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新型コロナウイルス感染症の世界的流行、ウクライナ危機と立て続けにサプライチェーンは困難に直面してきた。そして次に為替に悩まされることになった。1米ドル=126円。原稿執筆時点では20年ぶりの安値をつけている。
通貨供給量の点では、各国と比較して日本円は量的緩和を続けている。米国は経済が過熱しインフレ状態にあるため利上げに踏み切ったが、日本は本格的な景気の浮揚を見せておらず、利上げの決断は下されていない。
調達品の価格上昇は不可避
円安と円高のどちらが日本経済にメリットがあるか。産業構造が変わりつつあるとはいえ「輸出企業は円安に恩恵を受ける」と論者は言う。一方で違う論者は「中小企業は輸出比率が高くないために恩恵はない」と言う。
確かに輸出の多寡によって円換算時の恩恵は違うだろう。ただ、大企業であれ中小企業であれ、円安によって輸入コストが高くなるのは間違いがない。それに、エネルギー価格が低い状態での円安ならまだしも、エネルギー価格がただでさえ高い状態であるのに円安なのは、輸入を見れば負の影響が大きい。
筆者はサプライチェーンのコンサルティング業務に従業している。このところもっぱらサプライチェーン部門の課題は物不足にあった。半導体から原材料など、とにかく生産をつなぐための量を確保せねばならない。
同時に、物が確保できたとしても、雨後のたけのこのようにさまざまな物品の値上げ申請が生じている。それを認めなければ物量が調達できないためだ。日銀が発表する「企業物価指数」を見ると、2022年3月は前年同月比で9.5%も上昇している。苦しい局面だ。
多くの企業では調達品を値上げする場合には稟議(りんぎ)書が必要だ。以前のように、値上げを避けるためにどうするかという方針ではもはや対応しきれない。いかに値上げ幅を圧縮できるか、あるいは値上げに効率的な対応ができるか、に焦点はシフトしてきている。
現場での交渉風景
調達の現場では次のような茶番が繰り広げられている。
「値上げさせてください」
「理由は何ですか?」
「昨今の原材料高騰と、円安で……」
「またですか。値上げ幅はいくらですか?」
「20円です」
「えっ、それはおかしい。だって製品コストのうち原材料はせいぜい40円くらいでしょう。それが40円+20円=60円になるなら1.5倍じゃないですか。日本経済新聞を見たって、せいぜい1.2倍くらいにしかなっていない」
「しかし、弊社はこれまでもさまざまなコストを負担してきました」
「それでは、原材料高騰と円安を名目にした便乗値上げではないですか」
「いえ、これまでコストを負担してきたのは事実です。その分を値上げさせていただきたい。さらに、この製品は以前から利益が出ていません」
「それは別問題でしょう。逆に原材料が下落基調にある際に、積極的に価格を下げてもらったことだってありません」
「当製品は原価ギリギリで供給しておりまして、値下げ余地はありませんでした」
「……」
おそらく、販売側も調達側も自社を守るために懸命に、真面目に闘っている。しかし、真面目さはよいとしても、加えてある種の戦略性が必要ではないだろうか。
からの記事と詳細 ( エネルギー高と円安で値上げの夏が来る、戦略なしでは対応できない - ITpro )
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