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Tuesday, March 1, 2022

電機敗北のトラウマが見せる「ソニーが自動車会社に」幻想 - 日経ビジネスオンライン

 ソニーが、ついに自動車メーカーとして名乗りを上げた。
 守旧的な故に滅びに向かっている旧来型日本車メーカーに代わって、ニッポンの守護神として、GAFA的ビッグテック企業に立ち向かうのだ。

 みたいなストーリーが散見される。ご覧になった方もいると思う。

 正直、いやスゲーなと思って見ていた。そりゃあなたの魔眼で見通す未来はそうなのかもしれないけれど、事業としての自動車づくりを知っていれば、そんな可能性はなきに等しいことが分かるはずだ。

 そんなこと分からないじゃないか、と言われるなら、根本の部分から説明し直さないといけないだろう。ソニーは確かに「VISION-S 01」と「02」を発表した。その意図はなんだったのか?

VISION-S 01(写真:ソニーグループ、以下同)

VISION-S 01(写真:ソニーグループ、以下同)

 家電製造を事業の軸としてきた日本の電機メーカーは、韓国、中国企業との競争に敗れ、事業の根本的転換を余儀なくされた。一部は原子力発電に向かい、一部は半導体に向かい、あるいは家庭の冷暖房からキッチン、バス、エンターテインメントまで全てを統合化し、ハウスメーカーなどと組んで、いわゆるホームエレクトロニクスソリューションを事業化したり、似たようなことを企業向けに展開したりして、それまでの家電量販店で一つひとつの家電製品をエンドユーザーに売るB to Cビジネスからの脱却を図ったのだ。

 恐らく、メインフレーム(大型汎用機)を企業に売ってきた米IBMが、パソコンの時代を挟みつつ、最終的にはハードウエアに関する事業をあらかた手放し、「システムソリューションカンパニー」へ転換したことが、大きな意味でヒントになっているのではないかと思う。「インターナショナルビジネスマシーン」が「マシーン」を諦めてビジネス向けのシステムソリューションで成功できるのであれば、家電製品を軸にホーム向けに同じことができるだろう。そう考えても不思議はない。

 ガタイの大きいメーカーにとって、このシステムソリューションはうまみが大きい。家の全部、企業の全部をカバーできるだけの製品群と、システム構築力は新参者には大きな参入障壁になる。「家を建てるなら、キッチンはどこ製で、バスはどこ製で、と一つひとつを選ぶのは大変でしょう? 我が社に丸投げすれば、それらが統合されてワンストップサービスで提供できる上、デザインもトータルコーディネートされ、全てがネットワークに繋がってスマホから統一性のあるインターフェースで操作できるようになりますよ」

みんなシステムインテグレーターになりたい

 システム全体の主要なところで良い製品を持っていさえすれば、個別の領域では勝てないジャンルも全て総取りできる。IHと食洗機と電子レンジと温水器が強ければシンクも食器棚も風呂もトイレも、インターホンも売れるわけだ。自社で持っていない部分は、他社と提携してシステムインテグレートしてしまうことで、わざわざ開発しなくても、利ざやは抜ける。システムに組み込む製品をどこの社のものにするかの決定権はシステム側が持っているので、生殺与奪権を握れる。当然、シンクや食器棚のメーカーはサプライヤーに格下げされる。

 多少意地悪な言い方をすれば、そのぐらい強引に自社のデカさ、つまり総合的に多くの部門を持っていることをプラスに転換できないと、むしろ不採算事業を清算しなければならなくなる。誰だってそういう縮小均衡ゲームに入りたくはないのだ。

 という転換劇の中で、自動車に関わる事業を持つ電機メーカーの選択肢の一つとして常に挙がってきたのが、クルマのシステムインテグレーションである。考え方は全く一緒だ。ヘッドランプだけ、ECU(電子制御ユニット)だけ、インフォテインメントだけみたいに分断されてきた自動車用の電気系システムをトータルソリューションとして売り込もうという話だ。これからますます電気系パーツの重要度が増していく中で、それは商売として大きなポテンシャルがある。

 これには先例がある。ちょっと前の話になるが、ドイツの老舗タイヤメーカーであるコンチネンタルは、2000年前後からアンチロックブレーキや、横滑り防止装置をシステムアップしていき、車両統合電子制御へと開発請負業務を拡大した。その結果、この領域での売上拡大はもちろんのこと、タイヤがバカ売れしたのである。

 従来、例えばカローラを買うなら、装備されてくるタイヤは2~3種類が混在しており、顧客はタイヤの銘柄の指定はできなかった。ブリヂストンが付いてくるかダンロップが付いてくるか、はたまたトーヨーかは選べない(個人的にはブランドイメージと異なり、仕上がりはトーヨーだと当たりのことが多い)。

 じゃあなぜコンチネンタルが電子制御を請け負うとタイヤが売れたのか。

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