10月下旬、エジプト東部エルグーナで、瓶詰めが終わったワインを手にする「エジビブ」のカラス工場長

10月下旬、エジプト東部エルグーナで、瓶詰めが終わったワインを手にする「エジビブ」のカラス工場長

 国産ワインを手掛けるのは、飲料メーカー「エジビブ」。赤や白、ロゼなど18種類を年約400万本製造している。100%国産にこだわり、フランスとスペインからブドウの苗木を取り寄せ、カイロ近郊にある約1・4平方キロの畑で育て、収穫している。

 ターゲットは主に外国人で、ホテルや観光地のレストランに卸している。小売価格は1本150~350エジプトポンド(約1000円~約2500円)で、「エジプト産ワイン」の付加価値を付けて販売増を狙う。

◆屋外飲酒には罰金も

 人口の9割がイスラム教徒のエジプトでは、飲酒は基本的に禁じられている。外国人向けレストランなど特定の場所でしか酒類は提供されず、屋外での飲酒や公共の場での酒類広告の掲示には罰金が科される。指定された店舗で酒を購入しても、商品は黒い袋で厳重に包まれ、外から見えないようにして渡される。酒を運んだり、触れたりすること自体を嫌がる人も多い。

 こうした背景から、エジビブの従業員には家族に勤務先を偽る人もいる。ワイン畑の技術管理者サミール・シャウキーさん(39)は父親には「ジュース工場で働いている」と伝えている。ただ、「ワインは外国人観光客向けに必要。観光客がワインを消費することは、結果的に国のためになっている」と強調する。

◆古代には広く親しまれ

 一方、古代エジプトではワインは広く親しまれ、紀元前2500年ごろの壁画からはファラオらが愛飲する様子がうかがえる。カイロ近郊サッカラにあるジェドカラー王時代(紀元前2414年~同2375年)の司法長官プタハホテプ1世の墓には、彼がワインを飲む姿のほか、労働者が手でブドウをもぐ様子や布を使ってブドウを搾る作業が描かれ、ワイン製造が盛んだったことが分かる。

11月下旬、カイロ近郊で、ワイン畑の説明をするシャウキーさん

11月下旬、カイロ近郊で、ワイン畑の説明をするシャウキーさん

 古代エジプトの神々はワインを好んだと信じられ、ファラオもワイン造りに力を入れた。ワイン貯蔵用のカメも多く出土し、産地ごとに品質の異なるワインが造られたという。高級ワインはファラオの元に運ばれ、一般的なワインは庶民が楽しんだとみられる。

 カイロ大付属博物館のアフメドモハメド・アフメドアリ事務局長(60)は「ワインを製造したり、壁画に描いたりすることは、神への愛を示す行為とされていた。ワインは神に近い神聖な飲み物だった」と話す。

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