最大16社のデータを統合するアプリ開発プロジェクトが始動
同社では、従来から研究開発をしていた建物の間取り情報と設備情報を利用した各種サービスとユーザーインターフェース(UI)について、家族が使いやすいサービスは何か、徹底的に機能の絞り込みを行った。そして、「PLATFORM HOUSE touch」に盛り込む基本的な機能をまとめ上げた。
プロジェクトではこの機能モデルをベースにサービスの開発に着手した。開発のポイントとなったのは大きく2点。一つは、家族の誰もが使いやすいユーザーインターフェース(UI)をアプリで実現すること。もう一つは、そのアプリとつながる住宅内の様々な機器との連携だ。
まずアプリのUIには、これまでとは異なる考え方が求められた。第一に、使う人は子どもから高齢者まで幅広い年齢層に対応した分かりやすいものでなければいけない。また、今後機能が追加されることにも対応する必要もある。
「UIといっても、スマートフォンの画面内のデザインだけではありません。先ほどの玄関ドアの解錠通知は、家族が使うカギと連動する仕組みを提供しています。他にもエアコン、家電など、いろいろな機器がUIとして連動しなければいけません」(藤岡氏)
一方のシステム間の連携も課題だった。今回のシステムでは、積水ハウスが開発した住宅のゲートウェイに、空調、照明、窓シャッターなど、様々なデータを接続し、そこからクラウド経由でスマートフォンアプリと連携する形式を採用している。それぞれに提供する設備メーカーや開発ベンダーは異なっており、プロジェクト参加企業は主要なところで6社、最大で16社にも達した。これらのマルチベンダーのデータをスムーズに接続するためのシステム開発と、それをアプリと連携する開発が必要だった。
積水ハウスでは、これらの要望をまとめてUIアプリ開発会社4社のコンペを実施。結果、最終的に開発を依頼したのがジークスだった。
なぜジークスを選んだのか。積水ハウスの藤岡氏は、ジークスの提案は、事業としての実現性が最も高かったと評する。
「ジークスさまのご提案は、堅実かつ現実的で、サービスの形が想像できるものでした。その点で、今回のプロジェクトの趣旨を最も理解いただいていたと感じました」(藤岡氏)
積水ハウスからの要望を受け、ジークスではどのように検討し、提案したのか。同社の開発リーダーを務めた玉村一之氏は次のように語る。
「最初に要求仕様を拝見したときに、かなりのボリュームがあり大規模なプロジェクトであることを理解しました。当社としては、これまでの開発経験を基に、どこまで現実的に落とし込めるのかを考えていきました。また、我々にはUI/UXの知見もありますので、そこも含めて提案させていただきました」
- 株式会社ジークス
開発第2事業部
マネージャー - 玉村 一之氏
こうして19年7月、マルチベンダーでのプロジェクトがキックオフした。UIの点ではどんな工夫が必要だったのか。ジークスのUXプランナーである井上亜津奈氏は次のように語る。
「積水ハウスさまからは、『リモコンアプリにはしたくない』というご要望を頂きました。本アプリには、もちろん部屋の設備を動かすリモコンの機能も含まれているのですが、『PLATFORM HOUSE touch』に合わせ一からの開発になりました。また、今回のアプリはリモコン機能や通知の他に、温湿度などの住環境状態を確認するモニタリング機能や戸締りの状態を見守る機能など、様々な情報を扱う多機能なものになります。今後は住む方をアシストするコンテンツが増えることも考慮し、インターフェースの一貫性を持たせながら、それらの機能をすべて取り込んでいく点を工夫しました」(井上氏)
とくに画面表示で積水ハウスがこだわったのが、本アプリの顔とも言える、住宅の間取り図に各機能をオーバーレイして表示する見せ方だった。
「住宅の設計時にCADを使って図面を作りますが、この図面はお客さまもなじみがあります。例えば、住宅設備の操作一つについても、図面上にあれば誰が見ても一目瞭然でぱっと操作できます。ここはジークスさまにも工夫していただき、ほぼ要求通り作っていただきました」(藤岡氏)
- 株式会社ジークス
クリエイティブ事業部
リーダー
UXプランナー - 井上 亜津奈氏
- 図面から家の状態にアクセスできるアプリ
PLATFORM HOUSE touch - 図面上で、温度や湿度などの住環境の状態が確認できる。熱中症の危険などがあるときにはアラートで通知してくれる機能も搭載。他、外出先や家の中のどこからでも、対象機器の状態の確認・操作もできる。
一方の課題だった、マルチベンダーとのデータ連携のやり取りについても、積水ハウスとジークスが協調して各ベンダーとの調整を進めた。
「当時、一般的なホームエレクトロニクスのシステムでは、アプリからエアコンのスイッチを入れるのに15秒かかることもざらでしたが、これでは快適に使えるとは言えません。本アプリでは、部屋の機器の操作と機器の動作が完了するまでの時間を5秒以内にする、という目標を掲げお願いをしました」(藤岡氏)
複数のベンダーの通信規格がどうなっているかを確認しながら、5秒という非常に高いハードルが設けられた。さらに、通信ではクラウドの遅延時間も考慮しなければいけない。ジークスでは各ベンダーとの調整を重ね、アプリに盛り込まれた機能一つひとつについて仕様を満たすレスポンスを実現していった。その結果、実際のアプリの動作検証では、目標の5秒を大幅に上回る1秒程度で動作が完了するほど、チューニングが進んだという。
また、アプリを利用する家族の中で、機能をフルに使える管理者の権限と、限定して使う権限を3段階設定して、子どもや高齢者が意図せず重要な機能を操作することを防いでいる。積水ハウスでは当初この設定ができるか不安視していたが、ジークスが過去に開発した企業向けアプリの権限設定の機能をベースに実装することができた。
住まい手にとって世界に一つだけのアプリを実現する
こうして、「PLATFORM HOUSE touch」は21年8月に正式リリースされた。先行で利用を開始していた積水ハウスオーナーからの評価も上々であり、今後も採用が進むものと思われる。
今後は、アプリとそれにつながる機能、コンテンツの拡充を計画している。追加機能をはじめ、3つのコンセプトのうちの健康にフォーカスした機能の検証を進めている。
「健康に関しては、バイタルセンサーの情報を利用するなど、様々な可能性が考えられます。しかし、ユーザーに価値があることしかやらないという基本は変わりません。そこを見極め、今後もジークスさまとの二人三脚で使いやすいアプリを作っていきたいと考えています」(藤岡氏)
「家はお客さまごとに違い世界に一つのものです。また家族の形も様々で、時代によって変化していきます。このアプリも、それぞれの住み方に合わせて、そのとき必要なくなった機能を手放し、今必要なものを加えていく、つまり住まい手が選択できるようにしながら、『わが家』を世界一幸せな場所にするために新しい挑戦をし続けています」(水上氏)
ジークスの玉村氏は「本アプリとそのベースになるシステムには、将来に向けた拡張性も考慮してあります。積水ハウスさまがお客さまに提供したい機能が発生した際に、遅滞なく開発し、提供できるように取り組んでいきます」と語る。また井上氏は、「これからは家全体がインターフェースとなっていくと思います。といって突飛なものにはならず、住む体験をより良くしていくためにデザインをしていきたいと思います」と語った。
からの記事と詳細 ( 住まいと家族がつながるアプリ開発の舞台裏- 日経クロステックSpecial - 日経テクノロジーオンライン )
https://ift.tt/wIUrjM4
No comments:
Post a Comment