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Thursday, April 21, 2022

『防災アプリ 特務機関NERV(ネルフ) 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』川口穣著(平凡社) 1760円 - 読売新聞オンライン

 誰が運営しているかわからないけど、どこよりも早い――こういう防災情報提供アプリがあったら、皆さんは使うだろうか。危険を知らせる情報は早ければ早いほどよい。しかし、それは正しい情報であることが前提だ。本書はこの最速アプリの開発秘話をまとめたもので、初めは怪しいと思われていたものが、今や国も認める存在になるまでの過程が克明に描かれている。

 主人公は、小学生の時にすでにレンタルサーバーの運営を開始した驚異のIT人材、株式会社ゲヒルンの石森大貴社長である。彼は東日本大震災で伯母を失っている。二度とこのようなことはあってはならない、という 真摯しんし な思いが人の心を打ち、IT業界の逸材が磁石に吸い寄せられるかのように彼の下に集まってくる。最初は人気アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」にあやかった個人的な取り組みだったが、開発したアプリに広告を一切載せず、地道に技術を磨いていくことで次第に周囲の信頼を得ていく過程は、読んでいて爽快感さえ覚えてくる。

 少しでも早く情報を届けることで救われる命がある。そのため、情報表示の時間を100分の1秒でも削る執念は、まさにアスリートである。さらに気象庁発表の内容をそのまま伝えるだけでなく、高度な数学の知識が必要な予報業務の許可まで取得しているのは驚きである。

 ただし、その歩みは順調ではなかった。防災情報を提供して何になる、と悩んですべてを放り出した事もあった。いくら人々に危険を知らせても、結局自ら行動を起こさないと助からない。まずは自助、次に助け合いの共助が最も重要なのだ。そして公助には限界があるため、行政に頼りきらずに、自分たちで考えて行動する必要がある。そのためには個人が正しい情報をいち早く知ることが必須である。民間の小さなベンチャー企業が我々のために必死にこの情報を届け続けている。本当にありがとう、と言いたくなる一冊である。

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